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神戸の新しい魅力に出会うウェブマガジン

シタマチコウベ

下町日記

ふむふむ駒ヶ林編 by 和田幹司

vol.14

2019.10.17

第11弾は、まちの歴史や文化を学びながらの飲み歩き。今回のはしご酒人の和田幹司さんことワダカンさんは、「グレーター真野の空から」をはじめとする新長田周辺についてまとめた本を4冊も出版されているほどの新長田通。飲み歩きでは、いつもワダカンさんが通っているアマダイが美味しいお好み焼き屋さんと、新鮮なお刺身がいただける居酒屋さんを巡りました。グルメだけでなく、歴史や地域の活動、そして時代とともにうちり変わるまちのお話など、盛りだくさんでお送りします。ワダカンさんが指南する、思わずふむふむ言ってしまう新長田の飲み歩きをお楽しみください。

文:和田幹司 写真:池田浩基

 

〈駒ヶ林駅付近「お喜楽」歩き  ——アマダイにつられて——〉

「ワダカンさん、よく行く店、教えてよ!」という声かけから今回の取材は始まります。
ひとつめの答えはお好み焼き「喜楽」です。

 

「六間道」ってわかるかな。地下鉄海岸線「駒ヶ林駅」の1番出口をあがった通りが「六間道」です。もうひとつの出口(アグロガーデン側)に出てしまう人もいるでしょう。人生迷うこともエエことと思って、お店は探してください。この出口にでたときは、「近田幼稚園」をめざして、そこからお店に電話(078-643-5656)をかけてください。ネオンの看板に誘われてすぐに見つかるでしょう。

喜楽

そういえば、「六間道(ろっけんみち)」を紹介する表現として、「林(はやし)のトレトレ」の魚を運んだ道という説明があります。駒ヶ林漁港(長田港)で水揚げされた魚を市場に運んだのです。荷車が通れる広い道がありました。魚屋も多く、西神戸の住民は「昼網」と言って、その日のお昼にとれた魚を「ぜいたく」と思わずに、堪能していたのです。「牛肉」も本場ですから、「舌のこえた人たち」がシビア。だから、お肉もお魚も「おいしいお店」が育っているのです。

 

さて、話を「喜楽」に戻しましょう。日本酒がすきなワダカンは、高齢者という立場もありますが、名物「アマダイ」でぬる燗一杯、これで十分です。
でも今回は女性もお供に連れているので、前菜の蒸し豚、キムチもおつまみに。ながめに切った生の白菜に自家製ソースたれがかかったサラダは人気があります。

さて、この「喜楽」さんでしか食べたことのない名物「アマダイ」の本場は「済州島(チェジュトウ)」らしいです。神戸・長田にも、この島の出身者がおられます。生野からお取り寄せの甘鯛をカットし、たまごタップリのころもをつけて、鉄板で焼いたものが「アマダイ」。ふんわりとした食感がエエのです。

このお店が好きな理由は、お好み焼屋さんにしては、お店が広いのです。20名の団体で予約したこともあります。若い友人にたらふく食べてもらいたいときも、ここに来ます。長田のお好み焼屋さんは、どこもウマいです。どの店もあきない独特の味と、店のたたずまいがあります。ほとんどのお店が値段つきのメニューが貼ってあります。食べ歩きしてみてください。

〈町がうまれかわりつつあります〉

2019年9月に「新長田合同庁舎」ができました。六間道から見ると「駒ヶ林駅」があって、角に「野瀬病院」、その山側が合同庁舎です。1000人もの職員が入居するそうです。町並みも、メリハリがつき、しっかりしてきています。
長田には、地域と協力して町づくりに励んでいる会社が多いです。真野地区にある「三ツ星ベルト」が先行例です。社員総出でお手伝いされる7月の「たなばたまつり」には、1万人の方が地下鉄「苅藻駅」下車でこられます。社員レストラン「MMコート」は平日のみ一般にも開放されていて、ランチセットはコーヒーつき、700円でボリュームもお得感もあります。
「苅藻駅」から1駅行けば、「駒ヶ林駅」のすぐそばに「あぐろの湯」という温泉もありますから、17時オープンの「喜楽」で夕食をする前にひと風呂浴びるのもおすすめです。ホームセンター「アグロガーデン」で買い物すれば、お風呂の割引券がもらえます。タオルは持参がいいでしょう。
アグロガーデンは8月下旬には「盆踊り」を開催し、「1.17 KOBEに灯りをinながた」という追悼行事(新長田駅前広場)にも協賛されています。様々な企業が、「地域活動」に参加する、素晴らしいことです。

