DOR 合田昌宏さん、岩本順平さんにまつわる5つのこと 地域のつながりから生まれる仕事と生活

六間道商店街でレンタルスペース「r3(アールサン)」を経営しながら、4児の父親として、町の多様な担い手として、活動する「創る人」合田昌宏さん。写真家としてだけでなく、下町芸術祭やDANCE BOXの運営などアート分野でも幅広く活動する岩本順平さん。生業も年齢もバラバラの2人が2017年にクリエイティブユニット「DOR」を立ち上げました。神戸のクリエイターが地元で活躍できるような仕組みをつくりたい。「デザインの地産地消」を掲げるDORのお二人に、新長田から発信する想いをお聞きしました。

文:岩埼雅美 写真:白石卓也


寛容性のある町だからこそできる仕事(岩本)

岩本:僕が新長田に関わるようになったのは、ここ4年くらいの話なんです。二十歳の時、カメラマンとして独立していたんですが、うまくいかなくなった時期があって。写真だけじゃ食べていけなかったので、飲み屋で知り合ったデザイナーの事務所に転がり込んでデザインのことを教えてもらっていました。そんな時に、新長田で劇場を運営するDANCE BOXが広報担当を募集していることを聞いて、飛び込んだのがきっかけです。そこから仕事の幅がかなり広がって、2015年には下町芸術祭の事務局長をしたり。様々なプロジェクトに関わるなかで「仕事は待つんじゃなくて生み出すものだ」と気づき、この発想がDORをはじめたきっかけにもなっています。僕の仕事はアートやデザインなど、地元の方からはちょっと理解されづらいものなんです。にも関わらず、のびのびと活動できているのは、新長田が外国にルーツを持つ人が多く、異文化に対して受け入れ合うわけではないけど認めている寛容性のある町だからだと思います。あとは、喧嘩しながらでも、町のおじさん達がしっかりと守ってくれているから。だからこそ、僕たちは町の人にいかに信頼し、期待してもらえるのか、そしてその期待を超えていけるのかが大事だと思っています。そして、この町にいかにお金を落とすか。だから365日のうち、300日は新長田で飲んでいます(笑)

町の銭湯から生まれたコミュニティ(合田)

合田:僕はもともと新開地で両親と妻と息子で暮らしていたんですけど、やっぱり自分たちの好きな空間に住みたいと思って、古くて手を加えられる家を探していました。それで見つかったのが新長田の古い文化住宅。新長田で酒屋を営む昔からの知り合いに、その物件を紹介していただいたんですけど、引越しの条件が新長田で民生委員に入ることだったんですよ(笑)。その民生委員を担当すると、ついてくる役職がたくさんあって、多い時には年間20の肩書きを持っていたこともありました。僕が今、何でも屋さんだと思われがちなのはそのためかもしれませんね。引っ越した家は本当に古くて、お風呂がなかったんです。でも自分たちの空間を作りたくて手に入れた家なので、半年間かけて自分でお風呂をつくりました。お風呂ができるまでの間通っていた、近くの銭湯「萬歳湯」さんは、地元の人たちが集まるお風呂屋さんで。息子がまだ小さかったので、僕が体を洗っている間、近所のおじいちゃんおばあちゃんが待合室で抱っこしてくれていたり。今思うと、子どもを介してお風呂屋さんでいろんな人との繋がりができていったんですよね。

木があることで生まれる豊かな空間(合田)

合田:「r3(アールサン)」がオープンする前は、六間道5丁目商店街にあった子育て支援NPOの空間を引き継いで、レンタルスペース「wina(ワイナ)の森」を運営していました。当時は本当に人通りの少ない商店街でしたが、イベントをしかけると人が集まってくるんですよね。だから、神戸市の商店街活性化プロジェクトで3軒の空き店舗を使って、「寺子屋wina」、「健康wina」、「レンタルwina」を半年間限定でオープンすると、予想以上に人が集まって。半年だけで終わるのはもったいないし、もっと広い、自分の好きな空間をつくろうと思って生まれたのが「r3」です。「r3」をつくるときに、普通の工事をしてもおもしろくないので、壁のクロスめくりとか、子ども達に手伝ってもらいながら作業をしていたら、いつの間にか近所の子が手伝ってくれたりして。「r3」のど真ん中には、どーんと木が立っているんですが、これは内装が決まる前、一番最初に立てました。まっすぐじゃない、ちょっとじゃまな、重たい木なんですけど、それがおもしろいなと感じて。自宅にも、建築では使われない、製材されていない松の木を柱として立てているのですが、木があるだけで空間が豊かになるんですよ。「r3」にも木を立てたことで、いろんな人やものが集まる空間になった気がします。人が人を呼ぶように、人が集まることで、仕事や生活が生まれています。

地域の仕事は、地域のクリエイターが担う(岩本)

岩本:僕と合田さんは、歳が18離れているんです。合田さんと知り合ったのは、「下町芸術祭2015」の実行委員会でした。合田さんは実行委員で、僕は事務局長。当時、僕はまだ新長田に引っ越してきて間もなかったこともあり、町のこととか色々教えてもらいました。「下町芸術祭」は移住促進や地域活性としての役割も担っているので、行政や企業の方との関わりが増えたんです。その中で、クリエイティブな大きな案件は、広告代理店に流れてしまっていて、地域のクリエイターに入ってくる仕事はかなり少ないという現実を知りました。なんだか気にくわないなぁと。(笑)「下町芸術祭」をきっかけに引っ越してきた人も、ここでは仕事がないから、仕事を求めて他府県に出てしまっていた状況で。神戸は創造都市で企業も多いのに、本当に仕事がないのか?と疑問を感じたんです。だから芸術祭に関わっている方に、どういう状況になれば発注するのかと尋ねてみると、個人事業主には発注しづらいことを知ったんです。だから、付き合いのある仲間と仕事を生み出していくために「DOR」をつくりました。地域の仕事は地域のクリエイターが担い、地域の中で仕事やお金が循環するのが一番いいと思うんです。最終的には、地域の発注元とクリエイターが直接つながっていくのが理想なので、いつかのタイミングで、「DOR」はなくなってもいいなぁ、と思っています。

DORの使命は「デザインの地産地消」

岩本:「シタマチコウベ」の取材でいろんな方から話を聞いて、地域の中で仕事を回していくときに、一番大変なことは、予算とスケジュール管理だと知りました。建築の場合だと、国産材より当然外国産材の方が安いし。個人のクリエイターの方たちと仕事をするとスケジュールが遅れることだってあるし。でも、僕たちはビジネスライクな仕事をしたいわけではないので、お金や時間がかかっても、地域の産業を残していくような仕事をしていきたいですよね。

合田:世の中、コスト重視で仕事が外に流れてしまっているけど、決してそれでクオリティの高いものができているわけじゃない。重要なのは金額じゃなくて、地域の仕事が地域の人たちで回って、クオリティが担保できること。仕事によって人が繋がり、その繋がりから新たな仕事が生まれて循環していくのが理想的ですね。その流れを生み出すのが、「デザインの地産地消」を掲げるDORの使命かもしれない。

岩本:DORをそんなに大きくするつもりはないけど、できることがあるなら、手を広げていきたいですね。でも僕たちの目が届く範囲なんて限られているので、神戸市西部で考えていけるといいな、と。

合田:そもそも僕は夢を持たない主義なので、DORが今後どうなるのかは考えてないです。でも、何か困っていることや、仕事の依頼があれば、真摯に向かい合うっていうのが僕たちのスタンス。だから、DORは常に間口を広くとって、いつでも動きやすい態勢でいたいですね。