11月6日、NPO法人FMわぃわぃ代表理事を務める金千秋さんをお招きして下町芸術祭第9回「多様性を地域資源としての意味を付加する」が行われました。場所は路地裏百貨店、裸電球や藺草の香る畳が昭和を感じさせる風情ある建物。現在は若手クリエイターの住居になっていますが、以前は町から集まってきた古道具やアンティークなどの雑貨を扱うお店だったそう。
今回のテーマには「移住してきた人たちと既存コミュニティのつながり方」というサブタイトルがついており、長田区の特徴である人種の多様性を地域資源としてどのように活かしていくのか、というものを軸に講演していただきました。
レポート:辻本衣菜(神戸大学インターン)
長田区における文化の多様性
現在、FMわいわいの代表理事としてご活躍している金千秋さんですが、ある出来事が起きるまでは在日コリアン2世の夫を持つ普通の主婦でした。そんな金さんにとって契機となった出来事は1995年、新長田に甚大な被害を及ぼした平成の大災害の一つである「阪神・淡路大震災」です。この大地震によって6433人もの尊い命が奪われましたが、そのうちの174人は外国人でした。被災した地域の中で外国人死亡者数が多いのは、神戸市、とりわけ長田区がその中でも多かったようです。長田区は神戸港の元となる兵庫津やお寺などが多く、人と文化が出入りして滞留する場所で、歴史的に多様な人々が流入する地域だったのです。そのため外国人コミュニティが発達し、阪神・淡路大震災での外国人死亡者が増えてしまったと考えられるようです。
震災とラジオ
このように外国人との関わりが深い長田で阪神・淡路大震災が起こったとき、世界初の災害ラジオ「FMわいわい」が誕生しました。災害がきっかけとなり、自助・共助という思想や問題解決への意識が生まれ、運動団体ではない市民活動が萌芽したのです。「FMわいわい」の原点は、在日コリアンから始まった海賊ラジオ放送「ヨボセヨ(韓国語でこんにちは)」でした。日本で生きる在日コリアンが抱いていた不安を、共に暮らし共に生きる安心へと変えるため、現代のSNSのようにラジオを活用し、皆と繋がる。そこから視点を広げ、多言語でラジオを流してみたらどうだろうか、と発展し現在の「FMわいわい」が産声をあげたのです。現在「FMわいわい」はコミュニティラジオとして、在日コリアンだけでなく他の外国人や高齢者、障害を持つ方々など、誰もが繋がることのできる場所を提供し続けています。みんなそれぞれが受信・発信する、そして共有する。「災害で壊れた街を元どおりにするのではなく、誰もが住みたい街を新しく作り上げる必要があるのではないか?」そう語った金さんの力強い声が、忘れられません。誰もが自分らしく生きることができる場の尊さを感じた瞬間でした。
多文化共生ガーデン
金さんは現在、緑化推進構想と地域の特徴を生かした新しいプロジェクト「多文化共生ガーデン」を構想しています。長田の抱える社会的課題、例えば地域の緑地不足や空き家空き地問題を、多文化共生をキーワードとした緑化推進で解決していくという構想です。人の不安となる空き家や空き地、空洞化された土地を有効的に活用することで、地域の多様性を力としてより良い地域を創成する。パクチーや空芯菜、ヘチマを植えて食べる収穫祭を企画するなど、金さんが描く地域コミュニティへのアプローチを生き生きと語ってくださいました。
今回は「多様性を地域資源としての意味を付加する」という視点から地方創生の構想や、人種を超えて町は共生するという新たな気付きを得ることができました。最後に、一番印象的だった言葉を紹介します。
「誰もが自分のままでいい、誰もが“このまち”の一員だと感じること」
金千秋さん、力強く心に響く温かい講義を本当にありがとうございました。
掲載日 : 2019.01.06