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神戸の新しい魅力に出会うウェブマガジン

シタマチコウベ

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10/30 下町芸術大学 横堀ふみ編「地域の中からアートプロジェクトを作り出すプロセスと可能性」

2018.12.19

10月30日、セルフリノベーションが進んでいる古民家、「旧合田邸」にて下町芸術大学第8回目「地域の中からアートプロジェクトを作り出すプロセスと可能性」が行われました。講師はNPO法人DANCE BOXでプログラムディレクターを務める横堀ふみさん。ベトナム人の夫を持つ妻であり、一児の母でもある横堀さんは新長田について、「新長田は子供を育てる環境が良く、ベトナム人コミュニティも充実している、そして何より自由な生き方をしている大人がたくさん存在する」と語りました。彼女の温かい新長田への愛、そして自らの仕事への誇りが感じられた講演内容を、紹介したいと思います。

レポート:辻本衣菜(神戸大学インターン)

舞台芸術製作のお仕事とは

まずはじめに自身を、「劇場をアイデンティティとした舞台芸術製作者」であると仰った横堀さん。舞台芸術プログラムを作成する時の着想は、バリ島の“芸能”、“生活”、“宗教”が結びついた暮らしから得ているそう。バリ島には各村に一つの楽団があり、子供からお年寄りまでみんなが楽しみながら参加しているそうで、そのようなプログラムを目指しているということでした。実際の製作にあたっては企画や広報、稽古スケジュールの管理など膨大な仕事がある中で、「アテンドが好き。アーティストを空港まで迎えに行くことがとても楽しい」と笑顔で話す彼女から、仕事へのやりがいや楽しさが生き生きと伝わってきました。しかし一番強く印象に残ったのは、彼女はプログラムを感覚的に作っている、というものです。インプットもアウトプットも、どちらもかなり感覚で行っていて、時には戸惑われることもあるほどだと話していました。

これまで企画した様々なプロジェクトの事例から

さて、続いては横堀さんが製作してきたアートプロジェクトの数々を紹介いただきました。その際、”共有言語”・“育て方”・“展開”・“アーティスト”という観点から一つ一つのプロジェクトについて掘り下げてお話いただきました。例えば「新長田ダンス事情」という企画は、食・音楽・歴史など、様々なものが絡み合った「ダンス」を共有言語としてダンスをしている人に会いにいき、5年間という年月をかけて育て上げたプログラムだそうです。この新長田で受け継がれているダンス事情から生まれたこのプログラムは新長田という地域の文脈を超えても成立するのか、という今後の展開も、プログラムを成長させるためにとても重要なことなのだと感じました。また、「KARAOKE BOX 長田のベトナムver.」という新長田に住むベトナム人とカラオケを通してショーをつくる企画もありました。これは当初、ベトナムの大衆演劇チェオを共有言語としていたが、ベトナム人のカラオケ人気により、間も無くカラオケに変わった、と話していました。この企画の育て方は、日越バイリンガルのチラシを作成したこと、そして、この企画の最終形を決めない、限界を与えないということでした。もう一つ、面白い企画がありました。「全国さきがけ」を共有言語として立ち上げられた「新長田アートマフィア」というものです。この企画には、公式の代表は存在せず、それぞれに与えられた役柄を楽しみながら演じ、主導権はみんなが持っているそうで、現在進行形で展開されてるプロジェクトです。

地域の公共空間が果たすもの

様々な企画を紹介しましたが、横堀さんはその企画を取り巻く地域の公共空間についても興味深いことを仰っていました。「宗教空間」では、定期的に人が集まることでコミュニティが形成され、情報の集積地として多くの”情報交換の場”となります。また「学校空間」や「福祉空間」では、幅広い層の人々が文化共有を行い、地域コミュニティと密着につながることで、”言葉や文化継承の場”となるのです。公共空間の中でも、彼女が最も熱く語っていたのは「劇場空間」でした。「劇場空間」とは、子供も大人も思想が相反する人も、生者、死者も共存する、個人が対等である場所。ただ劇場においては公共のサービスを受ける、提供するという関係ではなく、“公共”をともに考えて作る場だという意識を強く持っているのだと感じられた瞬間でした。

まとめ

アートプロジェクトの製作に興味がある私にとって、今回の講義はとても刺激的で、新たな知見と出会う貴重な体験となりました。最後に、最も感銘を受けた言葉を書いておきます。
「アートプロジェクトが必ず思い通りになるとは限らない。自分のビジョン通りに作るのではなく、その環境を作り上げる。そして最終的に作り上げたものが、成功する。」
どの場所にたどり着くかわからない中で、未知の部分を尊重し、楽しむことが、とても意義あることなのです。貴重なお話をしてくださった横堀ふみさん、本当にありがとうございました。

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