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神戸の新しい魅力に出会うウェブマガジン

シタマチコウベ

町の人と空間と時間をシェアする住宅

長田区東尻池町で生まれ変わった長屋住宅

リノベーションされた空き家や空き地に伺ってリポートする不動産コラム。第20弾は、長田区東尻池町で生まれ変わったばかりの長屋住宅。4軒つながる長屋のうち東側2軒を購入・リノベーションし、現在入居者募集中とのこと。住む人に合わせて形を変えていけるよう、余白の残る構造になっています。この物件のオーナーであり、長田区でレンタルスペース「r3」を運営する建築デザイナーの合田昌宏さんに、改修を行った経緯や今後の展望についてお話を伺いました。

 

物件との思いがけない出会い

神戸市営地下鉄の苅藻駅から徒歩8分。どこか懐かしさを感じる街並みを歩くと、今回紹介する物件のある長屋路地に到着します。戦前から立っていると想定される築100年以上の長屋。その佇まいは、この町をずっと見守っているような貫禄を感じます。

 

合田さんがこの物件に出会ったのは、2022年の春頃。長田区二葉町にあるガラス屋さん「旭屋ガラス店」の3代目のガラス職人の古館嘉一さんと昨年テレビに出演したのが事の始まりです。番組は古い建物とそれに付随するガラスを紹介するという内容でした。

その放送を受け、合田さんの友人である物件の旧オーナーから連絡があり、古館さんとともに長屋に残されているガラスを見に行ったそうです。

かつての生活の様子を残したまま長く使われていない物件を見て、合田さんはガラスだけでなくこの建物の今後が気になり、旧オーナーに尋ねると、2週間後に取り壊す予定だとわかりました。

「この家欲しい!ってその場で言いました。どんな風に使っていけるかまだイメージは沸かないけど、壊すぐらいならとりあえず欲しいって。」

旧オーナーはすぐに業者に電話をし、解体工事は運良くキャンセルできたため、思いがけず物件を引き継ぐことになりました。

 

思い出がそのまま残る家

長田区東尻池町にある長屋の改修前

改修前の写真

この長屋は、旧オーナーが生まれ育った実家で、長屋の東側の家は、30年ほど前に建て直しましたが、数年前に一人暮らしの母が亡くなってからは、当時のままだったそうです。

「解体するしかないと思っていたらしいです。でも、生まれ育った場所やし、4軒長屋なのに自分の家だけ解体するっていうのは気が引けたみたいで。だから、僕が引き継ぐことになってすごく喜んでました。」

 

物件には当時の荷物がそのまま残っていたため、作業はゴミ捨てから始まりました。工事に入る前に何度も物件に足を運んでいく中で、ご近所の方と積極的にコミュニケーションをとるようにしていたと合田さんは話します。

特に壁一枚で家がつながっている長屋は、改修工事の騒音や振動が直接伝わります。ご近所とのトラブルは、工事の停滞や中止だけでなく、今後ここに住む人にも影響が出てしまいます。そのため、オーナーとしてご近所の方との関係性づくりを大切にしたそうです。

古い建物を改修する場合の大変さは、内装をめくってみないとわからないところ。骨組みを見てみると、本体の構造が歪んでいたり、柱が繋がってないところがありました。

 

特に、西側の家は、4軒長屋の真ん中にあるため、左右の家と隣接した状態で強度が保たれる構造ですが、30年前の建て直し工事で補強がされていなかったため、床も柱も約10cm傾いていたそうです。

 

傾きを直せば解決するわけではなく、直す事で隣の家との間に隙間ができたり、更に傾いてしまうこともあります。そのため、骨組みの内側に新たに骨組みを建てるような形で補強していきました。当初は1ヶ月ほどで改修が終了する予定でしたが、骨組みの工事は10月から3月末の約半年間に及びました。

 

裏方仕事に遊びを持たせた場

時間をかけたのは、修繕だけではありませんでした。普段は表に出てこない職人さんにアイデアを出してもらい「下町ヤンチャな落書きポップ」をテーマに、これまでやりたかったけどできなかったことや、普段はやらないようなことに一緒に挑戦してもらいました。

「いつもはお客さんの意向を聞いて、僕の方で絵を描いたり設計図をつくるんです。だから、職人さんが表に出てこない仕事ばっかりしているけど、今回は僕の物件でもあるんで、好きなことをしてもらおうと思ったんです。」

まさに、ここが今回の合田さんのこだわりポイント。合田さんと職人さんたちの「下町ヤンチャな落書きポップ」をご覧ください。

【西側の家1階】

長屋改修前の西側の家1階

改修前

長屋改修後の西側の家1階

改修後

キッチンとトイレ以外は土間打ちで、広い空間となっています。普段壁の中に埋めてしまう電気の線は、実はいろんな色があるそう。カラフルな配線が天井を遊んでいるようです。トイレのペーパーホルダーもチューブ形のLED照明で作られています。

合田さん設計の枝付き丸太

入口付近には、合田さん設計の象徴である枝付き丸太が出迎えてくれます。合田さんのことを詳しく知りたい方は、こちらもご覧ください。

【西側の家2階】

長屋の西側の家2階

クルクルと撒かれた配線は職人さんの遊び心。チューブ形のLED照明器具は、自由に引っ張ったり、要らなければ取ることができる「誰がどう使うか?わからないので」と言う合田さんのアレンジです。

 

【東側の家1階】

長屋改修前の東側の家1階

改修前

長屋改修後の東側の家1階

改修後

1階には、キッチンスペースとトイレ、お風呂を設置。腰窓から差し込む陽光が床と天井の木材に反射し、柔らかく温かい空間が広がります。

 

【東側の家階段】

長屋の東側の家階段

この階段は、当時のものをそのまま残しています。

 

【東側の家2階】

長屋改修前の東側の家2階

改修前

長屋改修後の東側の家2階

改修後

2階は、天井板を撤去したため建てた当時の構造体が見え、広々と開放的な空間が広がります。

長屋改修後の東側の家2階

南向きのバルコニーは、日当たりがよく、洗濯物を干すのにピッタリ。

長屋から見える景色

家の裏側は緑が生い茂り、窓から木が見えます。

 

【改修以前の路地】

長田区東尻池町の改修前の長屋

こちらは改築前の外観写真。長屋前は、自分の家からはみ出すように自転車や花壇が置かれ、下町名物の「はみだし」が見れました。

 

【現在の路地】

長田区東尻池町にある長屋の路地

今後は、家の前壁を現在の状態から90cmほどセットバックし、ベンチが置けるスペースを作る予定とのこと。家の前で誰かが座って話をしている、そんな景色がこれからここで見れるかもしれません。

 

町の人が集う空間

長田区の真陽地区で18年間暮らしてきた合田さんにとって、この東尻池町という場所は神戸市内の移動で通り過ぎるだけの地域でした。しかし、自宅の改修工事を機に、2022年から1年間東尻池町で仮住まいをし、毎朝晩犬の散歩で歩き回ったため、徐々にこの町の様子が見えてきたと話します。

「住んでみると予想以上に新築の家が多いと感じました。そんな新しい建物が増えている地域で、今でも残っている古い街並みを守りたいと思ったんです。それに、工事に行くといつも挨拶してくれるおっちゃんやおばちゃんがいて、そういうコミュニティを大切にしたいと考えていたら、「共有」というキーワードが出てきたんです。」

長田区東尻池町にある長屋

この町で暮らし、住民たちと時間を共にする中で、「共有」をキーワードにこの物件の展望が見えてきたそうです。

「最低限の機能しかつけてないので、DIYとカスタマイズが好きなのは大前提なんやけど、東側の家は町のお節介さんみたいな人たちに住んでもらいたい。周りのおじいちゃんおばあちゃんや子どもたちとのご近所付き合いが好きな人とか、料理好きな人とかね。」これまで地域の人と関わる機会がなかったけれど、この物件を機に町の人と積極的に繋がりたい「ニューお節介さん」も大歓迎とのこと。

また、西側の家は制作活動をする人が住まい兼アトリエとして使いつつ、オープンスペースにもなって欲しいと考えているそうです。「1階部分は、アーティストの制作活動の場になったり、雨が降ってきたら町の人がそこで雨宿りする場所になったらいいなと思っていて。だから、1階の壁面には、アーティストのCBAさんに絵を描いてもらいました。西側の家はお風呂がないので、隣の家に「今日、風呂屋休みだからお風呂貸して〜」って気軽にできるような関係が生まれたら面白いかなと。大きくいうとシェアハウスみたいな。」

長田区東尻池町にある長屋

現在、この物件は見学会実施中です。真野の町で新しい暮らしのカタチを考えたい方は是非。

現代アーティストが滞在・制作・発表するオルタナティブスペース

リノベーションされた空き家や空き地に伺ってリポートする不動産コラム。第19弾は、長田区駒ヶ林町のオルタナティブスペース「ジョブ・スペース・ラボ」。新進気鋭のアーティストの表現活動を支援するために、NPO法人芸法が空き家になっていた物件を活用して、2022年10月に開所しました。芸法の理事長である小國陽佑さん(shitamachi NUDIE vol.24)に、改修についてお話を伺いました。

 

きっかけは、芸術祭での会場利用

「下町芸術祭 2021」の実行委員長を務めていた小國さんはある日、作品を発表する会場としてこの物件を使うことができないかと、建築士の角野史和さん(shitamachi NUDIE vol.27)と建物の前で立ち話をしていたそう。そこにたまたま通りがかったのが、駒ヶ林町1丁目の自治会長さん。物件の持ち主と知り合いだったこともあり、すぐにつないでもらって内見させてもらうことに。家主に事情を説明すると、会場として一時利用できることになりました。

下町芸術祭での展示利用も問題なく終わり、継続して賃貸契約が結べると決まったのが2022年6月ごろ。芸術祭では現状維持で会場として利用したものの、本格的にアトリエやギャラリーとして使うとなると改修が必要でした。その資金繰りに困っていた小國さんは、神戸市の「建築家との協働による空き家活用促進事業」の募集を見つけ、角野さんと相談のうえ申請。改修費用1000万円のうち、500万円の補助を受けることができました。

「いまギャラリーとアトリエとして使っているスペースは、設計事務所のオフィスとガレージとして以前は使われていました。その事務所の屋号が『JSR(ジョブ・スペースラボ)』だったんです。ラボはアルファベットで書くと『LABO』ですけど、おそらく間違って“R”にしちゃったのかなと。その感じがちょっと長田っぽいなと思って、名前を引き継ぐのもありかと考え始めて。アーティスト・イン・レジデンスの施設は増えているけど、滞在・制作・発表をコンパクトにそろえた場所はあまり見ないから、前々からやってみたかったんです。『Job=展示や発表ができるカフェ・ショップ』『Space=アーティストの滞在場所』『Rabo=作品制作のアトリエ』と強引ですが、屋号と要素を結びつけられることもあって『ジョブ・スペース・ラボ』という名前に決めました」

