文:竹内厚 写真:竹内厚、岩本順平
味わいある本町筋商店街からさらに路地を入ったところ。ここに店ある? といういかにもこの連載向きの立地。
長屋のうちの一軒がお店。営業時にはのれんがかかるのでご安心を。話を聞くために開店1時間前から訪ねた。
見事な改装がなされた店内は居心地いい。外観とのギャップに驚くが、こちら「SAKAZUKI」がユニークなのは、このしっとりした内観にして、とても家っぽい時間帯がふと訪れること。つまり、玄関を入るまでは誰かの家を訪ねる感覚、中へ入るとちゃんと店だった~と安心…けど、やっぱり家だな? と何度も気持ちが揺さぶられる。
え、赤ちゃん!? こうした光景も「SAKAZUKI」では日常的。
簡単に状況説明すると、ここは映像作家 池田浩基さんが事務所として借りた物件で、長屋の薄い壁を挟んだ真隣には池田さん家族4人が生活。「SAKAZUKI」開店前の時間はもちろん、営業時間中でも池田家の居間のようにも利用されている。上の写真は、浩基さんの妻・小笠原舞さんが長男のお迎えに行ったため、居合わせた人が眠っている赤ちゃん(長女)を見守っているところ。
「もともとは事務所のつもりで借りて、仕事の打ち合わせ用にバーカウンターもつくっていたので(クリエイティブな発想に酒、いるでしょ?)、最初の1年くらいは、ここに友達を呼んで飲み会をしたり、料理を振る舞ったりもしていて。けど結局、お互いに気兼ねなく飲むためにも、金曜土曜だけは店として営業したほうがいいかなって。そうしたら自分が飲む代くらいはペイして、無限に飲めるだろうし(笑)。ゆる~い気持ちで始めた店ですよ」と浩基さん。
自身のインスタでのみオープンを告知して、22年1月14日開業。
引き戸の向こうに隠れた階段。2階が浩基さんの仕事場だ。
そうこうしているうちに幼稚園から長男帰宅、というか帰店。隣りの自宅とは玄関別だけど、子どもにとっては関係ない。父ちゃんのいる方へ来るし、それは営業中だってお構いなし。
「やっぱり賑やかな方へ来たがるんです。お客さんみんな優しいから、一緒に遊んでくれるんだけど、料理の注文が増えて、僕があまりに相手できなくなるとぐずりだして。時には号泣する息子を片手で抱えながら料理してます」。
長女は取材時まだ生後3週間。「私は、こういう子育てがしたくて長田に移住してきました。あまり動き回れない産前の時期も、店の方に座ってたらいろんな知り合いが来てくれるのでいっぱいしゃべって、帰りたくなったら好きなときに家に帰って。人付き合いが苦手な人はダメでしょうけど、私にとってはこれが健康的な子育て環境。自然体で暮らせてます」と舞さん。
バーカウンターの向こうに見えるキッチン。営業日でなくても、浩基さんが家族のご飯をつくるときはこちら(店)で、舞さんがつくる日は家で。別宅がすぐ隣りにある感覚。
料理好きという浩基さん、アテや晩ごはんメニューも充実。
上のメニューにはなかったボロネーゼをいただいた。実は、家族の夕食用に浩基さんがつくったもの、それだって注文可。
池田一家の食事も当たり前のように店内でスタートした。まさに店≒家な状況。
常連のお客さんと一緒に食べ始める長男。この流れもごく自然。しっぽりイイ雰囲気の古民家カフェバーが、人の振る舞いによって家にもなれば店ともなる。
と、入ってきたのは浩基さんの父。「ヒロキ、1杯だけ飲ませてくれや」。
おのずと話を伺う流れになる。この店で飲みすぎて帰り道で転倒してしまった顛末など。息子の店だと行きやすい?「まあね……いやいや、そんなことないよ。月に1回来たらええほうちゃう」。
玄関横には小部屋も。一連の見事な長屋リノベーションは、浩基さんと浩基さんの兄が手がけたもの。ここを皮切りに古民家改修の仕事も始めたのだそう。「この店がいい宣伝にもなってます」。
天井を抜いて天窓を付けることで日中は明るく。実はロフトも備えている。
もともとの床板を洗って壁に張った、ローコスト改修。ここまでお気づきでしょうか、写真の撮り方次第でもSAKAZUKIは家のようにも店のようにも写ることを。
忘れそうになるけど、浩基さんの本業は映像制作、ここは浩基さんの仕事場。メニューの最後にもプロフィール掲載中。
この後、一見さんのお客さんもふらりと入ってきた。日によっても時間帯によっても店内の状況がまるで異なる「SAKAZUKI」。当然、静かに大人が飲める隠れ家バーという状況も少なくない。
家族と仕事と暮らしとを隠さない、長田らしい試みとしても注目したい店≒家、ぜひ一度!
掲載日 : 2022.08.19