ウズラボ 竹内正明さんにまつわる4つのこと 木材と加工、町の資産を活用して仕事をすること

兵庫区須佐野通に事務所を構え、関西を中心に建築設計に携わる竹内正明さん。開口一番に「地域と自分ってそんなに繋がってないですよ」と言う竹内さんからは、地域の中で失われつつある産業と、それを活かし新たなものを生み出そうとする想いやアイディアが出てきた。歴史的にも木材が集積してきた町で、建築家として仕事と暮らしを営む竹内さんから、地域との結びつき方など、4つのエピソードをお聞きしました。

写真:岩本順平

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熟練した加工技術を活かし、新たな形を生み出す

正直なところ、この町だからと特別にこだわって取り組んでいることはないです。

一般的に、建築設計という仕事は、ひとつの地域だけを相手に商売するという状況にはなりにくいし、地域に対しては客観的な立ち位置から提案しないといけない場合が多いです。特定の地域にガッツリと入り込まなくても建築の仕事自体は成り立ちます。また、私はこの町で生まれ育ったわけでもありません。両親は京都府亀岡市出身、私自身は大阪府枚方市で生まれ、実家の窓を開けると「ひらかたパーク」の桜が見える、そんなところで育ちました。

大学に入って京都でひとり暮らしを始めてからは、10年以上にわたって京都を拠点として過ごしました。この時点で、神戸との縁はほとんどないし、自分が神戸に住むというイメージはまったくなかったですね。結婚して、子どもが生まれたタイミングで、もろもろ事情があって神戸に引っ越して10年以上。ようやく神戸で暮らすということに違和感がなくなってきた気がします。これは本当に最近の話。

実際、図書館や本屋さんに行って神戸について書かれた本を読むと、知らないことばかりで新鮮です。まだまだ新参者だと思っています。こんな感じなので、この取材を受けること自体がおこがましいかなと。

ウズラボのオフィス周辺は歴史があって、調べるといろいろおもしろいです。兵庫城や初代兵庫県庁の跡地など、近所には史跡がいっぱい。犬の散歩をしていても退屈しなくていいです。また、運河があるのも気に入っています。犬と一緒に走るには最適な場所なので。

戦後は運河を貯木場として利用していた時期があったようです。製材所や材木屋、木材加工の町工場が多く集まっていたと聞いています。いまはかなり減っており、私のような新参者には全盛期のすごさがわかりません。ただ、その名残はいまだにあって、例えば私の義父は現在もこの地域で木材加工業を営んでいます。このオフィスの内装で使っている木材は、義父に加工を頼んだものばかり。売り物として使えなくなった廃材を近所の材木屋さんから仕入れたので、揃っている材はほとんどないです。

厚みや幅がバラバラでしょ。こういった木材をうまく施工できるように特殊な実加工を義父に施してもらったので、さまざまな樹種の無垢材で空間を構成することができました。そういう意味では、この町がもつ木材加工技術を活用してつくった空間と言えますね。

地域と連携したプロジェクトから広がる仕事の幅

嶋屋喜兵衛商店の主屋内観。主屋が明治44年に、蔵が大正6年に建築された元庄屋の町家建築。現在、第二期工事が実施されており、リノベーションによって人が集まる場として生まれ変わろうとしている(撮影:ウズラボ)

意図的というわけではないのですが、ウズラボの仕事のほとんどがリノベーションによる案件です。エリアは大阪が多いです。ただ、最近は神戸や京都の物件も出てきてホッとしています。昨年の神戸の仕事があったから、今日も取材に来てくださったわけですし。

リノベーションは、すでに存在する建築に対する提案なので、設計する際に読み解かないといけない条件の難易度が高いです。そのため、プロジェクトを進めていくうえでの私の役割は交通整理かなと思っています。クライアントの要望や建築としての提案性を具体的な形にするため、予算や構造・法規といった制約を踏まえて、渋滞に陥りがちなプロジェクトを滞りなく進めていく。建築設計の範疇におさまるものばかりではないので、どう手をつけていいのかわからないものも多いです。その分、いろんな経験が積めて仕事としてはおもしろい。大阪では長屋や町家という古い建物の改修に携わっています。職と住が近接した昔ながらのコミュニティの中で、地域の人たちが集まって交流できるような場をつくりたいですね。

例えば、住之江区の安立商店街の中にある町家・嶋屋喜兵衛商店では、「おふくいち」をいうマーケットを定期的に開催してきました。ここでは、マーケットの企画・運営はもちろんのこと、建築設計以外の仕事をたくさんやりましたよ。建築を生業としているのに「味も見た目も嶋屋喜兵衛商店らしい」というテーマでオリジナルブレンドのコーヒー豆をつくって、その販売もしました。その甲斐あって、家具職人、庭師、お茶屋、陶刻家など、「おふくいち」を通じてたくさんの方々と交流でき、有意義な経験ができました。

地域と連携した仕事は、その地域のリソースをいかに活かせるか、ということを考えざるを得ないのですが、それを追求していくと建築設計から離れたところに行きつくというジレンマがあります。これをどこまで楽しめるのかということが、地域に関わっていくときのポイントかなと思っています。ただ、限定された地域内だけにとどまっているのはおもしろくない。特定の地域と関わりながらも広い世界を見据えたいですね。「おふくいち」で集まったなかで「これはすごいな、見習いたいな」と思った人たちはそんな感じでした。