〈駒ヶ林の風土に歴史の思いが重なります〉

アグロガーデンができる前は、あの場所は「南駒栄公園」でした。阪神・淡路大震災のときは、避難の場所が見つけられないベトナムの方がなんとなく集まり、ボランティアの支援を受けテント村が形成され、多くの日本人とともに寝泊まりしていました。
震災で長田のわが家は全壊し、4月に解体したとき、新調してすぐだった窓わくサッシがまだ綺麗だったので仮設住宅に使ってもらった思い出があります。いろんなサポートがあった「土地柄」なのです。
アメリカからの慰問チームのグループもテント村にやってきました。沖縄からきてくれたまよなかしんやさんの歌もあり、♫ハイサイオジサン♫の歌声は今も耳に残っています。「多文化」がゆきかいました。

 

この「南駒栄公園」の西側を走る南北の筋は海岸から高取山に向かって、「タンク筋(五位の池線)」のニックネームで親しまれています。随分とむかしから「ガスタンク」があったのです。和田岬から苅藻、駒ヶ林の海岸線は、1894年(ワダカンの言う、西神戸の産業革命の年)から、産業用地として土地の価値をつけました。電気やガスの需要がたかまり、発電所やガスタンクが更新され、いまも駒ヶ林の海岸側にその名残りを見ることができます。

 

〈風土の豊かさを学び、いい町にしよう〉

駒ヶ林の土地は、古代から半島や大陸から来る列島への入国者を迎え、「ヤマトのクニ」の入り口(玄蕃)でした。震災の時、ベトナム出身の避難者が「南駒栄公園」に居心地の良さを感じたり、「六間道」近くのお好み焼屋さんでフツーに「済州島」風の料理「アマダイ」を楽しめるのも、駒ヶ林駅の「ありがたみ」と思うわけです。どうぞ、いらしてください。

 

飲み歩きの記事だということを忘れるところでした。さぁ二軒目です。

 

〈本町筋商店街を歩き「庄屋」さん訪問――「西尻池」の庄屋さんの不思議――〉

「喜楽」をでて、六間道をもどり、本町筋商店街を北に歩いてみましょう。目指すお店は、国道2号線沿いにある居酒屋「庄屋」です。フツーに歩けば7分もかかりません。

せっかくですからこの道中のおすすめも紹介しましょう。時間のある方!寄り道してください。

 

①「喜楽」をでて、六間道の南側にある「r3」は、時々カフェもしている地域の憩いの場です。最近は奥のスペースにデザイン事務所ができたそう。オーナー家族のファンが多く、西神戸の元気の源で、キースペースでもあります。

 

② 六間道を東へそのまま3分、「はっぴーの家ろっけん」です。ケアつき高齢者住宅なのですが、ことわって中にいれてもらえれば、家族的空間の1階で、エエな感がわかります。こどもも遊んでいます。オーナーは34歳、年齢はテレビのテロップで知りました。

 

③その先の庄田橋とか新湊川も興味深く、さらに先の真野(小学校)地区も、町づくりの先進地域です。外国人研修生(JICA)も勉強にきます。が、「企業と地域社会の学習」は次の機会にして、六間道を引き返し、本町筋商店街に戻ってください。

 

④「肉のデパートマルヨネ」さんや、2軒つづく魚屋さんの前、「スタジオ・長田教坊(きょばん)」があります。“チャンゴ”など朝鮮半島の楽器の教室です。コリアの雰囲気がドアをあけると忍び出てきますよ。

 

⑤本町筋商店街の西側、くだもの屋さんの小道から、アジアナイト屋台で有名な「丸五市場」に入れます。エスニックなお店の一角が楽しいです。寄り道に15分はかかるでしょう。

