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神戸の新しい魅力に出会うウェブマガジン

シタマチコウベ

Shitamachibudie

vol.51

伍魚福 代表取締役社長|山中 勧さんにまつわる4つのこと

目指すは、神戸で一番おもしろい会社

2022.12.19

長田区野田町に本社を置く、珍味メーカー「伍魚福(ごぎょふく)」。明治期に食品の製造加工業を始めたことを前身とし、1955年に設立された老舗企業です。神戸の銘品であるいかなごのくぎ煮などの伝統的な酒の肴から、チーズや生ハムなど世界の高級珍味まで、その品揃えはなんと約400種類。情熱と革新が詰まったおつまみの数々は、どのようにしてつくられているのでしょうか。本社前にある商品科学研究所を訪ね、伍魚福が生み出す“エンターテイニングフード”や地域との関わりについて、代表取締役社長の山中勧(かん)さんにお話を伺いました。

文:柿本康治 写真:岩本順平

 

神戸への帰郷と営業方針の転換

僕が幼いころは神戸海運郵便局の前に会社があって、その2階が自宅でした。夏休みにはシール貼りを手伝ってお駄賃をもらったり、祖母からは「あんたは後継ぎやで」と言われて育ったので、自然と会社を継ぐものだと思っていました。東京の大学を卒業して、伊藤忠商事で7年働きました。最初は法務部に配属されて、その後はアパレル部門の営業部に異動。ファブレス(工場を持たない会社)で協力工場に資材を預けて製品化するスタイルだったので、とても勉強になりましたね。その後、阪神・淡路大震災が起きて、前々から母に神戸に帰ってきてほしいと言われていたこともあり、伍魚福に転職しました。1年目は社長室長というポジションで営業に同行する、いわゆる経営企画のような仕事。「どうせ社長やるんやから」という父の鶴の一声で、2年目からいきなり営業部長になりました。そのころは酒類販売免許が規制緩和された時代で、酒屋の売上が見るみるうちに落ちていって。昔から酒屋をメインに商品を卸してきた伍魚福もいよいよピンチになりましたが、スーパーマーケットの商談展示会に出展したことをきっかけに商品が広まり、今では4000以上のスーパー等で取り扱っていただいています。2006年には社長に就任しましたが、原価はどんどん上がっていきますし、売れれば似た商品が市場に出てくるので、社員一丸となって常に新しい商品を生み出す努力を続けています。

 

合言葉は“エンターテイニング”

社内には「ヒット商品提案制度」があり、社員全員が商品企画に携わっています。WEB上のシステムにターゲットや想定ニーズなどを記入して毎月提出してもらうので、商品コンセプトを理論的に考えられるようになっています。採用されなかった企画は毎年「熱い思いをプレゼン大会」という行事で再提案できるようにしていて、今年10月は二葉町のふたば学舎講堂で行いました。十人十色な商品のアイデアが出てきますが、食べる楽しみを感じられる“エンターテイニングフード”であるかどうか、というのは大きなポイントです。人気商品の「備長炭のカシューナッツ」は、そのひとつのいい例かもしれません。竹炭フードが流行っていた2004年に“健康によいおつまみ”というコンセプトで開発した商品で、長田区にある工場に協力してもらい、ナッツを備長炭パウダーでコーティングしています。当初はあまり売れませんでしたが、リピーターが多くて販売を継続していました。そうしたら、商談展示会に参加したとき、僕らのブースに来たバーのマスターが「これ、うちの店で使っていますよ。ミックスナッツと混ぜて出したら、お客さんがびっくりしてくれるんです」と教えてくれて。僕らはてっきり、健康にいいから買ってくれるのだと思い込んでいたけれど、渡した相手が「何これ!?」と驚いてくれるからでした。買う動機が人を楽しませることにあると分かって、目から鱗な出来事でした。「エンターテイニング」という言葉には「人を楽しませる」「おもしろい」「もてなし」といった意味があって、伍魚福の商品やサービス、従業員、企業そのものを表すキーワードです。

 

試行錯誤が生み出した400種類

伍魚福の品揃えが豊富な理由は、協力工場にあります。全国に200社あって、どこでどんな商品がつくれるかを把握しています。たとえば、看板商品のひとつである「一夜干焼いか」の加工製造を担当するのは函館の工場。国産の冷凍していない“生”のイカを主原料としてこちらで製造してもらいますが、調味料などは協力工場のものを流用しています。したがって、協力会社も私たちも原材料の在庫リスクを抱えることなく製造できるのです。函館の工場には熟練の技を持つ職人さんたちがいて、水揚げされた新鮮なイカを手作業でさばき、ボイル、味付け、乾燥、二度焼きといった工程を経て、製品化されます。冷凍のイカを使えば価格は抑えられるけれど、旨みが損なわれる。生のイカであれば皮がはがれず、焼いて香ばしくなる。伍魚福は企業のテーマとして「珍味を極める」を掲げていて、一番こだわっているのはおいしさなので、価格が高くなるとしても生のイカを選びます。値段や量の勝負では他社には敵いませんが、味は絶対に裏切りません。よく売れるものは続けて、あまり売れないものはやめる。トライ・アンド・エラーを数十年積み重ねてきて、今ここに並んでいるのがその結果です。この品揃えは、よそで真似しようとしてもすぐにはできません。全国の協力工場と、伍魚福の味を信頼してくれるお客さまのおかげで生まれた、私たちの強みです。

 

社会への恩返しを忘れず

先々代は京都の山奥で製茶業を営んでいましたが、事業に失敗して神戸に出てきました。神戸でスルメ加工業をしましたが、1953年に再び倒産。二男である私の父が、占い師に「西のほうに工場がある」と言われて工場をみつけたそうです。さらに「5種類の魚を飴で炊いて、酒のつまみをつくったらもうかるぞ。『五魚福』という名前で売るといい」と言われて、そのまま社名にして兄と2人で創業しました。有限会社から株式会社になるときに、人を大事にしようということでにんべんを足して「伍魚福」になりました。不思議なご縁ですが、伍魚福は神戸でいかなごのくぎ煮をお土産品として最初に販売し始め、「くぎ煮」という商標をお預かりしています。それは名前を独占するためではありません。地域の方々とともに伝統の味を守り、神戸の銘品として育てていくためです。2009年に設立した「いかなごのくぎ煮振興協会」では伍魚福が事務局を務め、くぎ煮のコンテストや文学賞などを実施。2013年には、地元の漁協組合やまちづくり協議会ともご相談のうえ、駒林神社の大鳥居前に「いかなごのくぎ煮発祥の地」の石碑を建てさせていただきました。また、地域住民の方々が主体となって開催される「駒ヶ林いかなごウォークラリー」では、チェックポイントでお茶や梅ゼリーの提供、ゴールした皆さんに配る参加賞の協賛といった形で関わっています。地元の方にも愛される会社でありたいですね。会社を長く続けてこられたのは、お客さまや協力企業、生産者、従業員、そして社会のおかげですので、伍魚福が成長を続けることで社会にいいスパイラルを巻き起こし、地域にも恩返ししていきたいと考えています。

伍魚福
山中 勧

1966年、神戸市生まれ。慶應義塾大学法学部法律学科を卒業後、伊藤忠商事株式会社に入社。1995年、株式会社伍魚福に入社。2006年、代表取締役社長へ就任し、現在に至る。「神戸発のエンターテイニングフードを日本全国へ」を掲げ、マーケティングに特化した「ファブレス(工場なきメーカー)」で神戸銘品のくぎ煮や珍味など約400種類を製造販売している。

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