その後、角野さんの知り合いの施工業者や、パテ処理やペンキ塗りを手伝ってくれた福祉事業型の職業訓練校「カレッジ・アンコラージュ」の方々の協力もあり、工事開始から2ヵ月ほど経った2022年10月、オープニングイベントとして現代アート公募展「assembly」を開催することができました。

 

平面・立体・インスタレーション・VRなどの作品が、ジャンルレスに展示されました。アーティスト、関係者、地域外から来る鑑賞者、地域住民が交わり、場所としての機能や使い勝手を確かめる絶好の機会になりました。

 

間取りとスペースについて

滞在・制作・発表という3つの要素を兼ね備えたジョブ・スペース・ラボの中の様子を、改修前後の写真とともにご紹介します。

【1階の間取り】
建物に向かって、左が滞在スペース、中央がアトリエ、右がギャラリーショップ兼カフェ。アトリエとギャラリーは部屋がつながっており、行き来ができる。滞在スペースは独立していて、表から出入りする。

改修前

改修中

改修後

【RABO = ギャラリーショップ・カフェ】
アトリエ側からギャラリー側を見た、改修前・改修中・改修後の写真。新たに開口部をつくり、ガラスをはめ込んでいる。改修前はオフィス空間で、日に焼けたベージュのクロスを剥がし、壁面を塗装し直した。

キッチンを新たにつくり、窓の外にはカウンタースペースを設けて、まちとの接続点となるように意識した。カフェは常設ではなく、展示に合わせたイベントのような形で使用される。

改修前

改修中

改修後

【JOB = アトリエ】
建物の入り口側から見た、改修前・改修中・改修後の写真。アーティストによっては水場をよく使うことを考慮して、流し台のあるバックヤードに簡単にアクセスできるよう、壁の位置を一部変更。確保した収納スペースには、陶芸用の材料や電気窯を置く予定。内装は角野さんにほぼ任せていた小國さんだったが、ギャラリーとアトリエの間に分厚いガラスの開口部を設けることにはこだわった。

特にコンセプチュアルな作品をつくる作家にとって、周囲のノイズは時に集中の妨げになりうる。ガラス窓の仕切りがあることで、アーティストと鑑賞者はほどよく距離を取りながらも、互いに見る・見られる関係を持つ。ワーク・イン・プログレス(作品の完成、または解体までのプロセスを見せる手法)での制作を望む場合は、入り口の電動シャッターを開けておくのもいいし、コミュニケーションを積極的に取りたいならガラス窓に「話しかけてOK」と書いた札をかけてもいい。

【SPACE = 滞在場所】
住居として使われていた建物で、2階に寝室用スペースとベランダがある。下町芸術祭2021では、元町にあるアートギャラリー兼カフェ「プラネットアース」のオーナーで芸術家の宮崎みよしさんと、宮崎さんとつながりのあるアーティスト20名ほどの作品が飾られた。誰も住まなくなった空虚な空間に、多くの作品と人が入り乱れる景色は心に強く残ったという。胸を張って中を見せられるように、ただいま追加の整備中。

 

作品とまちに流れる、言葉ならざる想い

屋外に出て、あらためて建物の外観を眺めて目に飛び込んできたのは、丸や波の形、そして文字のようなもの。抽象画アーティストの中元俊介さんが描いた壁画です。

「この壁画は、船や海をモチーフにしているそうです。ここにはさまざまなアーティストが出入りして、作品やそこに込められた思念が残っていきます。港のようなこの場所に多くの人が往来して、この不思議な文字のような言葉ならざる想いが浮かぶ場所であることを表しています。ジョブ・スペース・ラボは、駒ヶ林や長田のまちの風土のようなものをアーティストが咀嚼して、制作に没頭できる場所でありたいですね。そこで生まれた作品が空間の内外で発表されて、アーティストやこのまちを知るきっかけになればうれしいです」

現在、ジョブ・スペース・ラボは利用者を迎えるにあたって、室内の整備等を行っている段階とのこと。連棟長屋など、連なった空間のリノベーションに興味がある人は展示が始まった際にぜひ足を運んでみてください。

 

居住空間から生まれ変わった古本屋

リノベーションされた空き家や空き地に伺ってリポートする不動産コラム。第18弾は、兵庫区西出町の古本屋「アコークロー舎」。築50年以上のヤスダヤビルの2階にお店があり、1階のカレー屋「ニューヤスダヤ」からはスパイスの香りが漂ってきます。今回は、アコークロー舎の店主であるサクラさん、ヤスダヤビルの家主である平井陽さん(shitamachi NUDIE vol.17)、お店づくりを手伝ったツタさんの3名に、改修についてお話を伺いました。

 

出会いは自転車屋のバーで

2022年8月にオープンしたばかりのアコークロー舎は、JR神戸駅から南へ7分ほど歩いたところにあります。旅・建築・漫画・絵本・サブカル関連の本が多くそろう棚には、サクラさんの出身地である沖縄の本や、神戸にまつわる本も並びます。

アコークロー舎があるヤスダヤビルは平井さんが2017年に購入し、現在は中央区相生町で「自転車屋PORT」を営む川崎貴之さん(shitamachi NUDIE vol.40)とともに住みながら改修した建物です。2017年に閉店した老舗居酒屋「ヤスダヤ」があった1階の店舗スペースの利用者を募ったところ、個性的でおいしいスパイスカレーをつくる藤村勇輝さん(shitamachi NUDIE vol.35)と出会い、2019年にカレー屋「ニューヤスダヤ」がオープンしました。

平井さん:2020年に僕も川ちゃん(川崎貴之さん)もここから引っ越すことになって、4階建てビルの2階から上のフロアをいい感じに使ってくれそうな人を探していました。愛着がある建物なので一般に募集はせず、PORTにあるバーカウンターで出会う人に声を掛けたりしていたら、そこに来ていたサクラさんが古本屋を営むのが夢だと話してくれて。

サクラさん:私は2020年に神戸に引っ越してきて、この地域に馴染みはありませんでした。近くの自転車屋を探していたら、InstagramでPORTを見つけてたまに通うようになって。平井さんと出会ってビルを内見させてもらったものの、元は住居だった空間で本屋ができるのかは分からず。でも、自由に手が入れられるところに惹かれて、ここで自分のお店を開くことにしました。

 

改修前後の様子

サクラさんがヤスダヤビルを内見したのは、2022年2月のこと。2月のうちに片づけ始めて、4月から本格的に解体をスタート。お店づくりを一緒にしてくれたツタさんとは平井さんと同じく、PORTで出会いました。

ツタさん:PORTに飲みに行ったら、サクラさんから本屋を始めるということを聞いて、現場を見させてもらいました。普段は木や鉄でいろんなものを製作しているので、よかったらお店の什器をつくったりしましょうか、と声をかけてお手伝いすることに。最初の予定では、ここまで解体するつもりじゃなかったんですよね。そのまま残っているのは階段くらいじゃないですか?

平井さん:そうそう。ここまで改装するイメージはなかったけど、結果的に2階をフルで解体して、とてもいい空間になったと思います。

サクラさん:かなり古い建物なのであちこち直しが必要だったけど、時間を掛けてもいいから楽しみながら改装していこうと思いました。

改修に掛かった日数は3ヵ月ほど。改修前後の様子をご紹介します。

【床】
粉まみれになりながら床をはがしたら、意外ときれいだった。足場板は知り合いの本屋から譲り受けたもの。ご近所の方から端材や角材をもらえたおかげで、木材の価格が高騰する時期でも床や什器のための費用を抑えることができた。

【天井】
天井を抜いて、押し入れや余分な柱を撤去すると広がりのある空間になった。天井を抜く作業は時間が掛かり、一番大変な作業だった。構造部分や壁面にはムラなく仕上がる合成樹脂エマルションペイントを塗って、部屋が明るい印象に。

【本棚とカウンター】
建物の鉄骨と同じ鋼材を使ったかっこいい本棚と、しっかりとしたカウンターをツタさんにつくってもらって、自分のお店らしくなったと感じたそう。

 

アコークローに込められた想い

アコークロー舎は週末のみオープンし、開店日には「本」と書かれた小さな看板が表に出ています。

サクラさん:サラリーマンが看板を見てのぞいてくれたり、ワンちゃんや子どもを連れた人がやってきたり。おっちゃんが集う居酒屋が多い地域だけど、ほかの人もフラッと来てのんびり過ごしてもらえる場所になったらいいなと思います。

店名の「アコークロー」は、沖縄の方言で「夕方から夜に移り変わる“間”」を表す言葉。普段は見過ごしてしまう小さなことや、さまざまな人や物の揺れうごく“間”に気づける場所になれたら、とサクラさんは願っています。居住空間から店舗へのリノベーションや、ビル一棟の段階的な改修に興味がある方はもちろん、本が純粋に好きな方も、ヤスダヤビルの裏口から2階にぜひ上がってみてください。

 

元工場ビルに生まれた神戸最大級の撮影&レンタルスタジオ

リノベーションされた空き家や空き地に伺ってリポートする不動産コラム。第17弾は、長田区若松町にある大型レンタルスタジオ「Studio HAKO」。2021年7月にオープンした空間は、神戸では最大級の約240平米という広さ。動画撮影・スチール撮影・展示会・イベントなど、幅広い利用が可能です。スタジオ内の一角にオフィスを構えて運営を行う合同会社MARUDE代表の村主靖典(むらにし やすのり)さんに、改修についてお話を伺いました。

 

元倉庫、元工場の跡地で

JR新長田駅から南西へ徒歩6分ほど。若松公園を越えたところにある「巨人ビル」の4階に、Studio HAKOはあります。スタジオ利用者は車での搬入が多いため、湊川インターチェンジから車で2分というアクセスのよさも、この物件を借りるひとつの決め手となりました。

村主さんはワンフロアを借りていて、事務所スペースは動画制作を行う「The Under Shot」の方とシェアしながら、スタジオ運営業務をサポートしてもらっているそうです。合同会社MARUDEの主な業務はグラフィックデザインですが、なぜ貸しスタジオを手がけるようになったのでしょうか。

「僕は昔、アーティストとして抽象寄りのアクリル画を描いていたので、オフィス兼スタジオというものにずっと憧れがありました。2018年に独立してから動画制作の仕事も請けていて、室内でおもしろい画が撮れたらいいなとか、場所貸しもできたら一石二鳥だなとか考えるようになって。所属している一般社団法人神戸青年会議所の先輩にいい物件がないか相談したところ、その方の持ちビルの中にあるこのフロアを紹介してもらいました」

前はスパイス屋の倉庫として、その前は靴関連の工場として使われていたというスペースにはオイルの汚れが残り、床ははがれ、インダストリアルな雰囲気が漂っています。こんなスタジオはあるようでなかった、と感じた村主さんは物件を借りることに決めました。


間取りとスペースについて

改修に掛かった日数は1ヵ月ほど。大きく手はかけず、建具と防音壁を取りつけて、ダクトレールと照明を吊るすポールを設置した程度とのこと。空間に備わっていた魅力をそのまま活かし、良質な空間に仕上がったといいます。フロアの間取りと各スペースをご紹介します。

