株式会社PLAST 廣田恭佑さんにまつわる4つのこと 地域コミュニティの中から、福祉を支える形を作り出す

新長田駅から南へ徒歩8分。大正筋商店街を南へ歩いていくと、廣田恭佑さんが営む保育園「ジャングル・ラボ」と、その50メートル程先にはリハビリ施設「リハビリモンスター」がみえてくる。ガラス張りで、外からのぞいてみると楽しそうに体を動かす高齢者の姿や子どもたちの笑顔をみることができる。2014年から1年ごとに、医療、介護、保育等の施設をつくり、現在は直径200メートル圏内に計6か所の施設を運営している理学療法士の廣田さんに、新長田での活動や町の福祉を支える思いをお聞きしました。

文:岡部敏子 写真:岩本順平


施設を卒業することを目指して、回復するまで、とことん関わっていく

理学療法士は、病院などに勤務して、医師の指示の下、けがや病気などで身体に障害のある人に、立つ、歩く、などの基本動作の回復を目的にリハビリ訓練をするのが一般的。けれど、リハビリ治療以外でも日常生活の中に、動作の専門家としてもっと関わりしろがあるのではないかとの思いから独立しました。そして、かかりつけ理学療法士として、気軽に相談できる窓口を開こうと、2014年に新長田で「株式会社PLAST」を設立しました。医師が組織内におらず、理学療法士主導でつくった施設は、当時はめずらしかったと思います。最初につくったのは、外出が可能な人がリハビリをするための施設「プラスト新長田」。その後、家から出られない重症な人のための訪問看護ステーションや退院後のフォローとしての接骨院「ぷらすトほねつぎ」、今すぐ介護が必要でない症状の軽い人を対象にしたリハビリ施設「リハビリモンスター」など、毎年1店舗ずつ立ち上げました。どれも利用者が回復して、その施設を「卒業」して、家に帰ることを「ゴール」に設定しています。
また、2018年には主に重症心身障害児を対象とした「ヒミツキチ」を立ち上げました。心身に重い障害のある子どもは、他の施設ならずっと寝かされているという状態になることが多い。だから僕たちは、保育だけでなく、歩く、食べるなどの日常生活の基本動作の回復もサポートしたいと思って。さらに、障害のあるなしに関わらずいろんな子どもたちが一緒に過ごしてほしいという願いを込めて「ヒミツキチ」の隣には企業主導型の保育園「ジャングル・ラボ」をつくりました。

 

リハビリを通して町に出かけるきっかけを作る

事業をする中で、利用者が外に出かける「目的」を作ることが大事なんじゃないかと思うようになりました。買い物や習い事など外出する目的がないと、家に引きこもってしまい身体の機能が落ちてしまう。これからのリハビリは、身体機能を向上させるだけではなく、生活機能を向上させることも求められています。例えば、日常環境を整えるための掃除や洗濯などの「活動」を促したり、ボランティアや自治会などへ「参加」する機会を作り、地域の中での生きがいや役割を作ることをお手伝いしたり。だからまず、地域のコミュニティをつくることで、その「活動」と「参加」の場をつくりたいと考え、2018年9月には「カタテバル」というイベントを企画しました。六間道商店街にあるレンタルスペース「r3(アールサン)」をお借りして、脳梗塞が原因で片側の手足が動かせない片まひの後遺症を持った方々が、地域の人たちに料理をふるまったんです。きっかけは、ある50代の女性。僕の施設でリハビリのために調理訓練をしていたけれど、旦那さんから家で料理をするのは危ないと言われてしていなかった。調理する能力はあるのに使っていなければ、後退してしまう一方です。だったら、その人がしたいことやできることを、存分にできる場をつくることで自信をつけてもらおうと考えたんです。そして、調理中の様子をご家族にも見てもらうことで、その人ができる部分とサポートが必要な部分を理解して、安心してもらおうと思って。また、参加者には利き手ではない方の手で食事をしてもらい、手が思うように動かせない状況を少しだけど体感してもらいました。片まひ当事者との間では日頃の調理方法の工夫などの意見交換が行われたりして。このイベントがきっかけで片まひの方々が使いやすいエプロンなどの商品開発を進めています。

 

新長田のクリエイターから学んだ、医療課題に対するアプローチ

起業の地に新長田を選んだのは、たまたまなんです。病院を辞めてから個人事業主としてトレーナーをしていた間に、新長田在住の利用者さんのところに通うようになって。ちょうどいい物件が空いていたので、借りることにしたんです。新長田に来て印象的なことは、個性的でおもしろい人がすごく多いこと。病院にいたら出会えなかったであろうアーティストやクリエイターとの関わりが一気に増えました。そのきっかけはちょうどできたばかりの「r3」に、ランチやイベントなどで顔を出すようになったから。行くたびに建築家や写真家、デザイナーなどいろいろな人とつながっていきました。新長田のクリエイターたちと関わるようになってからは考え方の部分で刺激を受けています。僕たちのような医療資格保持者は、専門分野に特化し過ぎてしまう。今、現場にある課題に関しては解決策がわかるんだけど、前例のない問題が起きたときに思考が止まっちゃうことも多々あって。この先どういう問題が起こるのかを想像し、その問題を未然に防ぐためにどのようなアプローチすべきかを、クリエイターたちに学んでいます。彼らは結果や原因にとらわれず、目的に向かったクリエイティブな発想を持っていて。その考えにならってスタッフ研修なども行っています。例えば、「リハビリモンスター」では、今すぐ介護が必要でない症状の軽い人を対象に、介護を「予防」するためのリハビリを行っています。「予防」といっても定義があいまいで、メタボリックシンドロームから腰痛、肩こりの解消、さらには認知症まで様々。何にどうアプローチしていくのかは今後の事業の展開としては重要になってきます。そこで、クリエイターたちの考え方を参考に、スタッフとともに「予防」をどのように定義するのか話し合いました。そうすることで、「リハビリモンスター」が目指すゴールを見定めるヒントを得ることができました。

 

まだ眠っている人の価値を引き出す「町支え」を目指して

どんな人もこれまでの人生で得てきた経験や技術はきっと誰かのためになる。それを実現するために、その人の中にまだ眠っている価値を引き出すような役割を担いたいと思っています。例えば、編み物が上手な利用者さんがいて、実際僕も作品をもらったりするんだけど、もっと多くの人にその作品を見てもらったり、買ってもらったりするようなサポート体制がつくれたら、その方はもっとイキイキするんじゃないかなって。その体制をつくるためには、地域や町が一体となってサポートできる場は必要で。僕らは町をかげながらサポートする「町支え」みたいなことができるんじゃないかなと思うんです。僕らの事業はそもそも、医療保険や介護保険などの社会保障費を使って行われている。つまり、国の税金に頼っていることになります。現在の政府のやり方では、社会保障費が増加した分、一人あたりの与えられるサービスの量は減ってしまう。僕たちは、利用者にとって過剰な医療や介護サービスを抑えて、社会保障費の削減に寄与していかなければなりません。だから、次に展開するとすれば、医療や介護サービスという枠組みを外し、僕たちが提供するサービスに付加価値を付けて、「この金額でもこのサービスだったら行ってみたいな」と思ってもらえる場が提供できたらいいなと。利用者さんに自発的に足を運んでもらえる場ができることで、自然と体が動き、日常生活動作の自立につながり、結果的に介護を予防できる。それが地域のコミュニティをつくることになっていく。そういうサイクルをつくることが究極のゴールかなと思っています。