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神戸の新しい魅力に出会うウェブマガジン

シタマチコウベ

Shitamachibudie

vol.31

明後日デザイン制作所|近藤聡さんにまつわる4つのこと

ときには「あさっての方向」を向いてみたり

2020.05.29

“あさっての近藤さん”といえば、神戸でデザイナーを探しているとまず挙がってくる名前のひとり。グラフィックデザイナーの近藤聡さん。ハーバーランド駅から徒歩5分、川崎重工の工場まちとハーバーランドのまさに境目にあるビルのワンフロアで「明後日デザイン制作所」を構えています。 2010年に独立して神戸で事務所を開き、以来、着実に仕事を積み重ねて、街で近藤さんの手がけたデザインを見かけることが増えてきました。そもそも近藤さんはどうして神戸の下町に事務所を持ったのか。“神戸のデザイン”という言葉で言い表されるものって何!? そのあたりを突っ込んで聞いてみました。

文:竹内厚 写真:岩本順平

 

神戸らしいデザインって何だ⁉

仕事をしている中で、神戸っぽいデザインを求められることはあります。だけど、ほんとの意味ではよくわからない、というのが正直なところ。確かに、昔から言われてきた港町や異国情緒のイメージはあると思います。ただ、それが今もそのまま通用するのかどうか。「らしさ」って、ビジュアルだけに現れるものではないですしね。ポートタワーやかもめといったモチーフはわかりやすくて私も使ったことありますけど、そういったモチーフの話ではなく、デザインのトーンとして伝えられる神戸らしさって何でしょうね。老舗のお店のパッケージとかでよく見かける、印象的な文字や版画などの仕事が街にあふれることで、そこから神戸の印象が形作られるということもあるかもしれません。

特に求められる場合以外には、そこまで神戸を意識して仕事をしているわけではないし、生まれ育ちが大阪、和歌山なので、神戸のデザイナーと言われると違和感を持っていた時期もありました。だけど、神戸の街と関わる仕事が増えていく中で、手がけたデザインが街に広がっていけば、それもひとつの神戸のイメージになっていくのかな。そういう意味で、元町にできた洋菓子屋さんは、「BISPOCKE(ビスポッケ)」という名前も含めて、ブランディング、グラフィック全般を担当させていただいたので、こういった仕事も神戸のイメージにつながっていく要素になっていればうれしいです。

 

 

にぎやかな事務所スペースを間借りした体験

勤めていた大阪の事務所(三木健デザイン事務所)から独立したのが2010年のこと。いざ自分の事務所を持つとなった時に、どこにしようか、大阪も含めてあちこちをうろうろと歩いたりもしました。都心部は家賃が高いし、どこにいても仕事はできるっていうのを実践したい気持ちもあったので、ちょっと街はずれで考えて。海や川のそばがいいなとは思ってました。大阪港とか神崎川のあたりを検討したこともあったんですけど、遠くまで通勤するのも馬鹿らしいなと思い始めて。ちょうど神戸駅近くでビル1棟丸ごとに暮らしている知人がいて、そこのワンフロアを使ってもいいよと言っていただいたので一角を間借りして、オーナーが飼っているネコと一緒に仕事を始めました(笑)。

下のフロアが元喫茶店で、ライブイベントとかもやっていて、仕事中にバンドの練習の音が聞こえてきたり。音楽のこととか全然詳しくないけど、逆にそういう環境が面白かった。いまの事務所では、仕事中は無音です、いろいろ音に引っ張られるのが苦手なので。独立当初はお金のことも何も分かっていなくて、貯金があれば1年くらいはやっていけるかと思っていたら、予想以上に残高が早く減っていく(笑)。独立前に個人的にお手伝いした仕事が続いていて、それを見た方から次の仕事につながっていって、という感じのスタートでした。

 

余所者ではなくなりつつある

4年くらい経ってから今の場所へ。ご近所ですね。神戸駅やハーバーランド、新開地の繁華街にも近くて家賃が安い。意外と便利なことも分かっていたので、意識的に近所で場所を探しました。馴染みの飲み屋さんができたり、だんだんこの街での知り合いが増えてきたことも関係しています。今はマンションが建ったりしてずいぶん様子が変わってしまいましたけど、近くの稲荷市場で長屋を改装していろんなイベントをしていた友人が、今でも毎年夏には地蔵盆だったり、年末にはお餅つきをしていたり。私はお手伝いをするとかではなく、ただ参加するだけなんですけど、そういうのも楽しくて。

もともと、出かけていった先で銭湯を探すとか、ひとりで飲み屋に入るとかも好きで。余所者になれる感じというか。ふらっと入った場所で、じっといてるのが楽しい(笑)。きれいな場所よりも、長く続いている個人の匂いがするところのほうが面白いと感じます。

住んでいるのはこの辺りではないけど、仕事が休みの日でも、子どもを連れてわざわざ出てきたりすることもあります。私がホルモン焼き屋さんで友人と飲んでいる間に、子どもたち同士が向かいの駄菓子屋さんで買い物をして遊んでいるとか。街とすごく繋がりがあるとは言わないけど、居場所ができて思い入れもある。少しずつ余所者ではなくなってきているんだろうなとは思います。

 

 

前向きでいて、ど真ん中でもなく

今、事務所のスタッフは2人。事務所の規模を拡大していきたいとかは全然思ってないけど、仕事の方向性とか仕方とかは考えてしまいますね。そもそもいろいろ考えを巡らせるのは好きなんですけど、まだ何も決められてなくて。ただ、これまでよりも、もうちょっとスタッフに任せていく方がいいのかなと。それでうまくいった事例も増えてきたし、私もどうしたらチームとして成果があげられるのかを考えるのが楽しい感じになってきました。

独立するときに私個人の名前ではなくて「明後日デザイン制作所」と名付けたのも、いつかは何人かで仕事をしたいという希望があったから。屋号を考えている時に、日本語がいいなとか、お天道様みたいに何かを照らすようなイメージが先にあって、高校・大学の同窓で絵描きの友人に相談していたところ、ぽろっと「あさって」という言葉を口にしたんです。「明後日」と漢字で書けば賢そうだし(笑)、そのまま使うことにしました。明日のその先、未来を向いた前向きな言葉だし、「あさっての方向」といえば、どこかホワっとする感じも気に入って。仕事でもそうなんですけど、ど真ん中なのはちょっと恥ずかしくて、ちょっとズレてるくらいのほうが自分の中での収まりがいい。

今、好きな仕事は書籍かな。中身を正しく伝えるために注力できる要素が大きいから。商品パッケージとかの仕事では、売り場での見え方とか、中身を素直にそのまま伝えるだけでは足りないこともあって、ちょっと張り切って声を大きくしないといけないような感覚があります。もちろんそれも楽しいし、得意な方だとも思うんですけど、今は、書籍の本文の書体や文字組みとか、息を潜めて細かい部分に潜って考えることを面白いと感じています。

明後日デザイン制作所|グラフィックデザイナー
近藤聡 さん

1976年大阪生まれ。神戸大学発達科学部卒業。 IMI(インターメディウム研究所)修了。約10年間のデザイン事務所勤務を経て、明後日デザイン制作所設立。解くべき問題の発見を重視し、グラフィックを中心としたデザインによる解決を目指す。2011年度より神戸芸術工科大学、2014〜2019年度まで京都造形芸術大学非常勤講師。共著書に『新ほめられデザイン事典 レイアウトデザイン[Photoshop&Illustrator] 』(翔泳社)がある。

 

 

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