【A Studio】
コンクリートの打ちっぱなしで、サイドはダークグレーの壁と黒革調のカーテン。Studio HAKOでもっとも大きなスタジオ空間で、大人数のモデル撮影や大型商品の撮影向き。利用例としては、ミュージックビデオやアウトドアブランドの動画撮影など。創造力を受け止める広大な空間が、クリエイターのイマジネーションを掻き立てます。

【B Studio】
日中はほぼ自然光が差し込む明るい空間。床面についた汚れは表情豊かで、時間が生み出したアートのよう。左手の大きな白壁は元からあったものだそう。アパレル商品の撮影などで使われています。

【C Studio】
白ホリゾントスタジオで、商品撮影やポートレート、クロマキー撮影など幅広く使える空間です。A Studioでシーン撮影、C Studioで物撮りといった組み合わせでの利用もオススメ。

【業務用エレベーター】
かつては倉庫として使われていたため、業務用エレベーターと店舗入り口の扉はゆったりサイズ。撮影対象物や機材が大きくても、容易に搬入・搬出できるのが利用者にとってはうれしいポイント。

 

クリエイターの背中を押す場でありたい

今後はファッションショーや作家の展示会、映画の撮影にも利用してもらいたい、と村主さんは考えています。Bluetoothスピーカーやアナログミキサー、照明機材、スモークマシーンにカメラまで、撮影に必要な物はそろっていて、有料で借りることができます。

「Studio HAKOのオフィスには、グラフィックデザイナーも動画クリエイターもいます。プロデュースしてほしい、絵を描いてほしい、デザインしてほしいなど、気軽にご相談ください。学生さんでもフラッとお越しいただいて構いません。クリエイティブな活動を後押しできる場所になれたらと思います」

Studio HAKOでは見学を随時受け付けています。まだつくりたいものの形が定まっていない方でも、足を運ぶことで発想が広がるはず。オフィス兼スタジオに憧れている方も、ぜひ訪ねてみてください。

 

ゲームサウンドが育まれるオフィススタジオ

リノベーションされた空き家や空きビルに伺い、どのような場所に生まれ変わったのかをリポートする不動産コラム。第14弾は、新長田駅近くのビルでもともと靴の工場だった場を「オフィス兼スタジオ」に改修した物件です。この物件に移転したゲームサウンドを制作する株式会社プラスシグナルは、業界の仕事が集まる東京に拠点を持ちながらも、あえて神戸に本社を構えています。普段あまり知ることのないゲームサウンドの世界、移転にあたっての改修のポイントなどについて、プラスシグナル代表取締役 大久保悟さんにお話を伺いました。
※神戸市「アーティスト・クリエイター等の活動拠点支援事業」対象物件です。

 

業務用エレベーターの音に惹かれて即決

プラスシグナルは、ゲームサウンドという特殊な業界でサウンドディレクションやサウンド素材の設計・制作を行っています。例えば、野球ゲームであれば、球を投げる音や球を打つ音、選手が走る音、歓声など発生する音を一つひとつ緻密に設計、制作します。一つのゲームにつき、音の数は何万にもなり、気の遠くなるような細かな作業が行われているそうです。

大久保さんは、KCE大阪(現コナミデジタルエンターテインメイント)、カプコンといった大手ゲーム会社でサウンドプログラミングやサウンドディレクターを担っていました。「実況パワフルプロ野球シリーズ」や「戦国BASARAシリーズ」「バイオハザードシリーズ」など、数々の著名なゲームのサウンドに関わり、その後2017年に独立。勤務地だった大阪を離れ、奥様の実家がある神戸で開業しました。

「リモートで仕事をするなら、と妻の実家のある須磨にオフィスを構えました。とはいえ、ゲーム業界も知的財産は東京に集中しているので、東京にも作業場があります。でもスピードが早くフリーランスの人も多い東京に比べて、神戸の方がしっかりとチームで地盤を固めて、落ち着いて仕事ができるのではないかと事務所を構えました。今回は、スタッフも増えて制作環境を整えたく、事務所移転を決めました」

現在は大久保さんの他にスタッフが2名、今後新規スタッフの採用も予定しています。移転先の新長田駅近くにあるビルは、もともと靴の工場でした。ワンフロアが広く、新事務所はフロアの半分ほどを占めます。他の階も制作会社の事務所があり、この建物に決めた理由を尋ねると、大久保さんらしい回答が戻ってきました。

「最初に物件を内覧したときに、業務用エレベーターの音に惹かれたんです。『フィン』という音が、いい音だなあって。僕、音フェチなんですよ。それに、隣に他の企業がいると音に気を使いますが、ここなら集中できると思いました」

 

改修の内容について

改修の様子をご紹介します。改修期間は2ヶ月。防音をはじめ、ゲームサウンドのオフィススタジオならではの設備を施し、かかった費用は1000万円ほど(うち100万円が神戸市の補助額です)。

【エディットスタジオ】
ゲームサウンドという特殊な業種用のエディット(編集)スタジオ。5.1サラウンドという専門の環境で、正確な音の編集を行う。正確な音のためには、部屋の音の響きをよくすることが重要。防音だけでは音が跳ね返るため、吸音と調音も施されている。木とウレタン、吸音材用のジャージクロスを張り、音を乱反射させて分離している。この空間を制作したのは、かの有名アーティストのスタジオも手がける同業の方。エンターテインメントを生み出すからこそ、無機質ではないデザイン性のある空間を重視。

【オフィス】
入り口すぐの広い空間をオフィスに。スタッフのデスクを配置し、作業するための空間。絨毯を敷くなどの床を改修と、壁には防音を施している。打ちっ放しの天井とレールは元の工場のまま。天井に張り付いている長方形のカラフルなものは、ガムテープを色で隠してあるが用途不明。

【ミーティングルーム】
もともと倉庫だった一室の壁や床を改修しミーティングルームに。オーナーの要望で、この部屋の天井の鉄骨も当時のまま残している。この部屋ではスタッフやお客さまと映像を交えながらミーティングをする予定。

 

この仕事は面白くて仕方がない

これまでプログラムした音や、ピアノの音に反応して花が開いていくシステムを設計した作品、環境保護の案件でプラスチックごみの音で作った音楽など様々な事例を紹介してもらうなか、録音するための道具として大久保さんが取り出したのは、長さの異なる2本の刀。持ち手そばの部分は曲がっていて、2本を重ねると、シャキーンシャキーンと、音が広がっていきました。

「刀のゲームを作ることが多いのですが、これは鍛治職人さんが口コミで伝わった人にしか作ってくれない大事な刀です。手元部分の刀が曲がっているのは、音を響かせるためです。摩擦や刀を温めることでも音が変わります。実際にこの刀で録音もしますよ」

ゲームサウンドの設計・製作までできる人は限られていて、ゲームの需要に対して常に人材不足だと話す大久保さん。業界として人材育成の課題があり、大久保さんは教育面にも関わっていました。

「この業界は一般の方には知られなくて、学生にも知られることが少ないんです。専門学校では録音の授業はあるものの、その先の技術を教えていなくて、学生がすぐ現場で働けるスキルを身につけるのは難しいのが実情で。それでは困るので、独学で学べる教材を制作したり教えたりしています。僕にとっては面白くて仕方がない仕事なのですが、どう伝えたら良いかは難しいところ。でも同業者は皆仲が良いし、いつも気持ちよく仕事をさせてもらっていますよ」

また、大久保さんはゆくゆくこの神戸の地域にも貢献していきたいと考えています。

「例えば、新長田の工場で働く職人さんの出す音で、音楽を作ってみたいですね。どんな職人さんがいてどんな音を出しているのか、この町の音に僕自身とても興味があります。そういった音を通してこの地域に貢献することができるなら、喜んで協力させてもらいたいです」

実際に、音を通じた地域プロモーションや市民の人々の感性に届く作品のイメージが膨らんでいました。あまり馴染みのなかったゲームサウンドの世界を丁寧に教えてくださり、取材中、常に面白そうに話す大久保さんが印象的でした。これから、この場所でどのような音の数々が生まれ、世界に放たれていくのかとても楽しみです。

廃材を活用したモノづくり・リペアのシェア工房

リノベーションされた空き家や空きビルに伺い、どのような場所に生まれ変わったのかをリポートする不動産コラム。第13弾は、長田区東尻池町の商店街跡地に今春オープンする「ヒガシシリコンバレー」です。かつて魚屋だった廃墟を解体し、廃材を活用してオルタナティブな空間に改修しました。この物件を手がけた建築集団「西村組」の代表 西村周治さん、塚原正也さんは、他にも神戸市内で様々な空き家の改修を行なっています。今回改修に至った経緯や東尻池町の魅力について、お2人に伺いました。
※神戸市「アーティスト・クリエイター等の活動拠点支援事業」対象物件です。

 

石畳に魅了され、商店街跡地に生まれるシェア工房

東尻池町はゴムなどの製造工場があり、「働く=住む=食べる」が完結するエリア。「苅藻駅」から徒歩10分、住宅街の細い路地にある物件は、もともと魚屋さんでした。廃業後、入居者が亡くなってからは長いこと空き家で猫屋敷の廃墟に。長屋の両隣に支えられてなんとか建っていた状態だったそう。「なんで立っているのかと思うほど、全部の柱が腐ってハリが落ちて、すごかったです。でもそういった物件を手がけるにつれて、直せないと思うことはなくなってきました」(塚原さん)

特に2人が注目したのが通りの石畳。戦後、鉄道で使われていた石畳を移植した大変珍しいものでした。「この石畳はとても貴重で、残っていることが奇跡です」(塚原さん)

「前から商店街跡地に対しておもしろいものを作れないかと思っていました。ここは元商店街で石畳があったので場所は知っていました。僕は自分から物件を狙いにいくことはなく、周りから情報が集まってきてそこから選ぶのですが、ここもその中の一つでした」(西村さん)

西村組は、解体で廃棄される廃材を回収し、廃材を資源として空き家の改修に活用する手法で神戸市内のさまざまな物件を手がけています。
「物件を改修するなかで、廃材を活用してプロダクトを作るメンバーを集めたいという構想が生まれました。彼らと工房を共有してガラクタを集めて椅子などのプロダクトを作ったり、一般の人もリペアができるワークショップなどを開催したりする拠点にしたいなと思っています」(西村さん)

 

改修の内容について

2階建ての長屋の一角を解体・改修した様子をご紹介します。なお、改修期間は10ヶ月(現在も改修中)ほどで、改修費用は300万円(うち100万円が神戸市の補助額です)。
廃材やゴミを再利用して内装に活かし、土間をきれいに整えました。西村さんの構想と直感を基に、塚原さんと左官屋の八田公平さんが中心となって解体・改修を行いました。
「解体は最もクリエイティブな作業です。解剖と同じで、家は解体することでその建物が本来どういう形なのかわかります。ほぼ一人で解体しました」(塚原さん)

【内壁(左)】
当初は真っ平らな壁を作る予定が、左官屋の八田さんが「面白くない」とひと言。廃材をドローイングするようにアクセントをつけて配置し直し、その上にモルタルを塗りガタガタで立体感のある壁に仕上げた。モルタルの配合を変えて色や手触りを変化させている。

