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shitamachi NUDIE vol.46

神戸映画資料館 支配人|田中範子さんにまつわる4つのこと

フィルムに残された、神戸の記憶

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    JR新長田駅から南へ徒歩5分。国道2号線に面したアスタくにづか1番館に「神戸映画資料館」はあります。映画フィルムや書籍、ポスター、機材などを収集・保存・公開する施設です。館内の待ち合いロビーで出迎えてくれた支配人の田中範子さんに、施設のことや神戸にまつわるフィルムのアーカイブ活動についてお話を伺いました。

    文:柿本康治 写真:岩本順平

     

    映像の世界に導かれて

    映画の仕事は希望して就いたわけではなく、実は趣味から始まったんです。失業していた時期に京都の自主映画館に客としてよく通っていたら、映画館の方に暇なことを気づかれて「少し手伝ってもらえないか」と声をかけられました。初めはボランティア程度でしたが、しばらくすると人手が足りないということで常勤スタッフに。その頃に、神戸映画資料館の館長である安井喜雄の存在を知りました。安井は昔から個人で映画作品の収集をしていて、1974年に大阪で仲間と始めた「プラネット映画資料図書館」から貴重なコレクションを借りて上映したりしていました。残念ながら働いていた映画館は閉館になって、「京都映画祭」の事務局の仕事をした後、「京都文化博物館」の映像部門で映写技師として数年間働きました。上映会のノウハウがあったことから、安井が梅田で始めた上映室にも関わっていたのですが、集めた資料を新長田に移して映画の文化施設をつくる計画が立ち上がって。そのとき私は東京にいたのですが、安井から「こんな話あんねんけど、支配人やりまへんか?」と言われて。当時は「アーカイブ」という言葉もまだ広く認知されていない時代でしたが、安井が行う活動の価値を理解していたので、力になれるならと神戸に来ることにしました。

     

    併設シアターのプログラム

    神戸映画資料館は2007年に開館して、収蔵するフィルムは現在18000本以上あります。国内にある民営の機関としては、最大規模のフィルムアーカイブといえます。併設のシアターは38席で小ぢんまりとしていますが、35mmのフィルム映写機を設置する本格的な映画館。基本的には、安井と相談しながら私が上映の計画を立てています。興行的な作品ではなく、古典映画や無声映画、ミニシアターからもこぼれ落ちた先鋭的な現代映画などを週末中心に上映しています。シアターに来る人の多くは、いわゆるシネフィルと呼ばれる50、60代の映画通。年齢層に偏りがあるので、最近は若い人に古典映画を観てもらうことに力を入れています。今年は古典映画の上映と映画研究者や映画作家による講義をセットにしたプログラムを組んで、「KOBEアート緊急支援事業(映画館支援)」の助成金を活用し、25歳以下の方の初回鑑賞料を無料にするキャンペーンを実施しました。若い人は1ヵ月前から優先予約できるようにした効果もあってか、今まで全体の1割にも満たなかった25歳以下の割合が、初回は3割ほどになったんです。1月は『サンライズ』(1927年)というモノクロのサイレント映画を上映したのですが、モノクロ映画を敬遠しがちな若年層にも響いていてうれしかったですね。音がない時代の映画は、画でいかに物語を語るかということを突きつめていたので、無声映画で映画術はすでに完成したともいわれているんです。だからこそ、映画好きな若い方や映画文法を学びたい方にはぜひ足を運んで観てもらいたいです。

     

    開かれたアーカイブ活動

    神戸映画資料館のあり方として「市民参加型のアーカイブ」があります。映画好きの一般市民とともにパンフレット・ポスター・チラシの整理を行い、専門家と一緒に研究対象となる資料の映画史的価値を探る活動です。膨大な数の資料の前に為す術もなく、アーカイブの整理を長年あきらめていましたが、映画や映像の研究者から資料閲覧や提供の相談が重なったときに「興味を持ってくれる人がいるなら、整理を手伝ってもらって、一緒に価値を見出だしていけばいい」と気づいたんです。地域との関わりという点で活動例をもうひとつ挙げるとすれば、毎年開催している「神戸発掘映画祭」(*1)がありますね。FMわぃわぃ(*2)代表の金千秋さんが実行委員長で、長田区の文化活動に深く関わる方々にも委員として参加いただくことで、私たちのマニアックな活動を開いていく機会になっています。発掘してアーカイブする映像は映画作品にかぎらず、昔の生活を映したホームムービーも含まれます。六甲登山を記録した1930年代のフィルムであったり、須磨別荘の全盛期に富裕層の暮らしを映したフィルムであったり。個人から寄贈されたものもあれば、骨董市などで購入したものもあります。神戸が舞台の映画や、神戸で撮影された映像を集めたリストを作成して、「 『神戸の映画』大探索」というイベントで上映したときは、立ち見客が出るほどの反響がありました。映画にはその時代の空気をまるごと記録して映すおもしろさがあり、自分が見知った神戸のまちがスクリーンに映されるよろこびがあるからでしょうか。

    *1 2009~2016年は「神戸ドキュメンタリー映画祭」という名称で開催。
    *2 長田区からインターネットラジオを配信する多文化・多言語コミュニティ放送局。

     

    映画が残る、このまちで

    幻の映画の発掘も、私たちの大きな成果です。たとえば、ウォルト・ディズニーが制作し、ミッキーマウスの原点となったといわれるキャラクター「オズワルド・ザ・ラッキー・ラビット」が主人公の短編アニメ「Neck’n’Neck」(1928年)もまた、この世に現存しないと考えられていた貴重なフィルムのひとつ。アニメ史研究家の渡辺泰さんが高校生の頃に購入したフィルムが寄贈され、当館で保管しています。2021年に開催されたロッテルダム国際映画祭ではその映像と、アニメ作家として知られる政岡憲三監督の劇映画「海の宮殿」の2本を提供しました。開館から15年続けてきても、収蔵庫にはまだまだ内容のわからないフィルムや、整理できていない資料が山ほどあるんです。この宝の山を広げて調べる場所がほしいし、活用する術をもっと模索していきたいな、と。常勤するスタッフは私ひとりで、まだまだ予算も人手も足りていない状況なので、解決するために知恵を出し合ってくれる仲間を求めています。全国を見ても、これだけ映像資料を持つ資料館はなかなかありません。小さな組織ですが、映画史の欠落を埋めるような活動をしており、収蔵する映像資料の中には神戸のまちの記録も含まれています。それらを神戸の人たちと一緒に大切にしていきたいです。

     

    神戸映画資料館 支配人
    田中範子(タナカ ノリコ)

    大阪府堺市生まれ。映画祭スタッフや映写技師等を経て、2007年の神戸映画資料館開館より支配人を務める。併設シアターの上映企画のほか、神戸映像アーカイブ実行委員会の事務局として、神戸発掘映画祭の実施や市民参加型のフィルムアーカイブ活動に取り組む。2019年に安井喜雄館長とともにNPO法人を立ち上げ、所蔵資料の調査・活用を進めている。

    神戸映画資料館 ホームページ
    https://kobe-eiga.net/

    掲載日 : 2022.03.17

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