文:竹内厚 写真:竹内厚、岩本順平
和田岬の交差点からひとつ路地奥へ。思いがけない場所で目にするお寺の門構えに驚かされるが、実はこちら、在留ベトナム人にとって欠かせない場所となっているベトナム寺。和楽寺こと、Chùa Hoà Lạc。
2011年にベトナム人のコミュニティで募金を募り、空き家となっていた建物を改装。2012年にお寺として場所を開いたという、界隈のみならず、全国の在留ベトナム人にもよく知られたお寺。
1階の扉を開くとたくさんの白菜がごろり、台所ではわしわしと料理中で驚く。年の瀬の取材だったので、忘年会の準備中だった。本堂は2階にあって、1階は集会所のような役割の場所だそう。
お参りの前後に一緒に食事をしたり、行事の日には食事を提供したり、ということがベトナム寺ではごく当たり前に行われている。ちなみに、お正月ともなれば1000〜1500人くらいの参拝者が集まるそう。
住職を務めるティック・ドゥック・チー僧侶は、2015年に来日。京都で学生をしていた頃に和楽寺を訪れ、2017年からお寺の活動を引き継いだ。ベトナムにいた頃はIT系企業で働いていたそう。
「このお寺の使命は3つあります。仏教の場、日本とベトナムの文化交流の場、そして、日本にたくさん来ている留学生や実習生の支援です。言語の壁で苦労したり、生活に困ったりしている人に食事や住まいを提供して、企業を見つけて仕事を紹介するようなこともやっています」。
「お寺は行くところじゃなくて、帰る場所だから」とチー僧侶。まさに駆け込み寺として、相談を受けたり、ともに食事をしたりがこちらの日常。
1階がお寺というよりは家みたいな雰囲気なのも、その使命を思えば自然なこと。もともと住宅だっただけに、コミュニティの場としても居心地がいい。
2階の本堂も拝見。平日夜のおつとめに通ってくる人もいる。
日本で見慣れた薄暗いお堂と違って、そのド派手さに目を奪われるが、これは、道を明るく照らすという理由から。「薄暗くてヒミツのある感じではなくて、ベトナムのお寺はとてもオープン。誰でもいつでも来てくださいということなんです」。
電光スタイルの光背は一時期広まったが、今では減ってきているそう。
本堂の一角には、日本で亡くなった留学生、実習生の遺影も数多く並んでいた。
「全国で年間50人くらいが亡くなっていますけど、そのうち半分から3分の1くらいはこちらに連絡があります」。葬儀を行い、遺骨や遺灰をベトナムへ送ることも和楽寺の役割になっている。
住宅街ど真ん中ということもあって、創建時はなかなか理解もとぼしく、周囲からの苦情もあったという。けれど、すでに10年以上が経ち、ご近所さんでお参りに来る人やお布施をする人もいるほどに。「私たちの存在意義が伝わったようでありがたいことです」。
現在では、在留ベトナム人だけでなく、日本に増えているフィリピン、ミャンマー、スリランカといった外国人支援にも乗り出した。
「日本の方もいつでもお越しください」とチー住職。日越支援会というNPO設立に向けても活動していると教えてくれた。
掲載日 : 2023.01.27