兵庫図書館 垰下憲司さんにまつわる4つのこと カウンターの外に出て見つけた、地域と共存する図書館の姿

JR「兵庫駅」を南に出てすぐ、広場のすぐそばのビル2階に兵庫図書館があります。大きなガラス窓に囲まれた明るい室内には、至る所にオリジナルキャラクターのとしょこちゃん(※)や手作りの人形が飾られており、温かい雰囲気が漂います。今回お話を伺った館長の垰下憲司(たおしたけんじ)さんは、「カウンターの向こうへ飛び出そう」「本当の地域の図書館になる」をスローガンに積極的に図書館の外に足を運び、地域の方と協力しながら様々なワークショップやイベントを企画しています。
※としょこちゃん:イラストレーターのザ・ロケット・ゴールド・スター(山崎秀昭)さんによって手掛けられた兵庫図書館オリジナルキャラクター。

文:高木晴香 写真:阪下滉成


自分たちは本当に“地域の図書館”と言えるのか

兵庫図書館では2011年から働いています。それまでは別の図書館に勤務していて、もう少し大きな目線で図書館と向き合いたいと思っていたところ、ちょうど兵庫図書館の館長として働くことが決まって。3年間ほど館長補佐として働いていましたが、当時の館長が辞職し、僕が引き継ぐタイミングの2015年5月に父親が末期の膵臓癌であることがわかったんです。仕事を辞め、実家のある広島に戻って父と過ごそうと思いましたが、父は「館長になって図書館とスタッフを育ててやれよ」と背中を押してくれて。だから自分が図書館を育てていこうという強い思いを持って館長に就任しました。僕が館長になって初めての会議では、「兵庫図書館は本当に“地域の図書館”なのかな?」とスタッフに問いかけました。というのも、当時の兵庫図書館は地域の図書館として存在しているはずなのに、当時は地元の行事に呼ばれていなかったし、自分たちも地域でどんな人が活動しているか知らなかったから。スタッフたちも同じ思いだったみたいで。まずは兵庫区のことを知ろう、と館内整理日などを利用してインターネットや書籍で調べることにしたんです。すると、兵庫区には魅力的な活動をされている方がたくさんいることがわかって。それからはイベントなどには積極的に顔を出し、区内の方と繋がっていくようになりました。

地域ならではのイベントで、まちと図書館を繋ぐ

地域の人との繋がりがきっかけで生まれた企画の一つに、兵庫駅南公園で開催している「こどもフェスタ」があります。「兵庫区まちづくり活動プラットフォーム事業」の講座に参加したとき、一緒に「こどもフェスタ」を立ち上げた、主催者の一人である河野真紀さんに出会いました。河野さんに、兵庫駅南公園は広い土地があるのに活用されていないので、そこで子どもたちが自由に遊べるお祭りや子ども会を企画できないかと相談されたんです。せっかく広い敷地があるのなら、いろんな人が関わった方が面白いと思い、兵庫区内で活動されている方に声をかけていくとみなさん協力してくださって。人が人を呼んで、様々な方を巻き込みながら次で5回目を迎えます。図書館単独でできることは限られていますが、新しい場所や人に出会った時「図書館なら何ができるだろう」と考えることはワクワクするし元気になりますね。兵庫図書館にはスタッフ発のイベントもあります。2017年に開催した「兵庫下町まちあるき」もその一つです。僕よりも兵庫区に詳しいスタッフが、兵庫区南部にはレトロな喫茶店や味のある個人商店が多いので、ぜひ紹介したいと。そこで下町グルメライターの芝田真督さんをお招きして町歩きツアーを企画しました。区内外から十数名の方が集まり、兵庫区の神戸市営地下鉄海岸線沿線を巡りました。イラストレーターの赤松かおりさんも同行していただき、巡ったお店や景色をイラストマップとして描いてもらいました。しばらくは館内に展示して、その後は町歩きで訪れたお店にそれぞれのお店のイラストをプレゼントしました。みなさんすごく喜んでくれて今でも飾ってくれているそうです。

公共の図書館だからこそ、みんなで作っていく

児童用の椅子のうち、革部分がオレンジ色以外のものがワークショップにて修繕されたもの
実は、兵庫図書館の児童用の椅子は地域の子どもたちと一緒に修理したものなんです。当初は机が痛んでいたので修繕するつもりだったのですが、修理費が高くて。どうしようかと悩んでいるときに館長補佐が「自分たちで修理してはどうだろう」と提案してくれたんです。僕たちは公共の図書館だし、せっかくなら自分たちだけじゃなく地域の人に関わってもらおうと思って。でも僕たちにはノウハウがないので、何屋さんに頼めばいいのかわからずインターネットで調べていると、「北の椅子と」(※)という北欧ビンテージ家具屋さんが兵庫区の和田岬にあり、家具の修理もしていることがわかりました。さっそくメールしてみると、店主の服部真貴さんは本が好きな方で、兵庫図書館も利用してくださっていて。すぐワークショップに協力してくれることになりましたが、机だとやはり予算内に収まらず。でもどうしても地域の方と一緒にやりたかった。すると、服部さんが椅子なら予算内で調整しますと提案してくださって。ちょうど椅子も修理が必要だったので、地域の子どもたち8人と一緒に、「北の椅子と」の工房で、椅子の革の張り直しワークショップをしました。みんなの図書館だからこそ、地域の方や、兵庫区で活動している方と協力しながら作れたのは意義深かったと思います。

新たなコミュニケーションはカウンターの向こうで生まれる

以前、図書館の近所の理髪店で、小さい男の子が捕まえたカブトムシを店主に見せながら自慢していたのを見たことがあります。それって、よく顔を合わせる仲じゃないとできないコミュニケーションだと思うんです。兵庫図書館もそういう存在でありたいと思っていた矢先、図書館の近くの小学校に通う2年生の男の子が『ゴジラ全集』という10ページほどの自作の本を持ってきてくれました。それがすごく嬉しくて。他にも、ご自身で展覧会を開いている方が、僕が行けないからと作品を図書館に持ってきてくださったこともあります。最近は、インターネットを使えば誰にも会わずに本を借りることもできてしまいます。だけど利用者の方と顔の見える関係でありたい。僕たちは本のプロだし、図書館に来ている人も本を読む人が多いです。だから図書館にいる人と話せば様々な知識や経験を知ることができる。そんな場所が日常と隔絶していなくて、自分のすぐそばに感じてもらいたいんです。そんな関係性を作るには、地域と密着したイベントを企画し、みなさんとコミュニケーションを取ることが不可欠だと思っています。だから、これからもカウンターの向こうへ飛び出して地域と交流していきたいです。