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神戸の新しい魅力に出会うウェブマガジン

シタマチコウベ

下町の店≒家家みたいな店

2021.09.27

vol.01

駒ヶ林町 駄菓子屋

フレンド

文:竹内厚 写真:竹内厚、岩本順平


地下鉄駒ヶ林駅から西へ。片道2車線の市道、高松線をさらに海側へ渡った界隈は、迷路のような細い路地が入り組んでいる。


その路地を進めば見えてくるのが「フレンド」。車ではたどり着けない。


「フレンド」は、たこ焼き&お好み焼き、かき氷を店内で食べることもできる駄菓子屋さん。大きな店構えにも見えるが、店にあたるのは平らな屋根の軒下部分のみ。


左右に駄菓子を並べて、奥の右側に鉄板、左側に水回りとかき氷器。しっかりテレビも備えている。


「もう昔みたいに子どもがおらへんからな、あんまり売れ行きはええことないよ。ゼロの日もある。近所にミャンマーの家族がおるから、そこの子らはよう来てくれるわ。5丁目の方にはもう子どもがひとりもおらへん。夏、こんだけ暑いからかき氷が売れると思うやろ。売れへん。出てけえへんもん、外に。ほんで、家にかき氷の機械も買うてんて。蜜だけちょうだいーって来るからな、蜜だけは売られへん、て」。


フレンドのおばちゃん(原澤一代さん)からそんな近況を聞きながらいただいたのは、かき氷コーラ味。お代は100円。


もちろん、お菓子は10円単位。夏場は休止しているが、お好み焼き150円、たこ焼きは7コで150円。消費税は今でもとっていない。


「安いやろ。近所で病気やったり、出歩けへんお年寄りの人らには、電話してもうたらおとうさんが自転車で持っていったげるから。出前やな。今のあれ、ウーバーより先やで、うち」。


聞けばこの店舗スペース、おっちゃん(原澤祥輝さん)の趣味の工房にしようと、玄関先に壁と屋根を付けて自分たちでつくった場所で、結局、工房として使うことはないまま、たこ焼きを焼きはじめてしまったという。それが1998年のこと。阪神・淡路大震災後、大忙しだった水道屋の仕事が一段落したのがきっかけだった。


左が店の入り口、右が家の玄関。この幅がちょうど店のスペース。能面づくりはおっちゃんの趣味のひとつ。


玄関に掲げられた貝のコレクション。フレンドを訪れると、おっちゃんの趣味の品々を自然と目にすることになる。


玄関扉を入ると、靴箱の向かいには壁一面におっちゃん作の能面コレクション。


花に見立てた貝細工も。2017年の「下町芸術祭」では、この貝細工で美術家・森村

泰昌「下町物語プロジェクト」に協力した。「芸術祭のときは、スタッフの子らにうちのトイレ貸したげてな。申し訳ないからって、お菓子買ってくれたりもしたわ」。近隣の展示会場がトイレのない施設だったため、自宅のトイレを使わせていたのだそう。


家で休んでいたおっちゃんも出てきてくれた。店ではたこ焼き担当。水道工の職人として働いていたこともあって、手を動かすのが好きで得意。「家の中にあると邪魔になるから、ここに置いただけでな、誰かに見せるつもりはなかったんやけどな。ちょっと便所貸してって人が通りしなに、これ何? って見ていくもんやから」。玄関内はもう「原澤さん家」の領域だけど、気さくに見せてくれる。


下駄箱まわりはおっちゃんの制作物といただきものが混在。玄関全体がコレクションルームのようになっている。そして、「珈琲でも淹れよか」というお言葉に甘えて、部屋にもあげていただいた。すると…。


リビングにはアナログカメラがものすごい数あった。「昔はな、土日はカメラ1本持ってあちこちで撮ってた。誰にも習ってないからな、上手やない、下手やけどな。自分のことで撮るだけやから、自分の腹だけやからな」「この近所にカメラ屋さんのお友達の家があったからな。せやから、おとうさんはカメラでだいぶあちこち行っとうな」。


「2階にレコードものすごいあんねん、レコード鑑賞もおとうさんの趣味。うるさいで。近所迷惑になるから21時までにしてなって、な」「わし、音が好きなんよ。ラッパとか、ステレオから鳴ってくる響きがな。怒られるけど、ちょっと大きして聴かんとなぁ」。淹れてくれた珈琲はサイフォン式だった。


趣味が多くてマイペースなおっちゃん、サービス精神あふれるおばちゃん。ふたりが今、夢中になっているのは4匹の亀。それも見せてくれた。


「私が亀好きでな、おばあちゃんが死んだ頃かな、向こうの道から亀がずっと歩いてきたんよ。それを捕まえて5年くらい飼うとってんな。けど、あんまり餌あげすぎて死んでん。かわいがりすぎた。それから加古川の妹のとこと、店のお客さんで“カメ博士”がおるねんけど、2匹ずつもらって。4匹、ケンカするかな思たけど、仲良くしてて。餌あげるときでも、口あーんって開けて待ってるねんよ」とおばちゃん。


「こどもちゃん、はい。あんた賢いな、な、ふざけてどないしたん。かわいいな」「おとうさん、いつも誰としゃべりよんかと思ったら、亀としゃべりよるんよ。大きいのがこどもちゃん、これはみにちゃん。くれた人が名前つけとったからな、そのままいったんよ。名前呼んだらわかっとるみたいにこっち来るからね」


こども、みに、さくら、そら。4匹の亀が過ごす池は2日ごとに水を変えている。もちろん、おっちゃんの手づくり池。


「この人もう77やで、見える? 元気やろ。こんな早くふたりきりになると思わんかったけど、店やってたら人が来てくれるから楽しいよ。家族で釣りに行ってた人らが、帰りに魚持ってきてくれたりな。裏のおにいちゃんも漁師で、よう魚くれんねん。私は生、刺し身が好きけど、おとうさんはアラが好きやねん。ちょうどええやろ」。


「近所に子どもおらへんし、店もう閉めたいねんけどな。閉めてもすることないやろ。年金の足しにもならんけど、いろんな人が出入りしてくれるからそれが面白くて」。おばちゃんからはそんな話も聞いた。確かに、ここがお店だからこそ気軽に扉をガラガラっと開けるわけで。ここがただの家だったら、ふたりの話を聞いて4匹の亀を見ることもなかった。店のおかげ。

下町の店≒家