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シタマチコウベ

下町くらし不動産

山と海と人を結ぶ、ウンガノハタケ

2022.09.16

リノベーションされた空き家や空き地に伺ってリポートする不動産コラム。第16弾は、兵庫区材木町の市民農園「ウンガノハタケ」。運河沿いにある緑地の一部を活用して生まれた畑では、地域住民と農家や漁師、建築家が連携しながら都会の中で農のある風景がつくられ、子どもたちの環境学習や地域コミュニティの拠点づくりにもつながっています。今回は、2022年7月に行われたウンガノハタケのお披露目会の模様をお届けします。

街の中に生まれた市民農園

神戸市では「食都神戸」事業の一環として、アーバンファーミング(都市農業)の推進に取り組んでいます。公園や緑地などの市有地を活用し、食べられる果樹や野菜等を育てるエディブルパークのひとつとして兵庫運河沿いの緑地の整備が始まり、2022年3月に「ウンガノハタケ」がオープンしました。管理運営は、神戸市から委託を受けた有限会社Lusieと、地域住民が中心となったグループ「sea change」が共同で行なっています。

オープン時に発足した「sea change園芸部」は、月1回の全体活動で菜園の手入れを行い、月2回の水やり当番をまわしながら野菜やハーブを育てています。各々のタイミングで収穫物を持ち帰れ、生産者から直接レクチャーを受ける機会もあるそう。ただいま、部員募集中とのこと。活動内容が気になる方は、ウンガノハタケのInstagramアカウントをぜひごらんください。

 

土にふれて、海に浮かんで、食べるを考える

お天気に恵まれたイベント会場には、心地いい浜風が吹き抜けます。この日だけ特別に入ることができたビーチでは、子どもたちが「宝さがし」に夢中になっていました。地域の大人や中学生が浜辺に隠したお宝を見つけたら、野菜やちりめん、ジュースがもらえるというもの。

中には楽しそうに浅瀬で浮かびながら、アサリを拾いあげる子どもたちもいました。兵庫運河では2013年から、海の生物多様性向上を目指し、アサリの育成やアマモの移植などのプロジェクトが行われています。海につながる運河でアマモが育ってアサリがたくさん住めば、海がよりきれいで豊かになると考えられています。

たくさん遊んでつかれた子どもたちは、芝生でゴロゴロ。畑で採れた野菜を使ったカレーやしらす丼を味わってのんびり過ごしていると、都市部の屋上を中心に農を試みるプロジェクト「Sky Cultivation」スタッフの押谷衣里子さんによる菜園ツアーが始まりました。

「トゲトゲがある木、これは何でしょう?」

興味津々に付いてくる子どもたちに話しかけながら、時には葉っぱや実を一緒にかじって味や香りを確かめます。レモン、ニンジン、ミント、カレープラント、ローズマリー、パクチー、フェンネル。60個のプランターに植えられた野菜やハーブが次々と紹介されていきます。西陽に照らされた運河のように、子どもたちの目はキラキラと輝いていました。

 

知恵を持ち寄って、海を変えていく

菜園ツアーが終わり、会場の中央で始まったのはトークイベント「ウンガノハタケの1年目」。登壇者は、漁師の糸谷謙一さん(兵庫漁業協同組合・理事)と、建築家の髙橋渓さん(COL.architects/Sky Cultivation)です。大人たちは暑さを避けて日陰で、元気な子どもたちは砂かぶり席でお話を聞きます。

糸谷さんは「兵庫運河の自然を再生するプロジェクト」のメンバーとして、10年ほど前から兵庫運河の環境調査でこの場所によく訪れていました。他業種の人とも出会うなかで、神戸大学名誉教授の保田茂さんから聞いたお話は衝撃的だったそうです。

「先生には『豊かな海を取り戻すには、自分の食生活を見直しなさい』と言われました。裏六甲の農村エリアにある田畑では米をつくることが大地の肥やしになっていて、その栄養分が川を伝って山を超え、海に流れこんで恵みを与えていると、話を聞いて初めて知りました。それから、米を食べることが海に恩恵をもたらす、といった大きな自然の流れを意識するようになったのです。漁師として海を守るだけではなくて、人が集まってそうした自然のサイクルについて学べる場所をここでつくりたいと思って、髙橋さんに相談しました」

髙橋さんがこの場所を初めて訪れたのは、2021年4月のこと。糸谷さんの話を受けて、材木町にある神戸市立浜山小学校の子どもたちとバケツで稲を育てることにしましたが、水はけや鳥害の問題でひと粒も食べられずに1年目は終了。今年は髙橋さんが中心となって、栽培環境の改善に取り組みました。

「糸谷さんのお知り合いから港湾施設でいらなくなったパレットを譲り受けて、それを分解してプランターを製作しました。吸水スポンジを敷いてまわりに防草シートを張ることで保水性を高め、水が少しずつ滴り落ちる仕組みを運営メンバーで考えました。有機栽培の稲は順調に育っていて、子どもたちとの収穫が楽しみです。収穫後のプランターは、コンポストとして土づくりに活用される予定です。土づくりはミミズや魚粉の力を借りますが、海の環境改善にもそうした農業の知恵は活かせるかもしれません。今はアスファルトの上で土を耕しているけど、すぐそばにある海の土もいずれ耕せられたらいいな、と思います」

街のなかで、野菜を育てる。畑にふれながら、海について考える。目の前にあるものが、目には見えないつながりのなかで育まれていることに思いを馳せることができれば、私たちの暮らしと自然環境はともに豊かになっていく。おふたりの話を聞きながら、そう感じました。

ウンガノハタケの活動名「sea change」の直訳は「海を変える」ですが、「180度の好転」という意味もあるそうです。海の環境がこれ以上悪くならないでほしい、という糸谷さんたちの願いが込められた名前です。職種も世代も隔てなく集まって知恵を持ち寄る環境づくりこそが、場にポジティブな変革を与えるリノベーションの秘訣なのかもしれません。

 

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