野瀬病院 野瀬範久さんにまつわる4つのこと 健康な暮らしをサポートする、人が集う病院づくり

駒ヶ林駅から徒歩1分、新長田合同庁舎の南側にある「野瀬病院」。夏はアロハシャツを着たスタッフがエントランスで出迎え、アットホームな空気に包まれています。2010年に3代目院長の座を引き継いだ野瀬範久さんが2014年に新築移転。新しい病院の7階の多目的ホールとテラスでは年間90回以上イベントが開催され、患者さんや地域の人が集まる憩いの空間になっています。実は野瀬さんは、現役のラグビー選手。「ラグビーワールドカップ2019」の神戸会場ではメディカルスタッフも務めます。今回は、ラグビーでの経験をコミュニケーションや医療分野に活かしながら活躍する野瀬範久さんにお話を伺ってきました。

文:高木晴香 写真:岩本順平


地域の人への感謝から生まれた「多目的ホール」

移転前の病院は、阪神淡路大震災で建物は残ったものの、地域の人口が減少し、外来の患者さんは3分の1に。医療コンシェルジュ(※)を導入し、患者さんに寄りそう努力を重ねた結果、少しずつ患者さんが戻ってきてくれて。その後、病院の老朽化が進み、手狭になったことか2014年に現在の場所に移転しました。ここでは、病院を利用してくれる地域の人が集える憩いの場をつくりたいと考え、7階には誰もが集える多目的ホールとテラスをつくりました。テラスではバーベキューができて、地域の方にも利用してもらえます。多目的ホールでイベントをはじめたきっかけは、林法人本部長が企画した「へたくそピアノコンサート」でした。現在は診察を予約制にしていますが、受付順だった頃は待ち時間がすごく長かったため、楽しく過ごしてもらえるようにと企画したもの。今ではスタッフだけではなく、地域の人たちが演奏会やダンスの発表会の会場として使ってくれて、患者さんに限らず地域のいろんな人が集まるきっかけになっています。病院以外にも、院内保育施設「はじめのいっぽ」や野瀬サービス付き高齢者向け住宅「やっぱりここ」、通所介護施設(デイサービス)「Lien(りあん)」などの事業を通して、子育てから高齢者まで地域のヘルスケアをトータルでサポートしています。

※医療コンシェルジュ…病院のサービスの質の向上のために、病院と患者の橋渡しをする接遇のプロフェッショナル。患者さんの御用聞き。

医療の現場で活きる、ラグビーでの経験

幼少期から続けているラグビーを、大学に入って本格的に始め、現在も医者や歯科医で構成される「関西ドクターズラグビーフットボールクラブ」に所属してプレーを続けています。私が整形外科を専門としているのは、自分自身がラグビー選手だったことが影響しています。ケガをしたときに整形外科の先生にお世話になったことも理由のひとつですが、ラグビーで得た経験が医師の仕事に活きることが多くて。例えば、ラグビーも医療も共通してチームワークが欠かせません。診察だけではわからないことを、スタッフが患者さんとの何気ない会話から引き出してくれたり。医療スタッフが連携し、情報を共有することで、私たちはより深く患者さんのことを知ることができる。チームのために相手にぶつかっていく利他の精神も、患者さんのために尽くす医療従事者の考え方と繋がっているんです。また、私もたくさんケガをしてきたから、患者さんにも同じ目線でアドバイスができると思うんです。そういった個人的な背景もあって、神戸が「ラグビーワールドカップ2019」の開催都市に選ばれたときはすごく嬉しくて。神戸会場のノエビアスタジアム神戸(御崎公園球戯場)から近い野瀬病院は、ケガをした選手の受け入れ先にもなっていますし、私はメディカルスタッフとして現場のお手伝いをさせてもらいます。

“お節介焼き”な地域ならではの患者さんとの距離

このまちには、いい意味でのお節介焼きさんが多いなと思います。身内じゃない人であっても、困っていれば面倒を見るのが当たり前の文化で。「先生!うちの近所の人ちょっと診てあげて」と、ご近所さんが病院に連れてきてくれたこともあります。そんな地域性があってか、医療スタッフと地域との距離もすごく近い。リハビリ専門のスタッフたちが地域の公民館に出向いて健康体操を行うなど、病院としての活動もありますが、プライベートでもスタッフが退社後に近くの喫茶店やご飯屋さんに立ち寄ったりすることも多いので、まちの人たちと自然と友達になって情報交換をしていたり。スタッフが橋渡しをして、お店の方が患者さんとして病院に来てくださることもあります。私たちもお節介を焼くのが好きで。プロのピアニストだったご高齢の患者さんが、「今はもう弾けないけれど、もう一度ピアノが弾きたいなぁ」と診療中につぶやいたことがあって。「それならば!」と、お節介にも病院側でピアノコンサートを主催したら、たくさんの人が見に来てくれて。その方はすごく喜んで、足が動きにくかったのに、その日は自分の足で歩くことができたんです。

医療だけではなく、暮らしそのものをサポート

病院は、その地域に暮らす人がいるからこそ存在する意味があります。長田区は神戸市の中で最も高齢化率が高い区なんです。だからこそ、高齢者の方には元気に安心して住み続けてほしい。これからは、仕事を引退した人が要介護になる前にコミュニティで助け合うCCRC(※)のような仕組みが必要だと考えています。ご高齢の方が生涯活躍できるきっかけをつくることで、このまちはもっと住みやすくなると思うんです。例えば、サービス付高齢者向け住宅「やっぱりここ」では、子どもの面倒を見るのが得意な利用者の方たちに、子どものお世話をお願いしたり、お勘定を違えても良い駄菓子屋を開店したり。一人じゃできないことも、みんなで集まれば挑戦できるんじゃないかって。また、私たちはリハビリを得意分野としているので、アスリートやスポーツをしている子どものコンディショニングや、引退後のアスリートによるトレーニング講座などを開いてより充実したセカンドステージのお手伝いができればと考えています。病院は治療するためだけの場所じゃなく、地域の人の健康と元気もサポートする場所。用事がなくてもそこに行けばなんとかなる、みんなの「困った時の野瀬さん」になれたら。

※CCRC:「Continuing Care Retirement Community」の略。米国で生まれた概念。仕事をリタイアした人が第二の人生を健康的に楽しむ生活共同体のこと。完全な要介護になる前に入居し、必要な時に医療と介護のケアを受けながら住み続けることができる地域のこと。