マルナカ工作所山崎正夫さんにまつわる4つのこと 六甲の木と港町をつなげる、新たな循環

地下鉄海岸線ハーバーランド駅から海に向かって10分ほど歩けば見えてくる、古い造船所の跡を活用しているマルナカ工作所。代表の山崎正夫さんは、かつて兵庫津と呼ばれた港町神戸の原点となる場所で船大工の工場を引き継ぎ、木を中心とした新たなコミュニティをつくっています

文:東善仁 写真:岩本順平

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工場のあるこの町の風景を残していく

船大工町の港

このあたりは船大工町とか、鍛冶屋町とか船にまつわる産業がたくさんあったんです。それが衰退していっています。マルナカ工作所を貸してくれた中田さんも船大工で、むっちゃ元気やねんけど87歳で引退されて。この辺には船大工の工場や洋家具の工房が11件あったのに、もうここしか残ってないです。僕はこの港町がどこにでもある風景に変わっていくのがいややなあ、残していけたらいいなという思いがあって、この工作所を借りることにしました。

他にも廃業する工場とかがあれば何とかならんかなと。そんな想いから、兵庫区の工場承継ハザードマップみたいなものを作りたいと思っています。消えていく町工場を調べてストックしていって、ものづくりをやりたい若い人に「機械もそろっているし、使ってみない?」と紹介できるような仕組みをつくりたいんですよ。ここの名前を変えずにそのまま「マルナカ工作所」にしたのも歴史を継承したいという気持ちからです。

生き続ける「マルナカ」の看板

マルナカ工作所の看板

マルナカ工作所の看板を残したことで、オーナーの中田さんのところには今でも電話がかかってきて、たまに「なんか、ワークショップが云々とか、わけのわからんこと言っとるぞ」と連絡が来たりします(笑)。かけ間違えたんでしょうね、きっと。でもその看板のおかげで「先代にうちのおやじがお世話になったんです」と、工具を寄贈してくれた人が2、3人来られました。「これ使ってくれ」と、マルノコとかを持ってきてくださったんですよ。昔から住んでいる人にも気にかけてもらえてコミュニティの出発としてはよかったです。

また、ここを再活用する際には、クラウドファンディングで「マルナカ工作所プロジェクト」を立ち上げて、モノづくりの拠点をつくるための内装工事の費用や、より充実した木工機器の購入等の費用を募り、仲間を集めました。関心の高い人がたくさん応援してくれて、新聞にも取り上げられて町のPRにもなりました。ちなみに、裏手にある「喫茶おもいつき」さんが4姉妹で長年やってはって、有名なんですけど、87歳の中田さんのことを「なかたくん」と呼んでます(笑)。
それだけ、人と人の繋がりも歴史がある町なんですよ。

六甲山の木を港町で育む循環経済

僕は前職で塗料の営業をしていたんですが、その頃から木材の加工や生産者の方とお付き合いをする中で、地域の山が抱えている課題を解決することを仕事にしたいと思っていました。あるとき、神戸市の防災課で六甲山のことをやっている人と出会って聞いたのが「実は、六甲山も手入れしないと森を保全できない状況」だということでした。表六甲は広葉樹で人工林じゃない、でも裏側にはスギやヒノキの人工林があるんです。

うちは市有林の間伐された丸太の搬出及び製材の仕事も受けているんですが、市有林の間伐材は販売できないので啓蒙活動の材料にして、ワークショップでいただいた参加費を基金へ寄付しています。もし販売するにしても木材って運搬コストがかなりかかるんですよ。だから、近くで加工しないと産業として成り立ちにくいんです。神戸だったら六甲山の木をこの辺りの町工場で製材して地元の店舗や企業さんに使ってもらうという循環がつくれると思います。小さな循環型経済とでも言うんでしょうか。林業のない六甲山と港の工作所をつなげて、持続可能な木材の活用方法を考えているところです。

繋がり広がるクラフトコミュニティ

兵庫区のマツモトコーヒーさんの新しい店舗を近所の建築事務所ウズラボさんが設計して、地元の三栄さんという加工所で製材して、うちもデッドストックなどを提供してつくりました。このへんで材木の調達から全部やれたのでそういうのがクラフトコミュニティかなと。野菜だったらこの地域でこの人が作ったから安心というのが訴求しやすいと思うんですけど、木材ってなかなかそうなりにくい。地域のものを仕入れるほうがめちゃくちゃ面倒くさい。でも、出来たときに「うちの店は六甲山の木でつくられたんだよ」というのが語られて家族や友達との会話になっていけばいいなと思いますね。

今まではそれがなかったから地元の山を見ずに外国産材を買っていたんだと思います。神戸に限らず高齢化でどんどん木材加工業の方が廃業していってるんですが、そういう場所のデッドストックを仕入れて扱ってもいます。カタログ品番に無いいわゆる一点ものです。マツモトコーヒーさんのときは古材でアフリカの南洋材を持っていたのでそれにしたんですが、よく考えたらそれ豆科やなあ!ってね。木材コーディネーターをやると、そういうストーリーが生まれるのが面白いですね。