9月23日、第1回目の下町芸術大学 影山裕樹編、そしてその終了後、KOBE MEME参加メンバーを対象に初回レクチャーを新長田のコワーキングスペース「ヨンバンカンニカイ」にて開催しました。今回の講師であり、KOBE MEMEのディレクターを務める影山裕樹さんは、東京で編集者として活動しながら全国各地でローカルプロジェクトの実施、リサーチ、またそれを元に執筆活動をおこなわれています。下町芸術大学には地元の方だけでなく、様々な地域からお越しいただき初回から満員御礼という気持ちの良いスタートをきることができました。
レポート:髙木晴香(神戸大学インターン)、山口葉亜奈(事務局)
下町芸術大学「ローカルメディアの魅力と可能性、その次のかたち」
今回の下町芸術大学のテーマは「ローカルメディアの魅力と可能性、その次のかたち」。日本各地のローカルメディアの事例を多数ご紹介いただきました。地域密着型の情報発信や、コミュニティや人を繋ぐハブとしてのメディア機能に可能性を感じる講義となりました。講義の内容について簡単ですが、レポートをしていきます。
マスメディアとローカルメディア
ローカルメディアとは、一部の人に向けた情報発信であり、情報の発信者と受け手が双方向に影響を与えることのできるメディアを指す、と影山さんは言います。例えば、ローカルメディアは読者である地域の人の反応によって次回の企画がガラリと変わることもあるそうです。そもそも、マスメディアとは、大衆向けの情報を一方向に発信する媒体のことを指すとのこと。しかし、マスメディアとローカルメディアは対になるものではなく、日本のマスメディアは世界から見れば日本のローカルメディアと言えます。それに対し、インターネットの発達に伴い、より手軽に全世界の情報を知ることが可能になり、小さなローカルメディアでもニッチな情報を世界中に発信する可能性を得ました。
また、影山さんは、カナダの英文学者M.マクルーハンを引き合いに出し、「メディアはメッセージである」と話します。つまり、メディアは掲載しているコンテンツだけでなく、媒体となるそのもの自体もメッセージを持ち得るため、コンテンツの内容と同じくらいどの媒体を使って情報発信するかということが重要である、ということです。
ローカルメディアでコミュニティを繋ぐ
そもそも、ローカルメディアをつくることはあくまで「手段」であり、「目的」ではありません。地域の課題を解決することや新たな魅力を発見することなど、地域のために何かをしたい!という「目的」を達成するために、ローカルメディアはあるべきです。
影山さんは、ローカルメディアを「異なるコミュニティをつなぐツールである」と説明しました。ローカルメディアを作る過程において、普段出会わないような人たちが協働し、議論を交わす。そして、出来上がったローカルメディア自体が、自分とは異なるコミュニティに属する人と出会うきっかけとなっていきます。
では、なぜ異なるコミュニティを繋げる必要があるのでしょうか。
それは、コミュニティの分断が現代社会の問題だと影山さんは考えているからです。私たちは無意識のうちに自分と同じような人々と集まってコミュニティを形成する傾向にあります。例えば、世代が近い人同士、共通のルーツを持つ人々などが集まりコミュニティを形成しています。それらのコミュニティ同士が交わることは少なく、無意識のうちにお互いが不信感を抱いてしまう、これこそがコミュニティが分断することの問題なのです。そのためメディアは、複数の異なる価値観や意見から構成する公共的なものであり、コミュニケーションを生みだすツールとして機能することが大事なのです。
コミュニティ同士の摩擦
異なるコミュニティをつないだ時、どうしても価値観の違いによるすれ違いは起こります。しかし、価値観の違いや、ぶつかりがあるからこそ豊かなものができるそうです。
すれ違いを許容する訓練をすることはどこの地域においても大事です。お互いのことをよく知らないがゆえに、摩擦が起こることは当たり前で、影山さんはむしろ摩擦をどんどん起こしていきたいと言います。その摩擦を積極的にとらえ、耐えて続けていくことで、面白いことが起きていくからだそうです。
質疑応答
下町芸術大学の質疑応答では、KOBE MEMEに関する質問が多数寄せられました。その一部を紹介します。
来場者:KOBE MEMEのイメージをもう少し教えてください。
