《2月紹介》
下町日和第6弾はイラストレーターのワタナベランドさん。
1999年に美術学校を卒業して以来、ツールにこだわらず何かを作り続けています。意図していない美しさを見つけるのが好き。何かと何かの合間にある言葉にできないものを実現したいと思っています。質感フェチであり、根っからのお酒好き。
この下町日和のお話を頂いてから、長い時間をかけて出来上がった1枚目の絵を母に送ったとき、
「お好み焼きは?」「新長田と言えば靴やろ?」「神戸飯店じゃなくて神戸デパートやで」
と立て続けにLINEが届いた。
地図を作るわけじゃないし、新長田について盛りだくさんに絵を描くわけじゃないから!と伝えたら
「わたしの思い出は?」
と返ってきた。
(お母さんの思い出?いやいや、別にそんなんええねん…。)
冷たい娘である。
それから少し経って、幼いころから母がよく連れて行ってくれた大好きな中華屋さんに、久しぶりに行かへん?と聞いてみた。
病気の父に付きっきりだった母。
ダメだろうなと思っていたのに、母から返ってきたLINEは、超が付くほど乗り気な返事だった。
母娘デートの日、母は15分も前に到着していた。
足早に中華屋さんに向かう。
到着してメニューを見るなり、2人して「あの頃、肉飯と五目焼きそばって言うてたけど、正式名ってわからへんなぁ…」。
でも、ちゃんと注文は通った。
いろんなメニューがあるのに母と来ると必ずこの2品だったのが、今考えると不思議でならないけれど、母にも理由はないようだった。
わたしが大人になり、母無しで行くようになっても同じものを頼んだ。
たしか、幼心に「ここのお茶はどうしてこんなにおいしいんだろう!」と思っていたのだけれど、大人になってからそのお茶がジャスミンティーであったことに気づき、「わたしは子供の頃からこれを知ってる!」と誰かしらに自慢していたような気がする。
写真はその日撮ったもので、行ったのも母とわたしだけなのだけれど、絵の左側にいるパーマの人は、今は亡き祖母である。
子供の頃、祖父母の家によく預けられていたわたしは、祖母ともこのお店に来ていた。
思えばわたしは常連だった。に違いない。
肉飯と五目焼きそばをペロッと平らげて、母と少し思い出話をした。
普段せっかちな母が今日はのんびりしている気がして、わたしは何となくホッとした。
そう感じたのも束の間。
「このあとも周るんやろ?」
そう言われ、お手洗いを済ませてそそくさとお店を後にした。
掲載日 : 2020.02.21