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神戸の新しい魅力に出会うウェブマガジン

シタマチコウベ

下町日記

どっぷり駒ヶ林編 by 竹内厚

vol.01

2018.03.25

第1弾は、ディープ漁港スポット 「駒ヶ林」が舞台。 水揚げされたばかりの魚をいただける港の居酒屋、新しくできた創作料理(?)屋、深夜なのにぞくぞくと人が集ううどん屋、そして、町のみんなのコミュニティスポット・銭湯をめぐります。はしご酒人は編集者の竹内厚。知る人ぞ知る、全国に隠れファンをもつフリーペーパー「長田ルンバ」の副編集長です。

文:竹内厚 写真:岩本順平

 

駒ヶ林は新長田の海側に位置する、漁港と路地の町である。
多くの人には「神戸の海」と聞いてまず思い浮かぶ景色があるだろうけど、駒ヶ林の海はたぶんそのいずれにも似ていない。よそさまに向けた顔は見せないハードボイルド調。海で町をアピールなんて下心がないので、ただ界隈を歩くかぎりでは海そのものを目にする場所もほとんどない。けど、潮の匂い、海の気配を隠す意図もないから、海と町の近さが無造作に放り出されている。

 

そんな駒ヶ林の名物といえば、粉もんと丸五市場。あえて今回はそこにも背を向けて、行き先も決めずに町へ出た。2月末の夜19時のこと。

1軒目に目をつけたのは「清本の店」。地元産の魚を食べさせる、意外とこの町では少ないタイプの店だという噂。まずは湯豆腐をと注文すれば、そこに2種の白身が浮かんでいたり、刺し身盛りでも軽くつまんでと思ったら、ヒラメ、寒ブリ、マグロ、ハマグリ、赤ナマコが並ぶなど、やけに景気がいい。海が近い。おすすめの穴子料理をはじめとする品書きを見ていけば、これぞ正調の神戸の居酒屋。といって、それだけで終わらないのがいいところ。

木をふんだんにDIY的にアレンジしたような内装は海小屋というより、山小屋という形容が近い。隣りの座席に陣取った家族連れは、店内で数家族が待ち合わせて、到着するなり子供らも好きなメニューを口々に注文。気づけば、ムード音楽寄りのBGMがまろやかに店内に響いていた。海と肴のクールさよりも、もっとマトが大きなおおらかさ。港の食堂的な匂いもあり。ビール、ビール、焼酎と3杯。

 

20時半。もう1軒気になる焼肉屋「味一」を目指すも、濃厚な匂いだけをストリートに残して、すでに店は閉まっていた。人ひとりが通れるくらいの狭小路地を抜けていくうち、目の前に現れたYさんの家。ちょっと挨拶だけのつもりが、ちゃっかり家に上がりこむ。ベトナムから来た主人のKさんがすっとリンゴをむいてくれた。そして、赤ワイン。2歳の息子Dくんは、お気に入りのアニメ「のんたん」を目を奪われながらも、ほどほどに相手をしてくれる。家飲みこそいいね~と言ってる場合でもなく、小さな子供がいる家を訪ねる時間帯としてはなかなかヒジョーシキ。早く寝てね、おやすみDくん。赤ワイン2杯。

 

21時半。開店して1ヶ月もたってない新店らしい「家家」へ。カウンターだけの店内、先に奥のトイレを借りると、またもや人の家に上がりこんだよう。聞けば、2階には子どもが寝ているそうで、住まいと地続きになった住み開き店だった。となれば、眼力強め、耳にピアスの店主の前職も気になるところ。クイズ形式で正解を探す。お坊さん? 左官職人? はつり屋だった。 建設現場でコンクリートを粉砕する仕事。はつり屋から自宅での創作料理店への転向、なかなか人生模様が深い。「でも、実は創作料理はいっこもないから、名前変えよかなと思てます」とは、なかなかゆるい。

 

ここで食べたものをまだ書いてなかった。鉄板を使ったとんぺい焼き、おろししそハンバーグ。それぞれ500円だったか。そういえば、店のBGMは、カウンターに隣り合わせたお客さん選曲によるBOOWY祭りだった。酒がまわる。何を飲んだかはもはや定かでない。

22時すぎ。家家の並びにある「ザ・うどん」へ。屋台で13年、こちらに移って7年という、地元では知られた店。大きな屋台を思わせるような店内は、この時間でもほとんどのテーブルがうまっていた。車で来ている地元民も多いようで、この感じ、どこかで見たような…とボヤけた頭を振り絞ってみると、いつかのアメリカ映画で見たロードサイドのダイナーの雰囲気だ。クリスマスみたいな電飾、金魚やチンアナゴが泳ぐ大きな水槽、大衆演劇の伍代孝雄ポスター、店主の首もとをはじめ店のあちこちで目にする黄色いタオルなど、その雑多さにも不思議な統一感がある。名物の油かすうどんやカレーうどんの他にも、おでん、きむち、スジャータのソフトクリームまで。ビールとともにご機嫌に食べていたはずが、気づけば少し眠っていた。

 

和田岬の駄菓子屋「淡路屋」が登場したNHKの番組『72時間』には、次はこの店で3日間密着してもらいたい。イイ顔、イイ話が次々に見つかりそう。

23時前。銭湯「萬歳湯」へ。こちら、靴脱ぎから暖簾をくぐって脱衣所にいたるまでの待合いを広くとって、街の応接間としての役割も果たしている。乾き物や極細プリッツ、ビールにおでんも煮えている。くつろぐみんなが視線をやる先には大きなテレビ。ちょうどこの日、平昌オリンピックの女子フィギュアに坂本花織選手が出場。野田高校に通う地元の女子高生とあって、「しっかりしてる」「彼女はポーアイで練習しとる」なんて勝手なこと言いながら、大勢で見るともなく見るテレビがいちばん楽しい。ビールも進む。キリのいいところで「ではお先に」と帰ってく人、お風呂に入る人。こういう場所にあるテレビはほんといい仕事をする。あいにく酔いすぎなのと終電の時間もあったので、入浴することはできなかったが、ここで風呂とビールから飲み歩きをスタートさせるのもよさそうだ。

はしご酒の最初から最後までつきあっていただいたのは、新長田にあるダンスボックスのスタッフ、そして長田ルンバの編集長の田中幸恵さん、カメラマンの岩本順平さん。そして、いつもは0時に萬歳湯が日課のところ、23時代に呼び出して合流かつビールもおごっていただいた山本豊久さん。夜の自宅に突撃訪問してしまった横堀さんファミリー。気持ちよく飲ませてもらった各店のみなさま。ご協力ありがとうございました。

 

 

 

※掲載内容は、取材当時の情報です。情報に誤りがございましたら、恐れ入りますが info@dor.or.jp までご連絡ください。

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