【内壁(右)】
屋根や外壁だったトタンを壁材として使用。「トタンを使ったのは、捨てるのがもったいなかったから。本来ここまで腐食したら使うことはできないですが、室内であればこれ以上傷つけることはないので」(西村さん)

【土間】
ガタガタしていた土間と、畳の部屋を壊して一枚の土間に整えた。木工や鉄工の道具や机などを配置する予定。

【金庫】
ゴミと化していた開かない金庫の扉を解体して配置。左下にスイッチパネルを取り付けて電源のスイッチと配線も完備。右下は大型扇風機を接続する予定。

 

住みながら改修して、この町が好きになった

塚原さんは、解体・改修中この物件に住み込みで作業し、町内を飲み歩きました。物件にガスも電気もなかったけれど、近所の人たちがストーブをくれて何台も集まったのだそう。また、この町周辺で働く人たちが暮らし、飲み食いする姿を間近に見て、この町が一層好きになったと言います。

「東尻池は基本周辺で働く人が住む地域で、新長田と違ってここに来る目的がないから外から人が来ないんです。唯一、焼肉屋の『牛車』には外からも来るけど、『牛車』に来てもまちのことは知らない。東尻池は地元のお客さんだけで成り立っている店が結構ある。漁民の方や夜勤明けの工員の人もいて、昭和初期の循環が残っているようで。朝から昼で終わる食堂とか、メニューがあるのに強制的にサービス定食にさせられる店とか。定食を出してくれる店は『凡』という食堂で、物知りのおっちゃんがやっていますよ」(塚原さん)

そんな古きものが残る東尻池町には、独自の文化が残っている秘境だと教えてくれました。
「東尻池は大体みんな近くで暮らしていて、そうじゃなきゃ成立しないお店があることが魅力。今後どんどんなくなっていくと思うけど、企業の孫請けの鉄工所やゴム屋さんとかがかろうじて残っているから成立してる。最後はどこにでもあるような住宅街になる可能性はあるけど、まだ終わっていない。ただのベットタウンには文化が育まれにくいけど、東尻池は独自の文化がそのまま残っている文化的秘境なんです。それに、このエリアは雑誌などのメディアに紹介されるなんてことは全然なくて、対外的にも知られていない。情報としても、外の人に知られていないという意味で神戸最後の秘境だと思うんです。文化が残っているにもかかわらず周りの人に知られていない。働いている人が、ここで働いてここで住んでここで飲んで、文化が醸成されていく。一般の人が行けないところも、味があっておもしろいんです」(塚原さん)

東尻池町の文化を敬う眼差しや、廃材を活かす改修のスタイルに、彼らの審美眼を感じました。今後シェア工房でどのような動きが生まれ、東尻池の一部としてどのように溶け込んでいくのでしょうか。シェア工房はこの春オープン予定で利用者を募っています。また、2階には住居スペースも完成し、住みながら作業したい人も募集中です。工房を通して神戸最後の秘境、東尻池町に足を踏み入れてみてはいかがでしょうか。

路地中に佇む、美術専門のライブラリー

リノベーションされた空き家や空きビルに伺い、どのような場所に生まれ変わったのかをリポートする不動産コラム。第12弾は、長田区二葉町にある美術専門のライブラリー「藝術文庫」。木造2階建のアパートにはアートギャラリー「citygallery2320」と、オーナーの向井修一さん・和田直子さん夫妻の事務所兼ギャラリースペース「W/M 事務所」が続いて並びます。今回は、2022年2月にオープンしたばかりの「藝術文庫」の改修について向井さんにお話を伺いました。

 

ギャラリーの機能を拡張する

3つのスペースが並ぶ2階建アパートは元々、向井さんのご家族が3代に渡って住んできた自宅。築60年の建物は改修を重ねながら、丁寧に受け継がれています。2018年に開廊したcitygallery2320はアパートの中央にあり、向かって左手の物件の2階に藝術文庫のスペースがあります。画家の和田直子さんが運営しており、向井さんがギャラリーアーティストと制作した図録や、作品、アーティストブックや絵本などが閲覧できます。

「citygallery2320をこの場所で始めて3年が過ぎて、ギャラリーを開くだけではなく、遠方からわざわざ新長田まで来てくれる作家や来場者をもっと温かく迎えたいと思ったことがきっかけです。手元には多数のコレクションを保管していて、ギャラリーアーティストの作品や一緒に作った図録もある。アーカイブ資料閲覧の機能を持たせて、画廊に来た人が作品や本に触れられる場所を新たに設けることにしました」
藝術文庫の改修を始める前から、向井さんの元には美術資料が集まっていました。たとえば、東門画廊、六間画廊、アトリエ2001など神戸で活動を終えたギャラリーの資料。現代美術作家の榎忠さんらから預かった貴重な個人資料。ご縁あって受け継いだそれらの資料を、藝術文庫の「アーカイブ室」に収蔵して残していくそうです。そして、クローズドな空間にならないように誰でも入りやすい「多目的展示室」も設けて、ワークショップや資料展示、絵本の朗読会などの企画も行っていく予定です。

 

改修内容とスペースについて

藝術文庫の改修に掛かった日数は3ヵ月ほどで、改装費は200万円ほど。神戸市の「アーティスト・クリエイター等の活動拠点支援事業」に応募し、100万円の補助を受けました。建物の2階にある藝術文庫の内部を、改修前後の写真とともに一部ご紹介します。

【アーカイブ室】
アーカイブのためのボックスは、無垢のオーダー家具を制作するMOU Trateknik&Designの幸玉次郎さんに依頼。スツールは、F:machineのもの。細部まで職人技が光る。関西を中心とした芸術祭の記録集、作家の資料、美術手帖50年分のバックナンバー、アート関連の書籍、展覧会ごとに制作する図録などが並び、自由に閲覧できる。床材はしっかりした印象のものに張り替えた。

【多目的展示室】
近隣でレンタルスペース「r3」を営むディレクター・建築デザイナーの合田昌宏さんの提案で、LEDの細長い照明を数本設置。高いものではないが、十分な光量で展示空間を照らす。窓側のアーカイブ室との間に設置したブラインドを下ろすと各部屋が独立し、空間に変化が生まれる。

【作品展示】
多目的展示室の壁面にも、向井さんが集めた作家の小さな作品が展示されている。室内には43インチのモニターが設置されており、映像作家の作品も観ることができる。並ぶ作品はその時々で変わるため、行くたびに新しいアートに触れられる。

【W/M 事務所】
citygallery2320の隣にある自宅内に、事務所とプライベートコレクションの展示室を設けた。玄関を入ってすぐ左のスペースはギャラリーアーティストの作品倉庫として使っていたが、壁を外して空間を開放。「路地の続きのような」という空間イメージも、共に改修を進めてくれた合田さんによる提案。空間の仕切りに合板ではなく足場板を使うなど、来訪者には路地を歩くように自然体で観賞してもらえるように建材選びにも配慮した。

 

共有財産としてのアート

citygallery2320、W/M 事務所、そして藝術文庫。一棟のアパートで連なる空間それぞれに役割を持たせて、来る人々をあたたかく出迎える向井さんご夫妻。

「展覧会はあくまで途中の出来事で、作家にとっては制作期間や、展覧会後の活動もあります。その一連の流れに画廊として関わりたいですね。“アーカイブ”というと大層な言い方ですが、私が引き継いできたものを共有の財産として見せて、そしてまた誰かに引き継いでいってほしいです」

citygallery2320で展覧会が行われる時間は、基本的に藝術文庫もオープンしています。アートブックなど、おもしろい本をできれば寄贈してほしいそう。アートに触れた経験が少ない人も、展覧会だとそわそわしてしまう人も、リノベーションやギャラリー活動に興味がある人も、ぜひ訪れてみてください。

子どものそばで大人が働くコワーキングスペース+シェアハウス

リノベーションされた空き家や空きビルに伺い、どのような場所に生まれ変わったのかをリポートする不動産コラム。第11弾は、2021年4月にオープンしたシェアハウス併設のコワーキングスペース「Sobani Omusubi(そばにおむすび)」です。地下鉄海岸線の駒ヶ林駅から、本町筋商店街を通って徒歩4分。株式会社マチアケ代表の玉井美里さんに明るく出迎えられ、場所が生まれた経緯や改修内容についてお話を伺いました。

元助産院の記憶を継いで

玉井さんの会社は、神戸市内で7軒のシェアハウスを運営しています。シェアハウス以外の用途では使いにくい特徴的な場所を物件サイトで探していたところ、長田区にある元助産院の空き物件を見つけました。玉井さん自身も出産を経験し、幼少期の子どもと過ごす時間の大切さが身に沁みたこともあり、子育てと創業の支援を兼ねたワーキングスペースをシェアハウスに併設することにしました。

「私たち大人が働くかっこいい姿を子どもに見てもらいたくて、『子どもたちに魅せる、大人たちのWork Place』というコンセプトにしました。元は助産院で、その前は産婦人科だったこの場所で、親と子が仕事を理由に離れず、つながりを育んでもらえればと考えています。『Sobani Omusubi』は、利用者の“そば”に寄り添い、人々が“結ばれる”場にしたいという思いを込めてネーミング。共に働いたり、暮らしたりするなかで、人間関係や仕事のつながりが生まれることを願っています」


「Sobani Omusubiの向かいにある果物屋のお母さんはここで出産した」といった50年にも渡る建物の歴史や思い出を地域の人から聞きながら、物件が持つ歴史的・文化的価値を感じたという玉井さん。地域の財産を失くさないよう、リノベーションが得意な工務店に依頼して元の間取りを活かしながら改修を進めました。

「まちの一部になっている建物の魅力を消したくなくて。物件も文化だから、継いで価値を乗せていくことで地域の人も愛着を持って接してくれると思いました。ほかの方に住んでもらう場所ですし、建物と10年、20年付き合っていくつもりで工事業者にしっかり依頼して耐久性のある仕上がりに。安くなるからとDIYをして短期間での経年劣化を起こしてしまった経験もあるので、床や壁のはがし作業以外は基本的にお願いしました」


建物の間取りとスペース

6階建ての物件で、延べ床面積は計約500平方メートル。建物全体の改修に掛かった日数は5ヵ月ほど。スタートアップ(革新的なアイデアで市場を開拓し、短期間で成長する企業)の支援拠点の整備を促す神戸市・兵庫県の補助制度に認定され、建物改修費550万円の補助を受けて改修を行いました。1〜4階の間取りと内部のスペースを、改修前後の写真とともにいくつかご紹介します。

【1・2階の間取り】
1階に入ると、受付・フリースペース・キッズスペースがあり、子どもが遊ぶ姿を見守りながら仕事をすることができる。2階には個室オフィスや、モニター・イス・キャビネットが設置された個室ブースなど、さまざまなワークスペースが設けられている。


【1階授乳室】
フリースペースの一角を壁で区切って扉を付け、授乳室を設けた。子どもがぐずっても周りの目を気にせず、ゆっくり授乳・調乳できる。0歳の子どもを育てるお母さんがよく利用しているそう。