 

⑥「スタジオ・長田教坊」を北に、秋山助産所の筋、路地の奥、長屋の並びに、「city gallery 2320」があります。意図を持って、熱意をもってアート展示をされています。心意気が好きです。ここの2階への階段もスリルがありますよ。

 

⑦カギ屋の山本さんはファンタスティックです。西尻池地区のビルを借りて、トリニダード・トバゴ由来のスティールパンの教室を運営されています。家族のチームワークもすばらしいです。本職は「あらゆるカギ」の販売です。

 

 <本町筋商店街に親しみを感じますね>

本町筋商店街の北、2号線に沿って銀行のビルがあります。「林田区役所」だったところです。1945年に長田区と編成替えされる前、この地域は「林田区」という名称で、海岸線の「和田岬」「御崎公園」「苅藻」「駒ヶ林」を超え、さらに西側の「野田」までがテリトリーでした。ですから、ほぼ林田区の距離的中間の「本町筋」に役所があったのです。そうすれば、「新長田合同庁舎」の位置も、兵庫県や神戸市の「海岸沿い」を見直すセンターとしてはふさわしいと思えてきます。もと、「林田区役所」の横に「庄屋」がある。そこで一杯のんでくつろぐ、やっと「庄屋」タイムです。

もともと、このお店は、おーちゃん(太田恵さん)や「下町芸術祭2019」にも出展されているアーティストハラチグサさんなどアート系の若者が誘ってくれたお店です。
お刺身が、トレトレでおいしいんです。生かきやさざえのつぼ焼きはワダカンの大好物です。通い慣れてきましたので、ご亭主が「今日のおすすめ」を盛ってくれます。私、ワダカンは「おかねに糸目はつけない」タイプではありません。でも、年齢が進んでいます。「おいしいもん、チョコット」がエエのです。刺身に「あおりいか」が入っていると、手を合わせ、気持ちでは泣きます。

そうそう、クジラの復活で「おばけ(尾の身)」が入荷することもあります。大好きです。小学校の給食で「くじらの竜田あげ」がでた時代に育っています。「食育」が一番の学習になっています。ですから、食文化も大切にしてくれる「長田地区(もと林田区)」には感謝状をあげたい位です。
ここでもお酒はぬる燗をのんでいます。「和らぎ水」をチェーサーにしながら。健康シニアなんです。料理は店主がオススメを出してくれました。ホタテバター焼に白子の天ぷら。もう秋ですね。まさしくトレトレです。

そういえば、うちの親戚筋に、江戸時代でしたか、村の庄屋をやった人がいるそうです。庄屋とは村の首長のことですよ。おじいさんやおじさんが、酔いがまわると「先祖は庄屋やったんやー。尻池という土地は、ひろかったんやでー。」と、いつも聞かされていました。

 

ワダカンは西神戸の土地を「グレーター真野」というネーミングで、長田区にとどまらない広い目の地域を郷土史の対象としています。郷土史視点から言うと林田区があったよりもずっと前、この辺りの村「西尻池村」には3つのタイプの庄屋さんがおり、庄屋さんのミックス地域でした。
鈴木家というお侍さん(旗本)の領地、そして、尼崎藩に属していましたから「藩」の領地、そして、徳川幕府の「天領(幕府領)」もありました。この3つの区分に、それぞれ村役人の「庄屋」がいたのですから、3地域3様の日々の過ごし方があったのでしょう。これはまだ、勉強不足です、ワダカンの宿題としておきます。
(2020年春には「新・西尻池公会堂」が国道2号線の大橋近くにできます。人と情報が集まるチャンスと期待しています。)

すっかり酔いが回りました。居酒屋の「庄屋」からは、駒ヶ林駅に戻るよりは「新長田駅(地下鉄・JR)」まで歩く方が早いでしょう。
それでは、地下鉄に乗って、とくに海岸沿いの町を歩いて、“喜楽”に“庄屋”気分で、西の神戸の文化開拓を、ぜひ、楽しんでください。

 

 

 

※掲載内容は、取材当時の情報です。情報に誤りがございましたら、恐れ入りますが info@dor.or.jp までご連絡ください。

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