リノベーションされた空き家や空きビルに伺い、どのような場所に生まれ変わったのかをリポートする不動産コラム。第7弾は、市営地下鉄海岸線の和田岬駅より徒歩1分ほどのところにある物件。玄関の扉を開けると、漂ってくるのは上品な香り。土地付きの空き家を購入・改修し、2020年夏にオープンしたこの場所について、株式会社グローバルトゥエンティワンの代表取締役・松村勉さんにお話を伺いました。
かつての宿場町にあった空き家
松村さんの会社は昭和60年に創業以来、神戸を拠点にイベント・プロモーション事業を中心とした多角経営を続けてきました。線香やお香の日本一の産地である淡路市の地域活性化事業として、お香の商品プロモーションに携わり始めたのが2015年頃。その翌年には北区有馬町でお香の専門店「有馬香心堂」をオープンし、その商品開発・パッケージデザイン・通信販売の拠点として和田岬に「アトリエハウス浜本陣小豆屋」を構えました。
「和田岬というエリアには前から興味がありました。明治時代には宿場町として栄えていて、神社や寺院も多く建てられ、薩摩藩や長州藩、外交で訪れたイギリス人も行き交うような活気あふれる街だったんです。『浜本陣小豆屋』という名前は、薩摩藩が運営していた本陣(宿屋)の名前に由来しています。イギリスの外交官であるアーネスト・サトウ、西郷隆盛、坂本龍馬らが神戸を開港することを話し合った本陣で、彼らのようなチャレンジ精神を持ったクリエイターが集まる交流サロンとしても運営できればと考えてこの場所を作りました。コロナ禍でまだまだこれからの状況ではありますが、デザイナーやカメラマンなど、地域を盛り上げる担い手が出会い、語り合える場所になればと願っています」
コロナ禍で手の空いた時間をリノベーションに費やした結果、この1年間で淡路島や和田岬など各所でなんと5軒の空き家改修を行ったという松村さん。そのうちの1軒として見つけた空き家が、歴史ある三石神社の隣にあるこちらの物件でした。ある程度の改修経験があったことで、建物の状態が悪くてもどの程度手を入れれば再生できるかが分かったそうです。
一軒家の1階には商品ギャラリーとサロンのスペースや水場、トイレがあり、2階には応接間とスタッフの作業スペースが備わっています。4ヵ月ほどの施工期間で、アトリエハウスとして生まれ変わった物件の様子をお伝えします。
【2階の来客スペース】
窓も壊れており、雨漏りもひどかった。壁の穴を埋めたり、ベニヤを張ったりする作業は自分たちで行い、雨漏りの補修は業者に依頼。会社で使用していない備品を集めて来客スペースを作った。窓からは緑映える三石神社の境内が一望できる。
【壁面】
2階へ上がる階段の壁面や水場など、経年変化の味がある場所はあえてそのまま残した。2階の来客スペースには友人の職人に壁紙を貼ってもらい、別のリノベーション物件にあった残置物の絵画を飾っている。どこに予算を費やすべきか、よく考えられている。
【1階のギャラリースペース】
杉の産地として知られる大分県日田市で、棚板を1枚6,000円ほどで購入。商品開発やパッケージデザインを担当するお香の商品は種類豊富だが、ゆとりある空間で見やすくディスプレイされている。電気工事も必要だったが、友人に頼んで18万円ほどの費用に抑えた。
明治時代にこの地で交流し、神戸を開港した人々に思いを馳せながら、歴史ある日本のお香文化を日本全国、そして世界に届けていくことが今後の目標だという。
改修現場に毎週通って自ら手を動かす松村さんに、事務所として空き家を購入・改修する魅力について伺ってみました。
「自分の家であれば生活に関わってくるのでどう改修するか慎重になりますが、新たに創る拠点であれば多少失敗があっても許容できるので冒険ができて楽しいです。賃料が月8万円の物件であれば、年間で100万円ほどかかりますよね。それなら100~200万円ほどの物件を買って長く使うほうが安く済むし、自分たちの物になっていい。会社として空き家を改修した事務所や店舗がさまざまな地域にありますが、生活や仕事の環境をいろいろなところに置くことで気分転換になりますし、生産性の向上にもつながるのではないでしょうか」
かつて薩長の藩士が集った地に残された空き家は、アーティストやクリエイターが交流し、古きよき日本のお香文化を発信する魅力的な場所として引き継がれていました。
掲載日 : 2021.09.07