文:竹内厚 写真:竹内厚、岩本順平
JR新長田駅からすこし東へ。下町の家≒店はだいたいポツンとあるので、道中はちょっと頼りない気持ちに。
予約が入ったときだけオープンする店「なると」。焼肉店らしからぬ外観、その理由は…。
もともと喫茶店だった場所の居抜きゆえ。「空いてるからなんか使うてくれって知り合いに頼まれてな」と店主の中林さん。
こちらのメンバーが揃う前にお話だけでもと思っていたが、すでにお酒も入ってご機嫌でした。ちなみに10人で予約。
店奥に設えられた客席。喫茶店のソファ椅子をそのまま活用して、なんというか、大親分の宴会気分で気持ちが大きくなる。1日1組の貸し切り制。
日本丸の帆船模型とか。「三菱の設計しとるお客さん」がいて、亡くなった後にこちらに。「値打ちあるで」。
ざっかけない棚の感じは家≒店の真骨頂。
「友達が徳島の鳴門で屠殺場やっとるから、年末とかにまとめて買ってきて、よう肉を配りよったんよ。いい肉があって、場所もある、なら焼き肉やれやって言われて。モノはすごいええよ、採算度外視やしな」。
肉の味が全然違ってくる、ということで炭火焼きで。そこは店主自らやってくれるが。
基本的にはセルフサービスと思っているほうが間違いない。「まあ、バーベーキュー屋やな。勝手にやってくれたら」。見た感じは親戚一同寄り集まったよう。
タンからスタート! 「ノンアルってありますか?」「ああ、外行って買って来て」。
サーロインも登場!
ハラミにランプ、タン、シンゾウ、コヒレ…と肉のフルコース。もちろん、鳴門産の和牛しか扱っていない。
あっという間に立ち上る白煙。メニューと注文という概念はなく、中林さんがその日に出したいものを出したいだけ出すストロングスタイル。
大きく感じていたテーブルに乗り切らないほどの肉と皿。ええ、注文は一度もしていない。
メニュー表をつくってみたこともあるそうだが、ある程度知った人でなければたどり着きづらい店なので、今のスタイルに。「トップクラスの会員制ですよ(笑)」。
とにかく焼かねば前に進めない。カメラマン氏もカメラを置いた。
お酒は瓶ビールから始めて、気づけば焼酎、日本酒、ウイスキーすべて飲んでいた。
なぜかドンペリの箱も。「この前、持ってきた人がおってな、みんなで回し飲みしたらすぐに終わりや」。
さらっとカールヘルムのTシャツを着こなす中林さん、神戸界隈の財界人などともゴルフ仲間で、曰く「社長しとったおっさん」が持ち込んだイイ酒もちらほら。
従兄弟がやっていたという最高級家具の販売を手伝ってたことも、ということで出してきてくれたジュエリーケース。山羊革張りの皇室御用達品。
最高級のブランド豚「阿波とん豚」も出し惜しみなく。鳴門との縁で「塩ワカメ」もうまいよ~と出してくれた。そういえば、帰りにスダチもいただきました。まさに人んちに来た感覚!
どでかいマッシュルームが出てきたりもして、話もテーブルもカオス度が極まってきた。アルコールのせいだけじゃないはず。
厨房は喫茶店時代のまま。隣りには助っ人の梅ちゃん。
2時間だったか3時間だったか、なんとかみんなで食べきった、大満足~…と、中林さんが持ってきたのが鍋。待ってました! とはならないお腹の張り具合。
「どうしてこのタイミングで鍋?」「だっておいしいからな。麺いるな? 一貫樓行って麺買っといたから」。焼き肉後のシメ鍋&ラーメン、初体験でしたがスープから全身に染みわたる感じで、思ってたより全然アリ!
なんとか二度目のゴール。うまい肉めっちゃ食べた~!の多幸感と倦怠感がダブルでやって来て顔がつくれない。
振り向けば、マイペースに赤ら顔でラーメン中。実は、少林寺拳法界では何人もの全国レベルの選手を送り出してきた名師範。その話を聞いてもますます一体何者だ!? 感は増すばかり。
会計はお肉代1人5千円の明朗!?会計でした。つい自分たちでテーブルの片付けを始めてしまう。皿洗いまで済ませていく人もいるのだそうで、でも、ちょっとわかる気がする。
飛び込みで入れる店ではないけど、伝手をたどってチャレンジください。
掲載日 : 2022.10.29