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9/28 下町芸術大学 沼田理衣編「ソーシャルインクルージョンをアートの現場から考える」

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    9月28日、下町芸術大学第2回目の講座が兵庫区西出町にある「ヤスダヤ」という、2017年に閉店した下町情緒溢れる居酒屋跡にて開催されました。今回のテーマは「ソーシャルインクルージョンをアートの現場から考える」。地域の未来やそこに住む多様な人々と関係性を作り上げていくとはどういうことなのか。お話しいただくのは、大阪市立大学准教授の沼田理衣さん。沼田さんが専門とするアートマネジメントでは、芸術的な観点を主とするのか、それとも教育や町おこしなどの社会性を目的とするべきか。アートに関係する領域において避けては通れないアートプロジェクトが持つ目的の二面性、両者の折り合いをどうすべきかについても伺いながら、テーマについて深く考えさせられる講座でした。

    レポート:荒井凛(神戸大学インターン)

    音楽を介してコミュニティにアプローチ 沼田里依さん


    大阪市立大学准教授である沼田里衣さんは、初め音楽療法を専門としたセラピストとして障害のある方などに向けた活動をしていましたが、やがて領域を移行してアートマネジメントに関わるように。そのわけは、音楽療法の中に問題があると考えたからだそうです。音楽と障害のある方、セラピストとクライアント、これらの関係性において、セラピストは果たしてクライアントの社会性を育み、自立を促すことができているのか。疑問に思った沼田さんは、自分が具体的にできることは何かを模索しました。その結果、障害のある方の生活の中にも音楽が当たり前のようにある社会を作りたいと思いアートマネジメントに携わるようになったのです。その中でも新しいものを自分で作り出すことに重点を置き、コミュニティアートを専門としました。コミュニティアートとは、アートを媒介にしてアーティストや市民などが協働し、コミュニティの抱える問題に取り組む活動のことです。

    地域に根付いた文化と現代アートとの融合「運河の音楽」

    2009年に開催された「運河の音楽」のチラシ

    沼田さんが手がけたプロジェクトに「運河の音楽」というものがあります。これを例にアートマネジメントについて説明してくださいました。
    運河の音楽とは、約6.5キロある兵庫運河沿いにアーティストを配置し、運河に沿って移動しながら順番にアーティストの作品に出会っていくという音楽を軸としたアートプロジェクト。アーティストの層は幅広く、子どもや学生、地域の方々にまで及びます。

    「運河の音楽」は、まずほら吹き師によるほらの音で始まります。その後、地元の音楽隊が演奏しながら運河沿いを練り歩き観客はそれについていく。道中では、神戸大学アカペラサークルによる声楽や、子どもたちによるダンス、日頃から兵庫運河沿いで演奏している地元の人のハーモニカ演奏などが披露されました。
    総勢230人が出演した大規模なこのプロジェクトを成立させるには、地域の方々との繋がりが必須であったと沼田さんは語ります。地域に住む人々にはその地域独自のコミュニティがすでに存在しています。そのため、沼田さんが一部の人に呼びかければ、それが呼び水となってどんどん参加者や会場が見つかったそう。どういうことかというと、コミュニティの中の一人に対して働きかけると、その一人がコミュニティ内に「面白そうなことがある!」と発信していく仕組みなのです。「運河の音楽」を振り返り、「男女の関係がけっこう重要だった」とユニークな意見も。例えば、「運河の音楽」に参加していたゲストアーティストの野村幸弘さんという方はとても爽やかな好青年で、当時女子の割合が大きかった神戸大学生に人気があったとか。
    プロジェクトを立ち上げる際には、“どの年齢のどのような人がどういう人と一緒にいると心地良いか”に左右されることが多いことがよく分かりました。
    また、アートマネジメントにおいて最も課題となるのが、アートへの情熱・欲求と社会的な利益との結びつきを言語化すること。助成金獲得はまさにその典型で、ただ単にアートへの欲求を提示するだけでは認めてもらえないことが多いそうです。しかし、その問題について沼田さんは、アートプロジェクト自体が社会的な役割を果たすこともある、と言います。なぜなら、アートプロジェクトはコンサート会場などのクローズな空間だけでなく、野外などのオルタナティブスペースを用いて日常の動線の中でアートの意義を伝えることができるからです。そのため、アートプロジェクトと社会問題は無関係ではないと沼田さんは考えています。プロジェクトを作り出すに上で大切なことを教えていただきました。

    知的な障害のある人を含むアーティスト大集団 「音遊びの会」

    (提供:音遊びの会)「音遊びの会」の演奏風景

    次に、沼田さんが代表を務めた「音遊びの会」についても紹介いただきました。「音遊びの会」とは、2005年結成された、知的障害のある人を含むアーティスト集団です。「運河の音楽」でも演奏を披露し、活躍していたそう。

    前述したように、沼田さんは音楽療法においてセラピストとクライアントの関係性において障害者の方の社会性を育むことができるのか思い悩んでいました。その経験から、「音遊びの会」では障害のある方が受け身ではなく自分から動くことに重きを置くようにしたそうです。つまり、ただ楽器の弾き方を教えてもらうのではなく、「自分の音を作る」という意識を持つような働きかけが為されるのです。「音遊びの会」の映像では障害のある方が画面の中を自由に動き回りながら演奏をしており、見ているこちらまで「音楽を作ろう」という意志が伝わってきます。また、「音遊びの会」には障害のある方や一般の方のほかにプロのアーティストがおり、彼らの演奏は今までに聴いたことのない新しい音を作り出しています。しかし団体の中でプロの方の発言力が強くなることも多く、障害のある方や一般の方と完全に対等な立場で意見を言い合うことが難しい場面が多々あるそうです。課題に取り組み、解決に向け意欲的に突き進む気概が伺えました。

    質疑応答

    最後に、受講者の方々と質疑応答がおこなわれました。

    受講者:アートという言葉を多用されていましたが、沼田さんはアートやコミュニティアートをどのように捉えていますか?
    沼田:アートにおける、作りたい、生み出したいという欲求は他人に伝えることがとても難しいものです。それをどうマネジメントし、生き生きとしたライブ感を作り出すかが重要になってくると思います。
    日本においてコミュニティ音楽療法という音楽療法の一部はまだあまり知られていませんが、コミュニティアートは徐々に浸透しつつあります。コミュニティ音楽療法では、セラピストとクライアントとの関係ではなくコミュニティの中で問題を取り上げる意識を大事にしています。

    今回は沼田さんが携わったプロジェクトの事例からアートについて考えるという内容でした。アートマネジメント、音楽療法など様々な観点から見たアートは他人から作品として見てもらうことが難しく、だからこそマネジメントにより伝えていくこと、社会的観点と繋げる工夫が重要なのだと分かりました。

    掲載日 : 2018.11.27

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