STAYHOME特別企画「下町選書」、第4弾では、出版社さりげなくの代表・編集者の稲垣佳乃子さんに本を選んでいただきました。稲垣さんは、企画や編集を生業にし、様々な場所で媒体にとらわれない企画編集を手掛けられています。
ストローの音が聞こえて、自意識
『まともがゆれる』
著者:木ノ戸昌幸
出版社:朝日出版社
パックのジュースをストローで飲むとき、「ずずずずずっずずず」と音が出るのが恥ずかしくてたまらない時期があった。仕方ないことだと思っていても下品な飲み方をしている気がしてならない。ちょっとゆっくりストローを吸ってみたりすることも多々。これは、そう、いわゆる自意識だ。(ちなみにストローをパックの底の方までぐっと挿すと音が出にくくなるのを教えてもらった。それからというもの、音はしなくなった。一安心。)自分のちっぽけな自意識の存在に気づく。私たちは、あらゆる所で、自意識と立ち向かうことになる。だけどね、他人は思っているほど、自分を見ていない。自分への期待に押しつぶされて、がっかりするのはやめにしよう。「自分らしさ」と戦う自分の「らしさ」とは何だろうかと思うが、結局何もないはずなのだ。別に何もなくても、生きていけるという当たり前のことに、私はようやく納得できた。
想像を超えた起源
『おむすびの転がる町』
著者:panpanya
出版社:白泉社
全ての事柄には「起源」が存在している。物事のおこり、始めである。例えば、マグカップの起源を調べてみよう。「今から1万2000年前の新石器時代までさかのぼる。現在確認されている一番古いカップは、日本や中国の地層から発見されている。 つまり、マグカップの起源は日本にある。しかし、この頃のカップは粘土を固め、飲み物がこぼれないようにしただけの器だったという。この器が進化していきマグカップになる」うん、そうだろうな。想像通りだった。他の例は自分で探してください。私たちは、想像できない起源に出会ったとき、そこにロマンを感じる。おむすびの転がる町には、ロマンが詰まっている。これは誰も想像しえなかった、とあるものの起源の物語だ。私はこのロマンに飲み込まれ、まんまと3冊購入してしまった。
本の隙間にいる人たちを読む
『本をつくる』
著者:鳥海修、高岡昌生、美篶堂
取材・文:永岡綾 企画:本づくり協会
出版社:河出書房新社
私は出版社をしている。新刊を書店へ配達していた際、1冊破損してしまったそうで佐川急便からお詫びの連絡があった。うちの梱包が甘かったからなので、チームで気をつけようと話をした。弊社のメンバーが佐川急便に送ったメールが気に入っていて、時々読み返す。「破損した本を自宅に返送していただくことは可能でしょうか?今後の参考にしたいのと、大切に作った本ですので売れなくなっても捨てたりすることだけは避けたいと思っています」こんな時代に、一冊の本にどうしようもない愛着を持つのはなぜだろう。想いを込めてつくったものなんて、この世にやまほどあるはずだ。どんなものにもストーリーはあるはずだ。なのに、本は特別なのだ。本を作っている見えない存在に想いを馳せるだけで、私はいつも泣きそうになる。
家では、あまり変わったことをせずたんたんと生活を。生活をしているとあっという間に日は暮れる。時間は経つし、眠くなるし、寝て起きての繰り返し。
最近は、花が綺麗な季節なので、@sakezukino_kabinというインスタを始めました。こんなときにこそ本をと言われたりしているけれど、どんなときでも本はいいなと思います。
さりげなく:https://www.sarigenaku.net/
出版社さりげなく代表・編集者
稲垣佳乃子さん
1993年生まれ。神戸出身。企画や編集を生業にする。 出版社さりげなくの代表。
掲載日 : 2020.06.01