shitamachiNUDIE vol.1でご紹介した、山崎正夫さん(SHARE WOODS)が工房をマルナカ工作所から「MAR_U」という名前をつけて、数人のデザイナーがシェアしはじめていると聞き、久しぶりに取材に訪れました。地下鉄ハーバーランド駅から海側へ10分ほど歩いた場所に広がる造船街は、相変わらずのシタマチ風情。この街の風景を残したいと語っていた山崎さんの取り組みは、少しずつ結実しているのでしょうか。今回は、山崎さんと、MARUをシェア工房として利用している家具作家の馬場田さん、家具デザイナーの池内さんにお話を伺いました。
文:則直建都 写真:岩本順平
3年前の理想のカタチに近づいている
山崎:この工房は一般の人も使えるシェア工房としてオープンしようとしたんだけど、機械を使いこなせる一般の人が少なくて、思ったようには運営できてなかったんですよ。その頃は、昔からの仕事仲間で、SHARE WOODSの仕事を手伝ってくれてた馬場田くんと僕の二人でこの工場を使っていました。そこから、彼の後輩や教え子が出入りしはじめて、1年後には彼らがこの場所をシェアしはじめたんです。一般の人からプロへとシェアする人は変わったけど、3年前の理想のカタチには近づいている気がしますね。
馬場田:元々、山崎さんは、僕が芸工大(神戸芸術工科大学)で実習助手をしている時の取引先だったんですよね。で、僕が転職するタイミングの時に旧マルナカ工作所の工場を借りて活動される山崎さんに興味があり、相談に行ったのがきっかけで、工作機械を使いに来るようになりました。ちょうどその頃に、僕の教え子だった池内くんもデザインをカタチにするための場所を探していたのでシェアしてみないかと誘ったんです。
池内:僕は毎日使うというより、実験的にモノを作れる場所を探していたのでシェアというくらいがちょうどいい。あと、馬場田さんの仕事を手伝うこともあったのでよかったですね。今もそれぞれに屋号を持って活動しているけど、協働もする。そんな関係性でMARUをシェアしています。
シェアしているのは工作機械とやる気。時々仕事。
馬場田:工作機械はなかなか個人で初期投資するにはリスクもあるので、シェアはいいカタチだと思います。あと、誰かがいると、作業が捗るんですよね。僕はすぐ休憩したくなる性格なんですけど、池内くんは黙々とよく働くから(笑)それに、一緒に仕事をすると気がつくところが違ったり、しょうもないことを言って気が楽になったり、けっこういいことが多い。
山崎:馬場田くんがMARUに来てくれてからSHARE WOODSの仕事の幅が広がりました。これまで制作できなかった天板や椅子も受注できるようになったし、六甲山鉛筆のデザインや加工も彼が手がけています。
馬場田:僕は、山崎さんがSHARE WOODSとして受注してきた案件の設計や制作をお手伝いしてるんです。いまはSHARE WOODの仕事を月○○時間と決めて、残りの時間を個人の仕事に充てています。個人の方が忙しくなってきたら山崎さんと相談して調整させてもらったり、案件が重なって僕の手だけでは足りなくなってきたら池内くんに手伝ってもらったり、そんな関係性ですね。
池内:MARUに来る前からですが、自分以外の人がデザインしたモノも制作しています。その人が何を考えてこのかたちにしたのかを制作しながら紐解くことは、自分のアップデートに繋がると思っているので。僕は独立して3年目なので、自分自身のデザイン業にしっかりウエイトをおきつつ、馬場田さんの仕事など、他の方の案件も関われたらいいなと思っています。
MARUだからできること
