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神戸の新しい魅力に出会うウェブマガジン

シタマチコウベ

下町日記

うきうき和田岬編 by 山口葉亜奈

vol.08

2018.12.14

第6弾の舞台は、造船をはじめとする大規模工場が立ち並び、工場で働く人々が愛する料理屋が多く点在する「和田岬」。 笠松商店街に佇む本格キムチが味わえる韓国立呑み屋さんに、驚きの価格で堪能できる老舗居酒屋さん、家族で切り盛りするインド料理屋さん、そして下町からニューカルチャーを発信する食堂酒場をめぐります。 はしご酒人は、山口葉亜奈。下町の地元民にのせられて淡路島から長田に移住してきて約1年。町にどっぷり魅せられる新参者です。

文:山口葉亜奈 写真:岩本順平

 

18時半、地下鉄「駒ヶ林」駅で本日の飲み歩き付き人を待つこと15分。このぐらいの遅刻は慣れたもの。この町の時間感覚のゆるさは島育ちの私にとってすごく心地が良い。
淡路島から長田に移住してきて約1年。引きこもりがちな私をこれでもかと飲みに連れ出してくれたボスたちを、今回は逆にアテンドする下町飲み歩きの会。何度も一緒にお酒を酌み交わしているとはいえ、ボスと部下、水入らずの呑みの席は記憶の限りは初。
どんな話をするのかな〜とうきうきしつつ海岸線に乗り込み、選んだ舞台は「和田岬」。
もう何度も来ているはずなのに、いつも駅から出ると方向感覚を奪われる。神戸は、北が山、南が海に挟まれていて、これほど方角がわかりやすい町も珍しいが、和田岬は四方を運河と海に囲まれたちょっとした島のようなので、どうやらその法則は適応されないみたい。
まずは近くのコンビニで今日を存分に楽しむためにヘパリーゼを注入。
今日はお任せください!
と、意気揚々と出発するも方角がわからないのでグーグルマップを拡大してお目当ての店を目指す。

 

下町の飲み歩きといえば、自分の嗅覚を頼りに当てもなく飲み歩くのが醍醐味のように思うが、
今回はバッチリ予習済み。
行きたいお店を余すことなく飲み歩く欲張りコース。

 

一軒目に選んだのは「マルフクキムチ店」。
事前情報は、” 笠松商店街に面した元薬局の韓国立呑み屋さん ”。
まぁだいたいこんな感じだろうとイメージし、あたりを見渡しながら笠松商店街を北上していくと、目についたのは地図を見ずともはっきりわかる目的地。
そのまんま。
薬局だったことがわかる佇まい。テント屋根には消したのであろう「たから薬局」の文字がうっすら残り、飲み屋らしからぬガラス扉には短冊メニューがビッシリ。

マルフクキムチ店

迎え入れてくれたのは、よく焼けた肌のお茶目なお父さん。今回の趣旨を説明すると、飲み物を注文する前から饒舌に何でも話してくれるので、タイミングを見計らってなんとか瓶ビールを注文する。
夫婦で切り盛りしているこのお店は、韓国出身のお母さんが15年前に始めたキムチ専門店の中に、趣味で立ち呑みスペースを作ったのがきっかけだとか。趣味から始まったものなので名前も「マルフクキムチ店」のまま。店内はカウンター5席のこぢんまりとした呑みスペースに、キムチ用の大きな冷蔵ケースが置かれ、メニューは壁に。
料理は役割分担されていて、ホワイトボードがお母さん、コルクボードがお父さん。

ちょうどお母さんが買い出し中だったのでお父さんの渾身の一品、“自家製 焼豚”を注文し、ひとまず乾杯。
待っている間に出て来た付き出しは、“マグロの角煮”に“ズリとニンニクの炊いたん”。
注文を受けてから調理するため、お客さんが退屈しないように付き出しにも力を入れているそう。にんにくはよく炊かれていてホロホロで、においも気にならないハマる味。
ホワイトボードのメニューを眺めていると、見覚えも聞き覚えもない「タリギャリ(玉子)チム」の文字が。想像を膨らませているところで、お母さんのお帰り。すかさずどんな料理なのか尋ねると、日本でいう茶碗蒸しらしい。
出てきたのは、土鍋で蒸されたネギ入りのふっくら玉子。茶碗蒸しと卵焼きの中間ぐらいの柔らかさで、お出汁はごま油が効いた優しい味。思わずほっこりして飲み歩き1軒目だということを忘れてしまう〆感。

今回は食べ損ねたが、今もお店でお母さん自家製のキムチが買えるそう。ただし、カクテキは新鮮で美味しいものを食べて欲しいから、と今は2日前予約の完全受注制。
キムチって保存食じゃないの!?と今までの常識を覆される。キムチは、出来立てはごま油で味わい、食べごろは4、5日寝かせた後、とのこと。
お土産に韓国のインスタントラーメンを持たせてもらい、下町のあたたかさを感じながら次のお店へ。

二軒目は、「居酒屋・お食事処 みつ」。
入る前からまずビックリ、お店の顔である看板に何と“アサヒスーパードライ260円”の文字が。第3のビールすら高騰している昨今、大丈夫か!?と疑いながらお店に入ると、メニューにもしっかり生ビール260円と書かれている。