影山:長田といえば鉄人、というように、わかりやすい情報に人々は集まっていきやすいです。でも、表には出てこないけれど長田・兵庫らしいことは住民にヒアリングするといっぱい出てきます。地域をベースにプロジェクトを起こすときは、表に出てこない地域らしさを大事にしたい。そうすることでその地域でプロジェクトを行う必然性がでてきます。目に見えない地域の中で受け継がれている文化的な遺伝子=MEMEを掘り起こすこと。神戸のMEMEを見つけだし、それを未来に継承するためにどんなプロジェクトを掛け合わせるかを考え、事業化を目指していくのがKOBE MEMEです。
他地域でも似たようなプロジェクトはありますが、経済活性に関わるものが多いです。しかしKOBE MEMEでは文化を掘り下げます。地域の人が、自分の地域に誇りを持つきっかけを作りたいのです。
岩本順平(KOBE MEMEプロデューサー):地域課題は今後減ることなくどんどん増えていくと思います。そこに応え続けるのは結構しんどいこと。だから地域課題に答えるというよりは、地域の価値を創り出したいと考えています。それを創り出すヒントとして下町芸術大学などで町のことを学んでもらっています。
KOBE MEME初回レクチャー
下町芸術大学 影山裕樹編の講座終了後には、KOBE MEME参加者を対象とした初回レクチャーが開催されました。
冒頭でKOBE MEMEのプロジェクト概要を説明したのち、地域ごとの4つのグループに分かれ、自己紹介とカードワークショップをおこないました。各グループにはそれぞれ地域で事業やプロジェクトを展開されている方々に、グループ付きメンターとして参加いただき、適宜アドバイスをもらいながらグループワークが進行していきました。
(グループ:長田A、長田B、兵庫A、兵庫B)
カードワークショップ
カードワークショップでは、あらかじめ長田、兵庫南部の地域らしさ(MEME)が書かれたミームカードと事業・プロジェクトのかたちが書かれたプランカード各17枚と白紙カードを数枚用意しました。
(例)
ミームカード:角打ち、粉もん、靴づくり、シャッター商店街 等
プランカード:街コン、民泊、ニュー回覧板、シェアキッチン 等
参加者はそのカードをもとに、地域らしさからどのようなプランが生まれ得るか、また既存のプランにどのように地域らしさを組み込むことができるかディスカッションを行ないました。
30分のグループディスカッション後には、各グループ5分以内で話し合ったプランについてプレゼンテーションおこないました。それぞれ短い時間ながら下町の地域らしさが垣間見えるプランとなっていました。
長田A:おばちゃん×街コン
(地元のおばちゃんと観光客をマッチングさせてガイドツアーを行う)
漁業×シェアキッチン
(長田港で水揚げされた魚を使ったシェアキッチン)
長田B:おばちゃん×街コン
(働き終えた年配の方と地域のお困りごとや外国人移住者をマッチングさせる)
兵庫A:和田岬線×マルシェ
(和田岬線の中でマルシェやカフェなど電車空間を用いたイベント)
防災・シャッター商店街×民泊
(神戸が経験した震災経験を体験し防災について考える民泊)
兵庫B:運河×車内貸切・ショートツアー・外呑み会
(船を貸し切ったイベントや、市場など運河沿いのポイントを巡るショートツアー)
初回レクチャー終了後は長田のディープスポットである丸五市場の中華料理屋「めいりん」さんにて懇親会をおこないました。鍋をつつきながら、大盛り上がりとなり、焼酎の一升瓶が開くほどに。参加者達も打ち解けた様子で、終電まで続く深い夜となりました。
今回の下町芸術大学では、ローカルメディアの魅力とその可能性について学びました。KOBE MEMEでももしかしたら、ローカルメディアを使う、または新しく作るチームが出てくるかもしれません。その時に、どのような内容をどのようなメディアに乗せて伝えるかということをしっかり考えなければいけません。また、KOBE MEMEを神戸でしかできないプロジェクトにするために、長田区・兵庫区の見えない「らしさ」をもっと発見していかなければいけないと実感しました。地域のことを良く知る人に話を聞くことで、人から人へ受け継がれてきたMEMEを発見する。自分の足で街を歩いて、肌で地域らしさを感じる。KOBE MEMEでは今後、地域を良く知る方のお話を聞ける「下町芸術大学」と、自分たちでの調査で得たMEMEを掛け合わせ、新しい価値を生み出していきたいと考えています。
掲載日 : 2018.11.22