【2階のオープンスペース】
産婦人科の時は新生児室だった場所。左手の小窓は赤ちゃんを眺めるための窓だったと、ここで出産した近所の方に教えてもらったという。建物の歴史や役割を理解して、間取りはむやみに変えずに改修を進めた。

【2階の個別ブース】
セパレートされたスペースにはモニターとイスが付いており、月々の基本料金に2,200円プラスすると利用できる。また、完全に仕切られた個室のブースが同フロア内にあり、そちらは分娩室だった部屋を活用。自分の好みに合わせて仕事環境を選べるのも魅力的。

【3・4階の間取り】
3階には貸し会議室が1室ある。3階の一部と4、5階は、シェアハウス「International Sharehouse Marche」のスペース。3階にあるシェアハウスの玄関は、オフィス利用者が使う階段とは別の階段で1階からつながっていて、居住空間のプライバシーを大切にしている。4階には、住人の共有スペースとしてリビングやキッチンがある。

【4階のシェアハウス・キッチン】
シェアハウスの部屋は埋まっていて、現在の住人はアメリカ・中国・マレーシア・日本など多国籍。学生もいれば社会人もいる。清掃は管理側が行っていて、きれいにしておくことで住人側もきれいに保つように意識してくれるそう。

【4階のシェアハウス・和室】
描かれた絵は六甲山をイメージ。住人同士のコミュニケーションが育まれるリビングスペースで、見学に来た海外の人の反応が特にいい部屋。

 

命が生まれた場所で

毎日の子育てと仕事で忙しい家族を応援するために、Sobani Omusubiでは「ファミリープラン」を用意しており、同一世帯の家族であれば誰が使っても基本の使用料金を同じにしています。たとえば、お父さんとお母さんが交代で子どもを保育園に送り迎えしている場合は、送迎の前後で別々に利用することができるというもの。

Sobani Omusubiのホームページでは、各スペースの詳細・使用料金などの情報が細かく紹介されています。内覧も可能ですので、ご興味のある方は訪問前にホームページよりお問い合わせください。かつては新しい命が生まれていた場所で、リノベーションやビジネスのアイデアが生まれるかもしれません。

 

まちの人々が集う、路地裏の喫茶店

リノベーションされた空き家や空きビルに伺い、どのような場所に生まれ変わったのかをリポートする不動産コラム。第10弾は、長田区にある路地のまち、駒ヶ林で2006年にオープンした「喫茶 初駒」。近所のマダムたちの拠り所にもなっている喫茶店ですが、板戸を挟んで「スタヂオ・カタリスト」の建築設計事務所が併設されています。淹れたてのコーヒーをいただきながら、所長の松原永季さんに物件との出会いや改修の内容について伺いました。

密集市街地での空き家再生

かつて漁村集落だった駒ヶ林は細い路地が入り組んでいて、独特の景観を残しています。路地整備の仕事で20年ほど前から地域と関わりがあったスタヂオ・カタリストの松原さんは、1軒の空き家と巡り合いました。継ぎ手が見つからない築130以上の古民家を会社で買い受けて、事務所として開いたのが2005年のこと。

「まちづくりの支援を行う地域に拠点を移すことで、自分たちが当事者として駒ヶ林に関われるではないか、と考えていました。事務所を構えてみると、地域内には一人暮らしの高齢者が多く、気軽に立ち寄っておしゃべりを楽しめる場所が少なくなっていることに気づきました。この界隈には震災前に日本一の密度であったと言われる喫茶店を、空いたスペースで開いてみるといいのでは、とアイデアが浮かびました」

*松原さんと駒ヶ林の関わりについては、以下記事もぜひご覧ください
https://shitamachikobe.jp/nudie/6038

お店づくりをするにあたって、ほかの人たちにとっても愛着のある場所になるよう、実測調査の段階から大学の先生や学生、行政の職員など、多くの人に参加してもらうことに。床材の解体、屋根裏部屋の漆喰塗り、床の古色塗装、土間の三和土(たたき)、庭の竹垣づくり。改修作業にはまちの人にも積極的に声をかけて、近隣に住む海外の人や子どもたちも手伝ってもらい、2006年にオープンすることができました。

「店名の『初駒』は、駒ヶ林の路地整備を進めていたときに小路の名前を住民主体で決める機会があり、そこで採用されなかった名前がよかったので拝借して名付けました。駒ヶ林で初めてつくる場所ですし、字面や語感も気に入って採用した屋号です。オープンしてからの8年間は自治会長の奥さまに店長になってもらったので、町内の顔見知りの方々が多く来店。ご近所のマダムたちの集う場所として、婦人会など地域の会合の後の打ち合わせ場所として、にぎやかに使ってもらっていました」

店長さんが引退後は基本的に週3〜4日オープンで、曜日ごとに店主が異なる営業形態に変わりました。さらには、駆け出しの農家が無農薬の有機野菜を販売したり、発明家を名乗る近所のおじさんが新しいアイデア商品を見せびらかしに来たり、新長田を舞台にしたアートプロジェクト「下町芸術祭」の展示会場として使われたり。多種多様な人々が顔の見える距離感で交わる場所として、機能していきました。

 

改修前後の様子

改修に掛かった日数は2ヵ月半ほどで、改装費は300万円ほど。木造平屋建ての喫茶スペースを中心に、改修前後の様子をご紹介します。

【外観】
台所につながるアルミの勝手口があった場所を、昔の間口の広さに戻し、建具を新しく入れ、初駒の入り口にした。以前よりもまちに対して開けていて、外を行き交う人の様子が伺える。


【喫茶スペース】
台所と茶の間をリノベーションして生まれた喫茶店。丹波篠山の土、石灰、にがりを調合して、土間たたきワークショップに参加した人たちと一緒に道具でたたいて固めた。床に小さく見える点は、駒ヶ林の浜から拾ってきた小石。京都の修学院離宮の一二三石(ひふみいし)をイメージして配置。

【カウンター】
ケヤキの無垢材を使ったカウンターは、仕事で交流のある兵庫県養父市の臼職人に、設計料の代わりに現物支給してもらったもの。喫茶店のイスは、廃校になった小学校の図工室で使われていたもの。壁材や家具、建具も古いものを再利用することで、親しみやすい空間になっている。


【喫茶メニュー】
コロナ禍以前は、曜日ごとに担当が変わっていた。たとえば、和田岬のメゾンムラタのパンを使ったサンドイッチを出すカフェ、ワインのように味や香りの違いが楽しめるコーヒー屋、元はお客さんだった人が始めたカレー屋など。緊急事態宣言中はお休みにしていたが、また新しい人が入って営業再開するそう。

【事務所】
畳を板張りに変えて、押し入れの扉を外した。作業机などの家具は譲ってもらったものか、DIYで作ったものがほとんど。板戸1枚隔てた初駒から届くまちの人々の声に時折耳を傾けながら、今日も机に向かっている。

 

地域のつながりを育む

漁村集落の名残がある駒ヶ林には、細い路地や木造建築の家が醸し出す独特な風情があります。まちに住み続ける理由はさまざまですが、日常的に接するまち固有の景色、そして初駒のような空間で育まれる住民同士のつながりはその大きな根拠になるのではないか、と松原さんのお話を聞きながら感じました。

喫茶スペースは曜日固定で、1曜日あたり月3千円で貸し出していて、現在は利用者を募集中だそうです。時間帯など詳しい条件は、初駒でぜひコーヒーを味わいながら、スタヂオ・カタリストの方に伺ってみてください。「初駒」という店名には初めてつくる場所、という意味が込められていますが、誰かにとっては駒ヶ林と初めて関わるスタート地点にもなるのかもしれません。

NPO法人の事務局+地域とアーティストのためのオルタナティブ・スペース

リノベーションされた空き家や空きビルに伺い、どのような場所に生まれ変わったのかをリポートする不動産コラム。第9弾は、長田港のそばに佇む築80年以上の古民家「角野邸」。駒ヶ林駅から徒歩7分ほどの場所にあるこの建物は、かつては迎賓館として使われていました。現在は、NPO法人芸法(以下、芸法)の事務所として、そして展示やダンスパフォーマンス、映画のロケ地などの用途を持つオルタナティブ・スペースとして活用されています。芸法の理事長である小國陽佑さんに、物件と地域での活動についてお話を伺いました。

20年以上、空き家だった迎賓館 

芸法は、若手アーティストの活動支援を主に行っているNPO法人です。小國さんは2013年、以前からつながりのあった長田区のまちづくり課の仲介で、角野邸の保全・活用を推進していたスタヂオ・カタリストの松原永季さんを紹介してもらい、初めて内覧で訪れました。

「家の所有者である角野一平さんのおじいさんが長田港の網元(漁業経営者)で、迎賓館として角野邸を建てて美術品などのお宝をしつらえては、客人をもてなしていたそうです。でも、足を踏み入れたら部屋中ゴミだらけで、何がお宝か分からない状態。改修に苦労しそうではありましたが、ギャラリーは敷居が高くなりがちなので、ここで地域に向けて開放性のある展示会を開いてみたいという気持ちで短期間借りることにしました」  

小國さんはアーティストと毎週末集まり、1年ほど掛けて残置物の片付けなどを行いました。阪神・淡路大震災以降、空き家の状態だったこともあり、補修が必要な部分もいくつかありました。和洋折衷の近代建築の建物の3分の2は和室で、残りは洋室という造り。和室の畳はほぼ張り替え、洋室の壁は黄ばんでいたので白く塗り直し。そのほか、電気・ガス・水道などライフライン関連の機器の取り替え工事を行いました。

改修に掛かった費用は、トータルで120万円ほど。残置物の処理が40万円、畳の張り替えが15万円、ガス給湯器の取り替えが20万円。そのほか、白壁の塗料や水道工事、スタッフのごはん代、土壁の補修など費用が重なりましたが、松原さんやこと・デザインの角野史和さんが地元の業者を紹介してくれたおかげで、それぞれ一般的な費用よりも抑えることが出来たそうです。

「初めて物件を見たときは、思いっきり手を入れようと思っていたんです。でも、家を片付けていくと日記やアルバム、昔描いた絵なんかが出て来て、捨てるに捨てられず。角野一平さんから物にまつわるエピソードを聞くなかで、アーティストも私も角野邸に愛着が湧いてきました。建物の物語を紐解くにつれて、場所に対して親近感を持つようになったんです。建物の意匠を活かす形で地道に改修を進めて、2014年に初めて行った展示イベントの後もこの場所を借り続けることに決めました」

 2014年のお披露目イベントでは、片付けを行っていた関西圏の20名ほどのアーティストがコアとなり、平面作品を持ち寄って建物内に飾りました。片付けのときに仲良くなった駒ケ林町2丁目の会長さんも絵の展示で参加したりと、地域住民との交流も初回から生まれていたそうです。その後、小國さんは角野邸に6年間ほど住みながら、地域活動にも関わっていきました。角野邸は、現代アートの展示企画を行ったり、若手アーティストのアトリエ兼住居として短期間貸し出したり、自治会の会合に使ってもらったりと、多様な使い方を受け入れる施設へと生まれ変わりました。


