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まちの人々が集う、路地裏の喫茶店

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    リノベーションされた空き家や空きビルに伺い、どのような場所に生まれ変わったのかをリポートする不動産コラム。第10弾は、長田区にある路地のまち、駒ヶ林で2006年にオープンした「喫茶 初駒」。近所のマダムたちの拠り所にもなっている喫茶店ですが、板戸を挟んで「スタヂオ・カタリスト」の建築設計事務所が併設されています。淹れたてのコーヒーをいただきながら、所長の松原永季さんに物件との出会いや改修の内容について伺いました。

    密集市街地での空き家再生

    かつて漁村集落だった駒ヶ林は細い路地が入り組んでいて、独特の景観を残しています。路地整備の仕事で20年ほど前から地域と関わりがあったスタヂオ・カタリストの松原さんは、1軒の空き家と巡り合いました。継ぎ手が見つからない築130以上の古民家を会社で買い受けて、事務所として開いたのが2005年のこと。

    「まちづくりの支援を行う地域に拠点を移すことで、自分たちが当事者として駒ヶ林に関われるではないか、と考えていました。事務所を構えてみると、地域内には一人暮らしの高齢者が多く、気軽に立ち寄っておしゃべりを楽しめる場所が少なくなっていることに気づきました。この界隈には震災前に日本一の密度であったと言われる喫茶店を、空いたスペースで開いてみるといいのでは、とアイデアが浮かびました」

    *松原さんと駒ヶ林の関わりについては、以下記事もぜひご覧ください
    https://shitamachikobe.jp/nudie/6038

    お店づくりをするにあたって、ほかの人たちにとっても愛着のある場所になるよう、実測調査の段階から大学の先生や学生、行政の職員など、多くの人に参加してもらうことに。床材の解体、屋根裏部屋の漆喰塗り、床の古色塗装、土間の三和土(たたき)、庭の竹垣づくり。改修作業にはまちの人にも積極的に声をかけて、近隣に住む海外の人や子どもたちも手伝ってもらい、2006年にオープンすることができました。

    「店名の『初駒』は、駒ヶ林の路地整備を進めていたときに小路の名前を住民主体で決める機会があり、そこで採用されなかった名前がよかったので拝借して名付けました。駒ヶ林で初めてつくる場所ですし、字面や語感も気に入って採用した屋号です。オープンしてからの8年間は自治会長の奥さまに店長になってもらったので、町内の顔見知りの方々が多く来店。ご近所のマダムたちの集う場所として、婦人会など地域の会合の後の打ち合わせ場所として、にぎやかに使ってもらっていました」

    店長さんが引退後は基本的に週3〜4日オープンで、曜日ごとに店主が異なる営業形態に変わりました。さらには、駆け出しの農家が無農薬の有機野菜を販売したり、発明家を名乗る近所のおじさんが新しいアイデア商品を見せびらかしに来たり、新長田を舞台にしたアートプロジェクト「下町芸術祭」の展示会場として使われたり。多種多様な人々が顔の見える距離感で交わる場所として、機能していきました。

     

    改修前後の様子

    改修に掛かった日数は2ヵ月半ほどで、改装費は300万円ほど。木造平屋建ての喫茶スペースを中心に、改修前後の様子をご紹介します。

    【外観】
    台所につながるアルミの勝手口があった場所を、昔の間口の広さに戻し、建具を新しく入れ、初駒の入り口にした。以前よりもまちに対して開けていて、外を行き交う人の様子が伺える。


    【喫茶スペース】
    台所と茶の間をリノベーションして生まれた喫茶店。丹波篠山の土、石灰、にがりを調合して、土間たたきワークショップに参加した人たちと一緒に道具でたたいて固めた。床に小さく見える点は、駒ヶ林の浜から拾ってきた小石。京都の修学院離宮の一二三石(ひふみいし)をイメージして配置。

    【カウンター】
    ケヤキの無垢材を使ったカウンターは、仕事で交流のある兵庫県養父市の臼職人に、設計料の代わりに現物支給してもらったもの。喫茶店のイスは、廃校になった小学校の図工室で使われていたもの。壁材や家具、建具も古いものを再利用することで、親しみやすい空間になっている。


    【喫茶メニュー】
    コロナ禍以前は、曜日ごとに担当が変わっていた。たとえば、和田岬のメゾンムラタのパンを使ったサンドイッチを出すカフェ、ワインのように味や香りの違いが楽しめるコーヒー屋、元はお客さんだった人が始めたカレー屋など。緊急事態宣言中はお休みにしていたが、また新しい人が入って営業再開するそう。

    【事務所】
    畳を板張りに変えて、押し入れの扉を外した。作業机などの家具は譲ってもらったものか、DIYで作ったものがほとんど。板戸1枚隔てた初駒から届くまちの人々の声に時折耳を傾けながら、今日も机に向かっている。

     

    地域のつながりを育む

    漁村集落の名残がある駒ヶ林には、細い路地や木造建築の家が醸し出す独特な風情があります。まちに住み続ける理由はさまざまですが、日常的に接するまち固有の景色、そして初駒のような空間で育まれる住民同士のつながりはその大きな根拠になるのではないか、と松原さんのお話を聞きながら感じました。

    喫茶スペースは曜日固定で、1曜日あたり月3千円で貸し出していて、現在は利用者を募集中だそうです。時間帯など詳しい条件は、初駒でぜひコーヒーを味わいながら、スタヂオ・カタリストの方に伺ってみてください。「初駒」という店名には初めてつくる場所、という意味が込められていますが、誰かにとっては駒ヶ林と初めて関わるスタート地点にもなるのかもしれません。

    掲載日 : 2021.12.08

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