文:竹内厚 写真:竹内厚、岩本順平
和田岬にあるお好み焼き屋「高砂」といえば、今でも薪の火を使って調理をしているとして、最近ではSNSやネット記事でも話題の店ですが、あらためてその佇まいを眺めてみれば、見た目は住宅そのもの。奥の赤い庇がお店です。
開業62年目、3代目のおかあさんこと谷喜代子さんが店を切り盛りしている。
入店すると客席にいたお客さん、「これせな、帰らせてくれへんねん~」と冗談を言いながら、食べ終えた鉄板をきれいにしていた。聞けば、店を訪れて20年ほどになる常連さんで、今は加古川から通っていると。
和田岬の三菱に勤務して仕事帰りに立ち寄っていたのが、定年後もそのまま通い続けているお客さんも少なくない。
決して新しくない建物だが、鉄板まわりはぴかぴか。というのも、先の常連さんだけの力ではなく。
今でも毎朝6時にはおかあさんが店に入って仕込みとともに、鉄板を紙やすりで磨いていると教えてくれた。「汚れたん、嫌でしょ。1日の最初はきれいなんで焼きたいしな。」すごい。
すじ焼とモダン焼。美しい鉄板にシンプルなお好み焼きが映える。プレーンなお好み焼きにすじの食感がいいアクセントに。
店には焼台の鉄板がひとつと、お客さんがぐるりと8人ほど座れるテーブル席の鉄板があり、どちらもきれいに磨かれている。
おかあさんの前の焼台の下で薪が燃えている。その周りにも座れるため、こちらに座りたがる常連さん多数。「こっちとあっちでは味が違うんやて」。
―どうして薪の火で?
「昔はガスのほうが珍しかったんちゃう? うちは昔のまま。今さら変えられへん」。
―薪でやるのって大変じゃないですか。
「そら手間やで。薪を運んできて焚き付けして、釜や煙突の掃除もせなあかんし。種火はずっとつけとかなあかんから、そうそう居眠りもできん(笑)」。
―薪で調理するよさもありますか。
「火力が強いからガスよりは早くできます。焼きそばやったら2~3分かな。うちは持ち帰りも多いから、いっぺんにたくさん注文入ったときに便利。この鉄板の大きさでもお好み9枚は焼けるから、まあ、そこが私の腕やんか(笑)」。
実際、注文してから、体感的にはあっという間に出てくる感じ。これからの季節はカキも登場する。
使う薪は配達されていて、薪屋が神戸駅の近くに今もあるそう。最近ではピザ屋需要が増えているとか。店に煙突は必須。
特等席に座って話を聞かせてもらった。足もとから暖かくてほのかに薪の匂いも。たき火にあたっているような気持ちにもなる。
もちろん、関西のあの人気番組も来訪済み。「おばちゃんテレビにもよう出てるねん」。
ここでずっと読み続けている人がいる、ということで少年ジャンプ、週刊ポストに神戸新聞を常備。たしかに、ジャンプはこういう店でこそ読みたくなる。
実は、この建物が谷さんの生まれた家。震災までは別の場所に店があったが、そこが半壊したため、実家の半分を店へと改装したという。「せやから通勤費いらんねん。通勤時間も0分。けど、こっちの家もゆがんでるからな、箸を置いたらコロコロコロって転がるよ(笑)」。
ちなみに店を始めたのは、谷さんの姉が嫁いだ先のおねえさん。それを谷さんの姉が継ぎ、姉が亡くなった後、ホールを手伝っていた谷さんが引き継いだ。「(姉が亡くなったのが)急やったからね、教えてもらう間もなく。見よう見まねで覚えたやり方です」。
「この町もずいぶん変わったなぁ。コロナでまた暇になったし。でもまあ、あんまり肩ひじはらんとやってるよ」という谷さん、現在75歳。「めっちゃ元気、バケモンやねん(笑)」。
かっこよすぎ!
掲載日 : 2022.11.11