角野邸の意匠と改修について

改修中、建築業者の方々から意匠について教えてもらって、建物に対する敬意が生まれたという小國さん。改修後に開いた展示会の様子と合わせて、元からあるデザインを極力残した角野邸の魅力をご紹介します。


2階の客間】
2階客間の改修前後。写真奥の左に違い棚、中央の床の間に家紋入りの畳、右に琵琶床があり、それぞれ手を入れずに残した。唯一この場所だけあった家紋入りの畳を見た業者の方が「これは大事なもんやから、絶対替えたらあかん」と教えてくれた。

【和室の障子】
和室の障子は縦格子で、空間に緊張感を持たせている。近くにあった母屋と違って、迎賓館として使われていたことは、非日常を感じるこうした設計から感じられる。障子や戸には節目が細かい高級な木材が使われている。

2階の元ミシン部屋】
1階から2階へと階段を上がったところにある、元ミシン部屋。大きいミシンを移動して、小さな展示室として活用。ガラス窓には二重の戸があり、海風を防ぐ重厚な造りになっている。

 1階廊下の雪見障子】
中庭の雪景色を楽しめるよう、ガラス部分が所々に散りばめてある。ガラスは当時のものを残した。よく見ると少し曲がっていて、気泡が含まれていたりと味がある。平面作品の展示にも奥行きを与えている。

【中庭】
中庭には植物がこんもりと生い茂っていて、掃除にひと苦労。家主の角野一平さんも自分では片付けが困難だったため、きれいに片づけて使ってもらえてうれしかったそう。実は一平さん自身も油絵画家で、展示に参加することも。屋外スペースで展示を行うこともあり、展示内容によってガラリと空間の雰囲気が変わるのもアートの魅力。


遠まわりでも、同じ目線で 

小國さんたちが角野邸を地域に向けて開き、多くの人に利用してもらうなかで「カフェをやったらもうかるんじゃない?」とよく言われたそうです。しかし、小國さんにはこの場所でお金を生み出したいという思いはありません。アーティストの支援という目的を持ちながらも、家主の思い出を紡いでいくこと、地域に見守られてきた角野邸の歴史をつないでいくことを大切にしています。

「角野邸には多くの人を呼べるほどのキャパシティはないので、地域全体がアートビレッジみたいになればと考えています。もし長田区にアートセンターの機能を持つ施設を造ることが出来たら、角野邸はその補助施設としてアーティストが滞在制作をしたり、『下町芸術祭』のように会場のひとつとして使用してもらえたりするといいですね」

角野邸のこれまで、そしてこれからのお話を伺いながら、たとえ遠まわりだとしても家主の方や地域の人々と共に時間を過ごすことで、地域のなかで持つべき役割をまわりの人と同じ目線で捉えることが出来るのだと感じました。少人数の事務局で対応出来る範囲はあるそうですが、ご興味のある方はぜひ展示やイベントの際に角野邸についてお話を伺ってみてください。

2週間足らずでオープンした、鳥を探す古着屋

リノベーションされた空き家や空きビルに伺い、どのような場所に生まれ変わったのかをリポートする不動産コラム。第8弾は、20211月にオープンした古着屋「LOST BIRD」。市営地下鉄海岸線の和田岬駅から2分ほど歩き、辿り着いたビルの1階には「釣具屋」の看板。中に入れば、古今東西の服や雑貨に目移り。店主の坂本大熙(ひろき)さん(下写真・左)と村上竜一さん(下写真・右)に、お店づくりや取り扱っているアイテムについてお話を伺いました。

*こちらの物件には「釣具屋」から「LOST BIRD」に至るまでの間にも、リノベーションのストーリーがあります。詳しくは、TONARI DESIGN増井勇二さんの記事をご覧ください。

みんなの遊び場を作る

坂本:LOST BIRDは「鳥を探す服屋」というテーマでやっています。この建物から鳥がいなくなってしまって、その鳥が好きな服や雑貨、ガラクタを集めながら探しています。そもそものきっかけは、三宮の街中に張り出されていたペット捜索願のこちらのポスターで。

村上:普通は「鳥を探しています」とかじゃないですか。そうではなくて「LOST BIRD」。街のあちこちにあって、その響きとデザインが印象に残っていたんです。

坂本:ちょうどその頃は2人とも仕事を失っていた時期で、大学の先輩である建築士の西村周治さんの現場を手伝っていて。昼休憩のときに「小遣い稼ぎでTシャツでも作ろうか。あの鳥のポスター、ストリートのグラフィックデザインとして秀逸やから、デザインに落とし込んでみよう」と話していました。

村上:西村さんにそう話したら、「物件用意するから、服屋やってよ」と言われて。それが昨年の12月24日。4日後の28日に前の住人が退去するから、今年の1月10日オープンにしようということになって……。

坂本:準備期間が2週間もない(笑)。とにかく服をかき集めて間に合わせました。ちなみにここがオープンする直前に、垂水区塩屋町に「heso.」という複合施設ができるからそこでお店をやらないかとシオヤチョコレートさんに誘われて、これ以上失うものは何もない2人なのでそちらもオープンすることに。ニートがいきなり2つのお店を開くってめっちゃおもろいやん、となって。もともとは、Tシャツを作りたかっただけなんですけどね。

村上:和田岬のお店は、スケルトンの状態での引き渡しだったので、解体や撤去などはほとんど行っていません。壁にあった木製の棚をバキッと外したくらいかな。

坂本:何でもできる空間で自由度が高い、というのが最初の印象でしたね。“内”でもあるし、玄関の扉を開放していたら“外”の一部にもなるというか。でも、冬に扉を開けてたら寒いからよく鍋をしていて。そしたら「何やってるんやろ?」ってのぞく人がいたり、和田岬の知り合いが聞きつけて集まってきたり。自転車屋PORTの川ちゃん(店主・川崎貴之さん)は仕事終わりに来て、軽く飲むつもりが気づいたらいつも真夜中。

村上:和田岬の先輩たちもよく遊びに来てくれます。一緒にごはんを食べたり、話したりして楽しくなってくると、帰り際に「これええやん!」って気持ちよく服を買ってくれるなんてことも。毎週企画しているイベント目当ての人たちもいます。展示経験がない若い人をつかまえて、ここでしてみたい展示をゼロからサポートする「0展(れいてん)」というイベントに、出展者の友だちが遊びに来てお店のことを知ってくれることもあります。

坂本:小さい頃って道端の石ころが遊び道具になったし、木があれば登ったし、どんな場所だろうと楽しんでましたよね。まずは僕らがこの秘密基地で遊ぶから、今後はほかの人も企画して遊んでほしいです。

村上:企画でもいいし、一緒にバーベキューするだけでもいい。この空間に出入りする人が増えれば、客層の幅も広がってもっとおもしろくなると思います。


置くもので、店は変わる

がらんとした空間を、2週間足らずで古着屋に仕上げた坂本さんと村上さん。リノベーション物件をお店にするうえで大切なことは“何を置くか”だと話します。古着にかぎらず、お店を形づくっているキーアイテムをご紹介します。

【古着のセレクト】
買い付けは2人で行う。仕入れ先を尋ねると「鳥が運んできてくれる」との回答。坂本さんは、ふざけたものもかっこいいものもまんべんなく集めて、“100着あれば1着はハマるものがある”店を目指す。村上さんは、おじさんが着そうなチェックなど地味な色合いで“ギリギリ”のラインを攻める服が好み。オーセンティック(奇抜ではない正統派)、ベーシックなデザインをよく選び、店としてセレクトのバランスがよく取れている。

【オリジナルアイテム】
右写真は「FLASH LIGHT × LOST BIRD / Long Sleeve Tee / White」。オリジナルのTシャツ作りから始まり、アパレルブランドとのコラボアイテムや、ヴィンテージシャツのB品やC品を藍染めした商品なども制作。

【納豆ブランド「ネバネバビーン」】
納豆が好きで始まった納豆アパレルブランド。ファッション誌の編集経験を持つ村上さんが立ち上げ、納豆の商品ロゴをプリントしたシャツや納豆パックの形をした皿など、アイテムを次々と展開している。LOST BIRDはブランド直営店。左写真の長袖Tシャツは、710(なっとう)年に建てられた平城京を含む7つの塔が描かれたデザイン。

【木製ラック】
お店のオープンまで時間がないなか、知人に頼んでデザインから納品まで2日間で行ってもらった。毎週行われるイベントに合わせて移動しやすいように作られており、解体して持ち運びもしやすい。ラックの位置など店舗空間の使い方は2人で話し合い、流動的に決めていく。

【店内の鳥たち】
お店には、知人友人からもらう鳥グッズが並ぶ。鳥を探すというコンセプトがよく認知されているのか、鳥の写真とともに発見報告が2人によく届くそう。今後も鳥にまつわるアイテムを集めて、グッズも制作していきたいという。

 

リノベーションに興味がある人へ

坂本:場所とやる気さえあれば、2週間でもお店は始められます。僕らは生活がかかっていて追い込まれていたのもあるけど……(笑)。初めから完成を求めてしまったら、リノベーションって難しくなるかもしれません。ここはいつでも空間をリセットして新しいことができるような、透明な場所でありたいなって思います。

村上:お店は置くもので決まる気がします。立地やサイズが決まっている空間のなかで、何をどう置くか。自分の家みたいに、置いてみてイメージと違ったら、また変えたらいい。初めはベストだと思えない場所でも、置くもので見え方がだいぶ変わるはずです。

 

クリエイターの交流サロン+お香の魅力を発信する拠点

リノベーションされた空き家や空きビルに伺い、どのような場所に生まれ変わったのかをリポートする不動産コラム。第7弾は、市営地下鉄海岸線の和田岬駅より徒歩1分ほどのところにある物件。玄関の扉を開けると、漂ってくるの上品な香り。土地付きの空き家を購入・改修し、2020年夏にオープンしたこの場所について、株式会社グローバルトゥエンティワンの代表取締役・松村勉さんにお話を伺いました。

かつての宿場町にあった空き家 

松村さんの会社は昭和60年に創業以来、神戸を拠点にイベント・プロモーション事業を中心とした多角経営を続けてきました。線香やお香の日本一の産地である淡路市の地域活性化事業として、お香の商品プロモーションに携わり始めたのが2015年頃。その翌年には北区有馬町でお香の専門店「有馬香心堂」をオープンし、その商品開発・パッケージデザイン・通信販売の拠点として和田岬に「アトリエハウス浜本陣小豆屋」を構えました。

「和田岬というエリアには前から興味がありました。明治時代には宿場町として栄えていて、神社や寺院も多く建てられ、薩摩藩や長州藩、外交で訪れたイギリス人も行き交うような活気あふれる街だったんです。『浜本陣小豆屋』という名前は、薩摩藩が運営していた本陣(宿屋)の名前に由来しています。イギリスの外交官であるアーネスト・サトウ、西郷隆盛、坂本龍馬らが神戸を開港することを話し合った本陣で、彼らのようなチャレンジ精神を持ったクリエイターが集まる交流サロンとしても運営できればと考えてこの場所を作りました。コロナ禍でまだまだこれからの状況ではありますが、デザイナーやカメラマンなど、地域を盛り上げる担い手が出会い、語り合える場所になればと願っています 
コロナ禍で手の空いた時間をリノベーションに費やした結果、この1年間で淡路島や和田岬など各所でなんと5軒の空き家改修を行ったという松村さん。そのうちの1軒として見つけた空き家が、歴史ある三石神社の隣にあるこちらの物件でした。ある程度の改修経験があったことで、建物の状態が悪くてもどの程度手を入れれば再生できるかが分かったそうです。