居酒屋・お食事処 みつ

発泡酒じゃないよ、と冗談をかますのは20年間店を切り盛りするお母さん。安いのはビールだけでなく、お昼の定食も昔と変わらず500円。安く提供しつづけるために、従業員は雇わずお母さんワンオペで営業しているそう。
自分で刈り込んでいると言う坊主頭で快活に笑うお母さんのオススメは、”チーズ餃子”に、”てっちゃんと豆腐のホイル焼き”、そして定番の”とりの唐揚げ”。それらすべてを注文し、生ビールで乾杯。

 

「一人やからちょっと時間かかるけどごめんねー」と言うお母さん。全然、待ってない。カウンターに座る常連さんにも気を配らせながら、手際良く料理する姿からは、長年愛されているわけが良くわかる。
出てきた料理の中でもお気に入りはてっちゃん。脂っこいイメージで普段はあまり好んでは食べないけど、お母さんのてっちゃんは脂に味がよく染みていて口の中で溶ける。脂っこさなんてないし、豆腐との相性も抜群。

最後にオススメしてくれたのは、“キュウリの浅漬け”1本50円。爪楊枝に刺さった浅漬けのキュウリはサッパリとしていて、程よくいっぱいになったお腹には心地よい。また来ると約束して、次のお店へ。

 

三軒目は、インド料理屋「ニーラム」へ。
インド出身の気の良い店主が家族で経営する本格インドカレー屋さん。

ニーラム

メニューを開くとインドビールBOSSを発見。ビール党としては初めて見るビールはチャレンジしたいもの。迷わず注文。
オリオンビールを思い出させるサッパリとした味わい。暑いところで飲まれてるからじゃないかな?と言う所見になるほど、と納得。

 

 

この店で外せないのは“カレーうどん”。
カレーうどんだけどカレーうどんじゃない、というわけのわからぬ噂の真偽を確かめるべく、駄々をこねてお腹いっぱいになったボスたちを説得し、カレーうどんを注文。各々も食べたいカレーを注文する。“オクラカレー”に、“シーフードカレー”、そして“マトンケバブ”。ここはルーを単品で注文できるので、お腹が膨れてきた私たちにはもってこい。それでも出て来た料理の量はお腹が空いている人向け。完全に頼みすぎ。

カレーと一緒にどうぞ、と店主が持って来たのは、色とりどりの自家製付け合わせたち。人参のアチャール(インドのお漬物)、スパイスソース、そしてミントチャツネ。
これフォトジェニック!全ての料理が出揃ってから写真におさめてもらおうと待っていると、最後に出て来たラスボス感のある“カレーうどん”。
確かに。これは噂通りだ。カレーうどんの概念が変わる。
行ってお確かめください、と言いたいところですが、解説します。
まず、カレーうどんと聞いて想像し、相違があるとすればルーのお出汁がトロトロかサラサラか、ぐらいだと思っていた。ところが出て来たカレーうどんの見た目は、ほぼ焼うどん。お出汁で割られることなく、うどんの上にルーがかかっている。パスタ感覚。


いざ食べてみるとうどんとルーが絡んでめっちゃ美味しい。しかし結構な量がある。大食いの秘訣は味変だ!と、自家製ミントチャツネを入れてみる。サッパリとした香りと風味で満腹でもスルスル食べれてしまう不思議。全く協力してくれないボスたちを尻目になんとか完食。
満たされたお腹を抱え、店を後にする。そういえば、その後の情報によるとニーラムには夜用に程よくつまめる“アルコールセット”なるものがあるらしい。もう少し早く知りたかった、、!!

 

四軒目は、今日まわったお店を紹介してくれた料理人 仲島義人さんが経営する「カルチア食堂」。

入るや否や見覚えのある顔が揃っている。19時から始まり、着いたのは23時前。
今回のコースははじめてのお店ばかり、しかも韓国にインドと多文化なお店を巡ってきたので、何となく長旅を終えたような感覚。だからなのか何度か訪れているこのお店は形容しがたいホーム感がある。そういえば店主の義人さんは、私の人生初の取材相手。これまでで一番緊張した思い入れのある仕事。是非、shitamachi NUDIE vol.7も読んでみてくださいね。笑
満腹感を紛らわすために全員でジントニックを注文。サッパリとしていて暑いときに飲みたくなる味。ならばジントニックも暑い地域で生まれたのでは!?と調べてみると、ご明察。イギリス東インド会社の社員が、派遣先のインドで考案したカクテルらしい。つい飲み過ぎそうになるけど、次の日に響くのでほどほどに。

カルチア食堂の料理はどれも美味しい。満腹なのが悔やまれるが、義人さんならきっとどうにかしてくれるだろう、と無茶振りをする。
「お腹いっぱいでも食べたくなる料理をください」
出て来たのは、”タコのお刺身”、”セロリのピクルス”、”鶏のタタキ梅肉のせ”。
さすが義人さん、大正解。
新鮮ゆえか少し透明がかったタコのお刺身にはみょうがと生姜がたっぷりのっていて、お箸が進む進む。

居合わせたお客さんと盛り上がっていると、気づけば海岸線の終電間際。惜しみながらも各々の帰路に着く。気のおけない人たちとの飲み歩きはやっぱり楽しくて、ついつい時間を忘れてしまう。
終電の海岸線はほどほどに混んでいたが、公共空間らしくないアットホームさが漂っていたのでちょっと足を投げ出して、ほっこり。
次回は自分でもお店を開拓して、“ボスたちと行く!アテンド飲み歩きの会第2弾”を開こうと勝手に構想中。次はどこへ行こうかな〜。おすすめお店情報をお待ちしております!

 

 

 

※掲載内容は、取材当時の情報です。情報に誤りがございましたら、恐れ入りますが info@dor.or.jp までご連絡ください。

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