地域の資源を最大限に活用した改修計画

MATSUMOTO COFFEE warehouseの外観。阪神高速の高架下に位置し、もともと畳屋さんの倉庫だった即物的な建物をリノベーション。芳醇なコーヒーの薫りが漂っている(撮影:ウズラボ)

オフィスのすぐ近くにマツモトコーヒーというコーヒー豆屋さんがあります。豆を買い付けるために世界のコーヒー産地に赴き、自分たちが美味しいと思うものを厳選し、「スペシャルティコーヒー」と呼ばれる美味しいコーヒーを消費者に届ける。こういったこだわりをもって仕事をされています。

神戸に引っ越してきた当初、オフィスの近所でコーヒー豆を買いたくて、たまたま入ったのがマツモトコーヒーでした。一番近いところから試しに買ってみようと思っただけで、こんなに美味しいコーヒー豆に出会えるとは思ってなかった。さすが神戸、コーヒーに対するポテンシャルが高いですね。

最初は簡単なあいさつを交わす程度で、たまに豆を買いに来るだけの客という感じでした。3年半ほど前にKIITO(デザイン・クリエイティブセンター神戸)で開催された「神戸珈琲学講座」というイベントがあり、その講師をされていたのがマツモトコーヒーの松本真悟さん。いつも飲んでいるコーヒーについて詳しく知りたいなと思って講座を受けたのをきっかけに、マツモトコーヒーのみなさんと親しく話をするようになりました。

そうこうしているうちに、私がオリジナルブレンドの相談を持ちかけて、つくってもらったのが嶋屋喜兵衛商店で販売した「しましまブレンド」です。いまみなさんに飲んでもらっているコーヒーもマツモトコーヒーで買いました。薫りがよくて美味しいでしょ?こういった交流を続けていくうちに、業務拡大を考えていたマツモトコーヒーから設計の依頼を受けました。それが昨年完成した「MATSUMOTO COFFEE warehouse」です。

ここで使った木材の多くは、兵庫区西出町でマルナカ工作所を運営されているシェアウッズの山崎正夫さんに相談して選びました。床材は、シェアウッズ経由で同じ兵庫区にある材木屋さんの三栄に入れてもらいました。三栄は兵庫運河周辺に軒を連ねた製材所のひとつで、このあたりで現在も稼働している唯一の存在です。余談ですが、三栄の製材ゾーンの横には北欧の家具・雑貨とカフェの「北の椅子と」があります。知り合いが来たときはいつも「北の椅子と」に案内しています。兵庫区のおすすめスポットですね。

その他にも、柱や梁といった構造材はすぐ近所の材木屋さんから仕入れました。ウズラボオフィスの内装で使った木材を仕入れたところです。そして当然ですが、使用した木材の加工は義父の工場でおこないました。本当に狭いエリアの中で必要な材料を手に入れることができる、これがこの町の魅力のひとつだと思います。

馴れ合いではなく、自立した人たちの集まりなのがいい

「MATSUMOTO COFFEE warehouse」では、小さなエリア内に拠点を置く者同士が協力して仕事をしたわけですが、それがとても刺激的な経験となりました。一緒に仕事をすることで、お互いのことをさらにわかり合えますし、絆も深まってきます。

特に木材については、この町に住むようになって本当にいろいろなチャレンジができるようになりました。身近にいる人たちが木材に対するしっかりとした知識をもっていて、それを加工する技術があるということは、私たちが建築設計に携わるにあたって大きなアドバンテージになります。木材に対する自由な発想が建築の可能性を広げてくれると思います。

いま気になっていることは、どれくらい先までこの状況を維持できるのかということ。この地域で木材に関わる多くの人が70代に差し掛かっています。継承者がいるところもあるけど、そうでないところも多い。継承されない限り、技術は消えてしまう。これがとてももったいない。自分に何ができるのかがわからないので実行には移せていませんが、何らかの手立てが必要と感じています。

この町で仕事をして気づいたのは、みんなが自分の仕事に対してプライドと責任をもっていることです。それは木材でもコーヒーでも同じ。自立した存在として交流しているからこそ、お互いにリスペクトし合っているし、それぞれの得意分野を正確に把握しています。そのため、協力関係もつくりやすい。でも馴れ合いはまったくないです。この距離感がとても心地いい。

木材やコーヒーって、世界的に流通しているものですよね。仕入れるためには輸入しないといけないし、海外を相手に仕事をする機会が多いからか、みなさん、視野が広くて考えていることのスケールが大きい。そのうえで、地域に目を向けているということが共感できます。そう言えば、「北の椅子と」も北欧に行って商品を買い付けていますよね。

こうやって、広い世界も身近な場所も、その両方を見ている人たちからは見習うことが多いです。私の場合、本当にたまたまこの町で暮らし、仕事をすることになりました。業務として請け負っている仕事の多くはこの町と関係ありません。この町にこだわって何かしているのかと問われると、力不足も甚だしいのですが、やっぱり何もしていないと言わざるを得ないですね。ただ、町の人たちから多くの刺激をもらっていることは間違いないです。そのおかげで充実した日々が送れていますし、この町での出会いには感謝しかないです。