一軒家の1階には商品ギャラリーとサロンのスペースや水場、トイレがあり、2階には応接間とスタッフの作業スペースが備わっています。4ヵ月ほどの施工期間で、アトリエハウスとして生まれ変わった物件の様子をお伝えします。  

2階の来客スペース】
窓も壊れており、雨漏りもひどかった。壁の穴を埋めたり、ベニヤを張ったりする作業は自分たちで行い、雨漏りの補修は業者に依頼。会社で使用していない備品を集めて来客スペースを作った。窓からは緑映える三石神社の境内が一望できる。

【壁面】
2階へ上がる階段の壁面や水場など、経年変化の味がある場所はあえてそのまま残した。2階の来客スペースには友人の職人に壁紙を貼ってもらい、別のリノベーション物件にあった残置物の絵画を飾っている。どこに予算を費やすべきか、よく考えられている。 

1階のギャラリースペース】
杉の産地として知られる大分県日田市で、棚板を16,000円ほどで購入。商品開発やパッケージデザインを担当するお香の商品は種類豊富だが、ゆとりある空間で見やすくディスプレイされている。電気工事も必要だったが、友人に頼んで18万円ほどの費用に抑えた。

明治時代にこの地で交流し、神戸を開港した人々に思いを馳せながら、歴史ある日本のお香文化を日本全国、そして世界に届けていくことが今後の目標だという。 

 

改修現場に毎週通って自ら手を動かす松村さんに、事務所として空き家を購入・改修する魅力について伺ってみました。

「自分の家であれば生活に関わってくるのでどう改修するか慎重になりますが、新たに創る拠点であれば多少失敗があっても許容できるので冒険ができて楽しいです。賃料が月8万円の物件であれば、年間で100万円ほどかかりますよね。それなら100200万円ほどの物件を買って長く使うほうが安く済むし、自分たちの物になっていい。会社として空き家を改修した事務所や店舗がさまざまな地域にありますが、生活や仕事の環境をいろいろなところに置くことで気分転換になりますし、生産性の向上にもつながるのではないでしょうか」

かつて薩長の藩士が集った地に残された空き家は、アーティストやクリエイターが交流し、古きよき日本のお香文化を発信する魅力的な場所として引き継がれていました。
 

 

長屋の一角に生まれた自家焙煎珈琲店

リノベーション中の空き家や空きビルに突撃し、どのような場所に生まれ変わるのか、変わったのかをリポートする「突撃!現場Report!」。第6弾は、新長田合同庁舎近くにオープンしたばかりの珈琲店。阪神・淡路大震災で一部崩れたという築100年以上の長屋の空間は、どのようにして憩いの場へと生まれ変わったのでしょうか。

 

あきらめずに、信頼できる業者を探す

2021年6月22日、店主の中野恵子さんはご主人の実家があった4軒長屋の一角で「自家焙煎珈琲 下町Cafe 茶豆」をオープンしました。こちらのスペースには元々米屋が入っていましたが、阪神・淡路大震災で隣の部屋が倒壊した影響で長らく空き家になっていたそうです。

 

空き地や空き家が残ったままで、元気がなくなった近隣の商店街を見るたびに胸が痛んでいたという中野さん。2019年に合同庁舎ができたり、2020年からアスタくにづか5番館の地下が改修されたりと、人が流れて周辺が明るい方向へ動きはじめたことで、かねてより夢だった自分のカフェをこの地で開くことに決めました。

 

しかし、壁はボロボロで空き家はかなりひどい状態。雨水が入らないように土間だった床の底上げをするなど手を入れる部分も多く、初めに依頼した改修業者の見積もり金額は、およそ800万円……! 焙煎機など厨房設備も含めると1,000万円を超えてしまいます。根気強く7社ほどの業者に相談し、最初の見積もりの半額以下に費用を抑えて、希望の内容で工事を請け負ってくれる大工さんをなんとか見つけました。そして何度も相談を重ねて、古民家ならではの天井の梁などを残しつつ、心穏やかに珈琲を味わえる空間が生まれました。

 

およそ1ヵ月の施工期間で完成したお店の様子をお伝えします。

 

【飾り窓】

サッシと引き戸を取り外して抜けを作ることで、奥の客席スペースの様子が分かりやすくなった。飾り棚の物を季節や気分で入れ替えるのが、中野さんの楽しみ。

 

【カウンター】

競りにかけられている一枚板の写真を施工担当者に送ってもらい、一番好きな色味の板を選んだ。女性も男性も落ち着くテイストだからか、カウンター席を選んで座る人も多い。

 

【奥の客席スペース】

年配の方や子連れの家族が過ごしやすいように、元々あった奥の部屋のフローリングを残した状態で客席として開放。階段下の押し入れだった部分は倉庫にする案もあったが、空間を広く取るためにこちらも客席にした。

 

「茶豆ブレンド」は、高品質なスペシャルティコーヒー豆をバランスよく使用。キャラメルやナッツの風味、フルーティーな香り、甘い印象を残して消えていく後味。持ち帰りの豆も安価で提供されていて、自宅でも淹れて味わいたくなる。

 

 

取材時はモーニングタイム。近隣の方々が和やかに団らんしたり、買い物の休憩に立ち寄ったりと、思いおもいの時間を過ごしていました。「今後はコーヒー教室も行っていきたいです。自分の好みのコーヒーを見つけてもらえる場所になればうれしいですね。近隣の方々とも協力し、この町を盛り上げていきたいです」と店主の中野さんは話します。お近くに寄られた際は、空間とコーヒーを味わいながら店舗リノベーションの参考にしてみてはいかがでしょうか。

 

 

 

【突撃!現場Report!vol.5】 映像作家がつくる長屋のオフィス&バー

リノベーション中の空き家や空きビルに突撃し、どのような場所に生まれ変わるのか、変わったのかをリポートする「突撃!現場Report!」。第5弾は、映像作家の池田浩基さん古びた長屋をリノベーションし、オフィス兼バーとして運営していこうとしている場所を訪問。空き家だった長屋がオフィスとして、人が集まるバーとしてよみがえっています。

池田さんの作品を掲載している「下町日和」の記事はこちらから。

「週間下町日和 池田浩基 1st week」
https://shitamachikobe.jp/weekly/2341

 

空き家だった長屋を創造の拠点に

2018年に長田区に引っ越してきた映像作家の池田さん。今回リノベーションした物件のすぐそばの長屋に子育てをしながら家族と暮らしています。

引っ越してきてからは、住まいは長田、仕事場は元町のオフィスで、という生活だったそうですが、家族からの希望もあり、自宅の近くで事務所に使えそうな物件を探すことに。

そのとき、すぐ近くの長屋に空き部屋があったのを思い出し、大家さんと交渉の上、リノベーションしていくことなったそうです。

初めて中を見たときは、天井は雨漏りしていて、床も抜けている状態だったそうですが、お兄さんが大工だったということもあり、約1ヶ月間の工事で事務所としてオープンできたそうです。

事務所に求めた条件は、「撮影ができること」「事務スペースが確保できること」「バーカウンターが置けること」という少し長屋にはハードルが高めの内容。そのリクエストがどのように実現したか、ご覧ください!

 

 

バーカウンターはこのように。仲間のクリエイターやアーティストなど小規模で今は実験をしているとのこと。いずれは夜にいろんな人が集まるBARになっていく予定。

 

 

打ち合わせにも使えるスペース。

 

 

長屋の暗さが嫌だった、とのことで、天窓に。

ちなみに天窓はヤフオクで購入したとのこと。

 

 

部屋の各所に仕込まれていた撮影用機材たち。

いつでもここで、撮影ができるように。

 

 

普段はここでも仕事をしている。実は隠し部屋のような2階があり、そこが事務所になっているとのこと。

訪れた際はぜひ、池田さんに聞いてみてください。

 


実はロフトもある。

ロフトにはプロジェクターが置いていたり、撮影用の照明がセットされている。

でもその横にはハンモックも。昼寝には絶好の場所。

 

 

 

いろんな人が集まる場所になってほしいという思いから「バーカウンター」を設置していて、準備が整えば、バーとしての営業も考えているとのこと。これからの動きが楽しみです。

オシャレなお家レポート「F:machine 淵上さんち」

今回訪れたのは駒ヶ林で木工機械の卸売やメンテナンスを行っているF:machineの淵上さんのお宅。シタマチコウベのエリアで、昔から活発だった家具作りや靴づくり、木材加工に必要となる機械のメンテナンスなどをしていることもあり、地域の職人ネットワークを作られています。お家を伺うとシタマチコウベで取材をしてきたMOUの幸玉さんや材木屋の三栄さん、マルナカ工作所さんから生み出された家具がいっぱい。

淵上さんのことはこちらの記事でご覧ください。
F:machine 淵上俊介さんにまつわる4つのこと
異業種での経験が生んだ一風変わった機械屋さん

https://shitamachikobe.jp/nudie/464

淵上さんが住んでいる兵庫運河の近くにあるワンルームマンションの一室。
座っているソファと前にある三角のローテーブルはMOUの幸玉さん作。

MOU 幸玉さんの記事はこちらから。
家具職人 幸玉次郎さんにまつわる4つのこと
神戸洋家具の伝統ある技術を受け継ぎ拡げること

https://shitamachikobe.jp/nudie/777

 

このソファに座りながら、本を読んだり、プラモデルを作ったりしながら休日を過ごしているそうです。

空間を仕切るこの木の枠は、材料は材木屋三栄さん、加工はマルナカ工作所で活動している馬場田さんによるもの。

三栄の服部さん、マルナカ工作所については、主宰している山崎さんを以前に取り上げさせていただきました。その際の記事もぜひ。

株式会社三栄 服部真俊さんにまつわる4つのこと
歴史ある場所で唯一残った材木屋の、ものづくりの支え方

https://shitamachikobe.jp/nudie/2372

マルナカ工作所 山崎正夫さんにまつわる4つのこと
六甲の木と港町をつなげる、新たな循環

https://shitamachikobe.jp/nudie/20

 

部屋に合わせた収納もMOUによるオリジナル制作。

 

ちなみにこちらは淵上さんオススメのランドリーボックス。空間に彩りを加えます。

淵上さんのお家にはシタマチコウベでも取材をさせていただいた、職人たちの仕事が溢れる空間となっていました。様々な職人の方に直接依頼していくことで、自分たちの暮らしにあう空間を作れる、そんなパートナーとなる人が多く住んでいるこのエリア。

ぜひ皆さんもオーダーメイドで家具を発注してみる、まずは、相談してみるなどいかがでしょうか?

