NPO法人J-heritage 前畑洋平さん にまつわる4つのこと ひねりを効かせた視点で町の魅力を発掘する

今回、取材したのは兵庫区を拠点に活躍している産業遺産コーディネーターの前畑洋平さん。産業遺産の保存や活用を提案する「NPO法人J-heritage(ジェイ・ヘリテージ)」の代表として、産業遺産の価値を伝えるべく全国を飛び回っています。取材場所となったのは地下鉄海岸線「中央市場前」駅から徒歩5分のところにある「旧岡方倶楽部(小物屋会館)」。この建物は、昭和2年に地域の社交場として建てられ、今も昭和モダンな風情を残す建築物です。2018年には登録有形文化財に指定され、兵庫津の歴史資料館として一般公開されています。

文:山口葉亜奈 写真:岩本順平


過去の痕跡を見出し、町の変遷を辿る

僕が兵庫区に移り住んで来たのは8年前。兵庫区出身の妻から、家を購入するなら実家のある新開地周辺がいいという提案があり引っ越してきました。30年間、京都に住んでいた僕としては、神戸イコール三宮や旧居留地とおしゃれな町並みのイメージが強かったので、新開地のディープな雰囲気はとても新鮮でしたね。
僕は妻とともに産業遺産の価値や魅力を発信する「NPO法人J-heritage(以下、J-heritage)」という団体を立ち上げ、産業遺産の保存や利活用を提案することをなりわいにしています。活動範囲は全国にわたるので、神戸に特化した団体ではなかったのですが、移住してきてからは、妻の地元ということもあり、地域の人たちとのおつきあいが深まって今では神戸での案件が増えています。兵庫区のツアーガイドをすることもあって、新開地や和田岬、ここ「旧岡方倶楽部」がある兵庫津を巡ったりします。このあたりは、安土桃山時代にはお城があり、明治時代には初代兵庫県庁が置かれた歴史的にすごく魅力ある地域。また戦前から造船所があり潜水艦を製造していたことから、第2次世界大戦で猛攻撃を受けて甚大な被害を受けた土地でもあります。そういった歴史や過酷な経験をしてきた痕跡は、今はもう目に見えないけれど、現在も潜水艦が製造されていたり、町のあちこちに歴史を感じ取れるものが密かに点在しているので、町をじっくり観察しながら歩いていると、この土地の変遷を辿ることができるんです。

歴史的な価値と未来へ残すべき財産であると知ってもらうこと

灘区にある「摩耶観光ホテル」(撮影:岩本順平)

産業遺産とは近代化の過程で地域に根付いた産業の姿を伝え残す遺物のこと。どのような視点で遺物を遺産として評価するのかで見え方がガラリと変わるんですよね。例えば“廃墟の女王”と呼ばれる灘区の「摩耶観光ホテル」を産業遺産として保存するプロジェクトに参加しているのですが、ほとんどの人が産業遺産ではなく、廃墟だと認識しています。でも地域の理解ある人から見れば古くなっても「摩耶観光ホテル」は観光資源であり、考古学の専門家から見ればすぐれた建築技術を持った価値ある建築物ということになる。要は評価する人の主観でその場所が持つ意味は変わってくるんです。だから僕がしないといけないことは、その場所が廃墟であるか産業遺産であるかは別として、ホテルそのものに歴史的な価値があり、未来へ残すべき財産であると広く知ってもらう機会をつくること。もともと僕自身も廃墟という空間そのものに惹かれて全国各地を巡るようになり、調べていくうちに、だんだんその価値に気付いていったんです。今の活動に至ったのも、廃墟のままおいておくといつか取り壊されるかもしれないし、産業遺産として守っていかなければ、と思ったから。だから、ただやみくもに僕ら専門家が評価して産業遺産として発信するよりも、地域の人たちがその廃墟に価値を見出せるよう、そこに暮らす人たちの視点を育むことが僕たちの役割だと思っています。

ノウハウをパッケージ化して地域が主体となる活動を支える

(撮影:前畑洋平)

「J-heritage」は、産業遺産を残していくことを目的としているけれど、常に僕たちが主体となって地域で活動するのは難しい。だから、地域の人たちが主体となって産業遺産と付き合っていけるよう、産業遺産だけを取りあげるのではなく、その町にはどのような魅力があるのかを調べるようにしています。「J-heritage」の活動には様々なパターンがあって。例えば、地域団体から産業遺産の価値がわからず活用に困っているという相談があれば、あえて地域外の人が参加できるツアーを提案します。バスツアーなどで産業遺産や僕たちの視点から見て魅力的な町のスポットを紹介すると、参加者はすごく喜んでくれる。そしてその反応を見た地域の人は、「自分たちの町には魅力ある資産があるんだ!」と誇りを持つようになるんですよね。他にも産業遺産や町の中を謎解きをしながら巡る体感型のイベントや、町に隠されたおもしろスポットを探る「ワンダーマッピング」など、地域の資産を活用しながら町の魅力を発見していくプログラムのノウハウをいくつか持っています。これからは、僕たちが関わらなくとも地域の人たちが主体的に活動できるように、僕たちの持っているノウハウをパッケージ化して伝え、継続して産業遺産を守り活用できる仕組みをつくりたいと思っています。

地域の中と外、視点が交錯することで見えてくる町の価値

兵庫区南部でおこなわれた町歩きツアーの様子

昨年から、地域の一員として持続的なまちづくり活動が生み出される仕組みを考える「兵庫区まちづくり活動プラットフォーム」事業に参加しています。先日も、南北に長く伸びる兵庫区を山・内陸・海と3つのエリアに分けてツアーを行ったばかり。僕は海エリアのツアーガイドを担当したのですが、産業遺産を見学するだけでは見えてこない地域の魅力があると思うので、今も昔も変わらず営業されている商店や工場見学もツアーに盛り込みました。産業遺産だけでは、どうしても過去の栄光が見えるだけで、この町ではどのような産業や暮らしの移り変わりがあり今に引き継がれているのかが見えづらいと思うんです。だから地域の人が暮らし、働く工場や店をツアーで巡るようにしています。地域の人たちと接することで、参加者たちはその地域で受け継がれている誇るべき産業技術や生活があることを知り、地域の人たちは来訪者と交流することで、自分たちの町の新たな側面に気付いていく。普段何気なく見ている日常的な景色が、地域外の人には特別なことって結構あるんですよ。僕はツアーで、そういう価値の変換を起こしたいんです。今後は、地域でできた繋がりを活かして遺産の所有者と対話できる機会を作り、町のプレイヤーと共にその地域らしい産業遺産の利活用のかたちを考えていきたいですね。