和田岬駅から徒歩1分のところにある「38 Silver works」。彫金師の宮達朗(みやたつろう)さんは、2013年にこの場所でお店を構え、シルバー、真鍮、プラチナなど、様々な素材を使い、夫婦でアクセサリーを中心に作品を制作しています。二人がつくる作品を求めて、遠方から足を運ぶお客さんもおられるそう。扉を開けると、出迎えるのは、猫のナナ店長。お店には、宮さんの趣味のギターやバイクが置かれています。今回は、和田岬での作品づくりやこの場所に来たきっかけについて、お聞きしてきました。
文:髙木晴香 写真:白石卓也
サラリーマンから彫金師に…そして、和田岬へ
和田岬に来たのは、偶然の出会いからなんです。サラリーマンをしながら彫金教室に通っていた時に、「君のバックルを全部買わせて欲しい。その代わりに、うちで関わっている全ての革職人の分のバックルをつくって欲しい」って、言ってくれた人がいて。そのバックルの制作のために、革職人さんに会いに行ってたまたま出会ったのが、「KNOCKS:BESPOKE」でブーツを作るLROCCOの山口さんでした。
(KNOCKS:BESPOKE:38 Silver worksの隣にある靴職人の共同工房、詳しくはこちらの記事をご覧ください。https://shitamachikobe.jp/nudie/1070)
その時は、三木市の実家に工房スペースを作って作品を作っていたんですが、山口さんと話をしていく中で、「彫金師や靴職人のお店が続くまち並みは格好いいんじゃないか」と、隣への入居を誘ってもらいました。工房で修行をしていたわけではないので、店を開いた当初は、値段設定や実務が分からなくて苦労しましたね。前職で測量士をやっていたんですが、その時にCAD の使い方を覚えたので、今はその技術を活かして、CADでアクセサリーの図面を引いてるんです。アクセサリー制作では、図面を引くことと、実際に出来上がったものを磨くことは、分業されることが多いんですが、僕が両方できているのは、前職での経験があってこそ、ですね。
作品が映し出す、この街の風景
実は「こんなものがあったらいいな」という機能的なアイデアが、作品づくりの原動力になっているんです。機能性や耐久性を重視しながら、デザイン性も追い求めていく。店頭には改良を重ねた作品を置いています。店前に趣味のバイクを停めているんですが、停めているとバイク乗りのお客さんが多く来られるんです。店内にギターも置いていて、ギター好きの方も増えてきました。そうやって趣味が合うお客さん向けの機能性の高いアイテムが増えていっています。僕も実際に使っていく中で、もっと便利にできるんじゃないかとか試行錯誤を繰り返しています。
この街の風景ともいえる造船所や港の景色からも影響を受けています。最近、近くの造船所にぶら下がってるチェーンからインスピレーションを受けて、ブレスレットを作ったんです。もともとの形をコピーしてアクセサリーにしただけなのに、チェーンの機能美から生まれる無敵の格好良さがある。三木にいた頃はこんな作品は作れなかった。できたとしても、作品に説得力がないと思うんです。和田岬にいるからこそ、この作品を堂々と作れたんじゃないかな。
酒場で生まれたご近所づきあい
歩いて5分のところにある「カルチア食堂」は、大切な場所。居酒屋って、食べて、飲んで、帰るのが普通だと思うんですけど、ここは違う。このエリアで商売をやってる人、絵を描いている人、写真家、デザイナーとか、同じ空気感を持った人が吸い寄せられている感じがしている。いつ行っても異業種交流会になってて刺激をもらえるんです。こっちに来た時は、友達がいなかったけど、この場所のおかげでプライベートでも遊べる仲間ができました。「カルチア食堂」に通い始めた頃は、店主のことを「仲島さん」って呼んでたんですけど、ある日、「やめてください!気持ち悪いです!義人(よしと)って読んでください!」って言われて。衝撃でしたね(笑)。そうか、そう呼んでもらえた方が嬉しいんだ、って気づいた瞬間でした。その日から、うちに来てくれる若い子は呼び捨てで可愛がるようにしてて。お客さんだから、初めは敬語で話すけど、もっと距離を縮めたい時に「明日から、ユウスケな!」みたいに。お客さんとの関係性が深まるヒントをもらえた場所でもありますね。
顔の見える関係性で、頭からつま先まで
偶然来た場所だけど、和田岬のまち並みが気に入ってます。最近思うのは、お店の目の前を通る高松線を通り抜ける間に、それぞれ個人の店で、帽子から靴までのアイテムが手に入ったら最高だなって。まだまだ少ないですが、新しいお店が少しずつできているので、お店同士で繋がって、そんな通りを一緒につくれたら嬉しいですね。このエリアは、空き家になった古い家がたくさんある。そこがチャンスですし、場所としての面白さがある。この店舗も、DIYでつくりました。入居した当日に、人生で初めてインパクトドライバーを持って(笑)。始めは妻と一緒に、店の2階を改装して住んでいたんですが、子どもが大きくなってきたので、ご近所に引っ越しました。今は、もっとお店をパワーアップしたいなと考えているところです。3Dプリンターを導入して、制作時間やコストを削減していこうって。それって、和田岬からこの業界を変えるチャンスでもあるので、ワクワクしますね。
彫金師|38 Silver works店主
宮達朗
1978年生まれ。三木市出身。サラリーマンの傍ら彫金教室で修行を行う。2013年に独立開業し、三木市から神戸に移る。「38 silver works」にて、夫婦でシルバーアクセサリーをはじめとする作品制作を行う。2018年より、プロのカメラマンとしても活動を開始。
掲載日 : 2020.07.08