馬場田:MARUでは、六甲山の木を使って角材からスツールをつくるワークショップを、これまで4回ほどやりました。大学で教えていたこともあり、作ることを伝えていく、教えていくことが好きなんですよね。このワークショップでは、一般の方を対象に3日間で座面が編み細工になっている本格的なスツールを作ってもらうのですが、初日と最終日の顔が全然違う。それに、このワークショップを体験するとモノの見方が変わって、モノの”買い方”も変わると思います。自分でモノを作れるようになると、「これは凝ってる」「これは1日で作れそう」という感じでモノの価値が分かってくるんです。MARUは基本的にはプロのシェア工房ですけど、ワークショップで一般の方とも関われる点が好きですね。誰かに教えるから自分も教えられるというか、教えることで相手にも自分にも何かが残っていく感覚が好きなんですよね。
池内:僕が誰かに教えるとなると、スツールを作るのではなく「座るって何?」とか「座るためには何が必要?」ということを考えて実際プロトタイプなり、かたちにするワークショプになりそうです。「普段、家では荷物置きになってる。じゃあ来客があった時用のときどきスツールを考えてみよう」みたいな。そうやって、思考を深めていくことで今までにないカテゴリのモノを生み出したり、その生み出されたモノを見た人が何を考えるかを「考える」ことが好きで、思考する時間を提供することが良いもののサイクルになると思うので。
モノを作る意味
池内:僕は「カテゴリにとらわれないニュートラルなモノを作ることで、消費を良い方向にシフトさせられるんじゃないか?」というようなことをよく考えるのですが、モノの価値に対する考え方を変えるためには結局、既存のカテゴリに当てはめないと伝わらないんじゃないかというジレンマに悩まされるんですよね。少し前に、デザインを考え抜いたオブジェのようなデスク用品を海外の展示会で発表して、数年経った時、ロンドンのデザインとアートをセレクトしたショップで取り扱いたいと連絡があったけど、商品になっていないものだった。自分がメーカーとして販売しようとしたけど、ロットと金額が合わなくて。そうなると、僕ひとりの手では無理だな…ということでその話は頓挫してしまいました。ただ、ものが飽和した状態にある社会で、可能性の提案はできているという実感には繋がった。でこういったことを家で一人で考えているとお酒が進みすぎてしまう…(笑) MARUに来て馬場田さんと話したり、プロトタイプを制作したり、他の人がデザインしたモノを形にすることはとても良い時間になっています。
馬場田:僕は「こんだけモノが溢れてる世の中でモノを作る意味ってあるんかな」って考えたこともあったけど、一人で六甲山に登って、木を切って、どう使うか頭をひねってる山崎さんと出会って考えが変わったかな。というのも、SHARE WOODSの木の循環の話を消費者に伝えようとする時に、やっぱりモノにしないと伝わりにくいんですよね。カタチのないものは、カタチにしないと伝わらないというか。そんな時に、池内くんの考えるチカラと、そこから生まれてくるアイデアが必要になってくるんです。MARUは機械をシェアする工房としてスタートしましたが、そこに人が集まることで技術・経験・考えのシェアも始まりました。これから新しいメンバーが増えるかは分かりませんが、ここから新しいモノを生み出して行きたいと考えています。
ウッドデザイナー
馬場田研吾
1981年兵庫県西宮市生まれ。神戸芸術工科大学卒業。岡山県のオリジナル家具工房、大阪の家具メーカーに勤務した後、神戸芸術工科大学プロダクトデザイン学科で実習助手として勤務。2013年に神戸芸術工科大学大学院芸術工学研究科修士課程修了。身近な人のためにオリジナル家具を製作したり、展示・ワークショップも行っている。
プロダクトデザイナー
池内宏行
1985年兵庫県生まれ、神戸芸術工科大学芸術工学研究科アート専攻修士課程修了。2018年3月まで神戸芸術工科大学で実習助手として勤務し、DESIGN SOILプロジェクトメンバーとして製作指導を行なっていた。2018年よりHIROYUKI IKEUCHI STUDIOとして本格的に活動を開始。国内外に作品を出展及び企業との商品開発のほか個人宅の家具デザイン・製作も行なっている。
掲載日 : 2021.01.22