 

【突撃!現場Report!vol.4】長屋暮らしを発信する、路地裏の空き家が完成!

リノベーション中の空き家や空きビルに突撃し、どのような場所に生まれ変わるのか、変わったのかをリポートする「突撃!現場Report!」。第4弾は、第1弾でご紹介した長田区腕塚町でDIYで改装された長屋をご紹介!かわいいシタマチJr.女子工務店が力を合わせて改装したお家がどうなったのかご紹介。

 

 

古びた長屋が、温もりあふれる木の空間に。

 


とうとう長屋が完成したよ、と声をかけていただいた7月末。どんな空間になったのか、期待を胸に、お家に伺ってきました。決してお世辞ではなく、みた瞬間に洒落てる!となったこのお家。是非、ビフォーアフターとともにご覧ください。

この記事を通じてお伝えしたいのは、古くてどうしようもなさそうな長屋でも、侮るなかれ。まだまだ可能性はあります!
今回は変化の様子を三段活用のように施工前、施行中、完成と追いかけていきます。
ぜひ空き家に困っている方はご検討ください。

 

【キッチン】
このいわゆる古き良き台所がどう変わったのでしょうか。

この特徴的なタイルはシタマチJr.女子工務店による施工。キッチン本体も壁面側から部屋の真ん中側に配置して、三方から使えるようにされています。キッチンを囲んで喋りながら料理ができる空間に。

天井にあけられた天窓から自然光が入ってくる。そして、オリジナルで作られたこの什器本体は苅藻の家具屋さんMOUが、扉の取手はF:machineが作るなどシタマチネットワークが生かされているそう。

 

【リビング】
リノベーション前は、いわゆるザ・和室となっていましたが、どうなっていったのでしょうか?

窓の無い部屋だったので、壁と天井に漆喰素材を使用。床は畳から無垢のフローリングに。明るくなっただけでなく、長屋共通の課題である湿気対策にもなっている。

【玄関】
玄関からは土間が打たれ、開放感が増加。壁やフローリングが木の魅力で溢れています。
大きな土間が暮らす人と町の人が関わって、どのように使われていくのか、楽しみです。

このような長屋が洒落たお部屋に変身!ぜひ、皆さんも古い物件にチャレンジしてみてはいかがでしょうか。

 

【突撃!現場Report!vol.3】空きビルの1階に自転車屋「PORT」がオープン!

リノベーション中の空き家や空きビルに突撃し、どんな場所に生まれ変わるのか、変わったのかリポートする「突撃!現場Report!」。第3弾は、第2弾でご紹介した中央区相生町で生まれ変わりつつあった自転車屋さんがオープンしたとのことで、どんなお店ができたのか、ご紹介していきます。

 

自転車初心者も安心して相談できる優しいお店。

 

訪れたのは7月中旬、とうとうオープンしたというのを店主・川崎貴之さんのSNSで拝見したのをきっかけに訪問!神戸市営地下鉄ハーバーランド駅で、電車をおり、地下から地上へ抜け、5分ほど歩くと見えて来たのはこちらの看板。新しいお店のはずなのに、全く新しく見えない。この「自転車&Drink」と書かれた看板を頼りに路地に入る。

 

 

すぐに見えて来たお店の入り口にいは、黄色く塗られた自転車が固定されている。DIYで作られた看板が、無骨なフェンスに取り付けられている特徴的な外観で、自転車がなければ、一見、何屋さんなのか分からない感じが面白い。

 

 

入ってみると整備中の自転車や部品が溢れている。自転車好きにはたまらない秘密基地のような空間。その一角には、夜な夜な自転車好きが集う?バーコーナーも。ウィスキーが並ぶカウンターは夜に来なければ、と思いつつ再訪を決める。
夜、ここはきっと自転車のことにそこまで詳しくなくても、面白い人が集まり、お酒が進む場所になっているはず。

 

 

自転車修理料金表は明瞭会計でわかりやすい!
店主の川崎さんは親身に話を聞いてくれるので、自転車初心者の方も安心して相談できるはず。自転車好きな方とはきっとディープな話が広がるんだろうと想像。正直、ダイエットを意識して、自転車を友人から譲ってもらったのだが、いい自転車過ぎて乗れてない私のような自転車初心者でも気軽に相談できる自転車屋さんになっていた。

 

ぜひ自転車に関するお困りごとやご相談は「PORT」へ

住所 神戸市中央区相生町5-1-3
営業時間 10時~20時
定休日 月、火曜日
ロード、マウンテンバイク、クロスバイク、一般車、電動自転車のメンテナンス、カスタム、取り寄せでの販売をやってます!

 

このエリアでDIYするよ!という方の情報募集中!

下町暮らし不動産では、突撃DIYReportの取材をさせていただける方を募集しています。DIY中、そして完成後に取材をさせていただきます。
お写真もプレゼント。ぜひお気軽にお問い合わせください。

【突撃!現場Report!vol.2】 空きビルをリノベーション中!気軽に立ち寄れる自転車屋さん

リノベーション中の空き家や空きビルに突撃し、どんな場所に生まれ変わるのかお届けする「突撃!現場Report!」。第2弾で訪れたのは、中央区相生町にある3階建の空きビルです。1階部分を、川崎貴之さんが、仲間たちとリノベーションを手掛けられるこの場所。新たなコミュニティの拠点となる自転車屋さんがオープンします!

 

 

 

気軽に頼れる自転車屋さん

 

 

実家が、バイク・自転車屋さんで、幼い頃から自転車に親しんできた川崎さん。ここ3年ほど、実家の自転車屋さんで働いていた川崎さんは、このあたりにはクロスバイクやロードバイクを扱うお店が少ないことを知り、この場所でお店を始めることを決めました。

 

まずは修理やパーツの取り扱いからはじめ、徐々に自転車の販売をされる予定とのこと。「ハンドルをもっと使いやすくしたい」「自転車の雰囲気を変えてみたい」などのお悩みを、気軽に相談できるお店にしていくようです。パーツを一つ変えるだけでも、雰囲気がガラッと変わる自転車。遊び心のある提案で、ファッションのように自転車を楽しむヒントがもらえるかも。

 

 

人の行き交う港のようなお店

お店の名前は「PORT(ポート)」。港のように、誰もが訪れられる開かれた場所になるように、という願いがあります。コーヒーやお酒も提供され、用事がなくてもふらりと立ち寄ることができます。ゆくゆくは、「1日店長」などの企画も行い、様々な人が集まる拠点をつくっていきます。

 

 

改修の様子

解体前・解体作業の様子

土間打ち作業の様子

扉の取り付け作業の様子。黄色の自転車が目印です。

解体中に出た廃材は、カウンターや看板など、至る所で再利用されています。

 

 

6月6日よりプレオープン中!

リノベーションが完了し、6月6日にプレオープンされました!コーヒーの販売も行われています。(アルコール類の提供は、8月より開始)これを機に、自転車のカスタムに挑戦してみてはいかがでしょう。ぜひ、お気軽に足を運んでみてください。

 

 

ポート

神戸市中央区相生町5-1-3
営業時間:10:00-20:00
定休日:月曜・火曜

お店のInstagramはコチラ

 

 

【突撃!現場Report!vol.1】長屋暮らしを発信する、路地裏の空き家を改修中!

リノベーション中の空き家や空きビルにお邪魔して、完成後までの様子をお届けする「突撃!現場Report!」。第1弾で取材に伺ったのは、長田区腕塚町にある木造長屋。長田区は、路地に長屋が立ち並び、昔ながらの景色が残る一方で、空き家率も高いエリアです。

リノベーションを手がけるのは、六間道商店街(長田区)にあるレンタルスペース「r3(アールサン)」のオーナーであり、建築士でもある合田昌宏さん。新たな入居者になる家族とともに、2020年2月から工事を始めました。路地裏にある空き家が、人の行き交う、開かれた住居へと生まれ変わりつつあります。

 

 

空き家に暮らすきっかけづくり

もともと、合田さんのお父さんが住んでいたお家を、最近は倉庫として使っていたこの場所。改修のきっかけは、空き家と同じ路地に住むおばちゃんの悩みでした。

 

「この辺りは空き家ばかりで、なんだか物騒。どうにか若い人に暮らしてもらえないか」

 

 

この近くの空き家を改修して、子育てをしながら暮らしている合田さんは、「あんたら、こっちの路地で子育てしてや」と相談されましたが、引っ越すわけにもいかず。しかし、空き家を放置していると、建物が倒壊する恐れなど、様々な問題が起こる可能性があります。

 

 

空き家への関心を高めるために、「路地裏でも素敵な暮らしができる」ことを発信しようと思った合田さん。実際に暮らしている様子を見学できる、開かれた住居へと生まれ変わっていきます。入居予定の家族と一緒に、工事を進めています。

 

改修の様子

改修前

解体後

仕上げ作業では、「シタマチJr.女子工務店」が活躍中!

 

大活躍の「シタマチJr.女子工務店」

 

 

入居を予定している家族のお子さん2人と、合田さんの娘さんで結成されたのが、「シタマチJr.女子工務店」。専門的な知識が必要な工事は、職人さんにお任せしていますが、壁や床の仕上げの部分は、このメンバーが担当しています。

 

「解体作業」「フローリング張り」「左官・漆喰塗り」など、なかなかハードな作業も経験してきた4人。取材に伺った日も、手慣れた様子でインパクトドライバーを使い、テキパキとビスを止める姿が見られました。

 

 

メンバーの一人の将来の夢は大工さん。

今回の改修に関わったことは、夢への一歩になりました。

 

合田さんは「若い人と一緒につくっていくことで、ものづくりに興味を持ってもらえたらと思います。ここでの学びが、勉強や将来の夢を考えることに繋がると嬉しいですね。これをきっかけに、この子たちに施工の依頼が来たら面白いなって(笑)」と話します。

「シタマチJr.女子工務店」のこれからの活動に、期待が高まります。

 

完成は、6月下旬の予定

これからは、床のPタイル貼りや、キッチン、トイレの設置などの仕上げ作業が、進められていきます。完成は、6月下旬の予定です。

完成後には、お家の全体像や、どのような暮らしを送っているのか、引き続きレポートしていきます!長屋暮らしに興味がある方は、必見です!お楽しみに!

 

DIYで変化し続ける焼酎居酒屋「今井やん」

DIYで変化し続ける焼酎居酒屋「今井やん」

神戸市長田区、丸五市場の中にある焼酎居酒屋「今井やん」。常時100本以上の焼酎が取り揃えられており、めずらしい焼酎や人気の焼酎など、今井さんこだわりの本格焼酎がズラリと並んでいます。旬の素材を生かした料理は焼酎との相性ピッタリ。今井やんの店内やインテリアは、店主の今井義延さん手作りで、現在もご自身でお店のリノベーションを続けています。今回は、今井さんに「今井やん」開店までのエピソードや、お店のDIYについてお話を伺いました。

- なぜ焼酎居酒屋を始めようと思ったのですか?
今井さん:
実は、もともとお酒も料理も好きじゃなかったんですよ。妻の実家が鹿児島で、帰省した時に親戚にお酒をすすめられても飲まなかったくらい。そんな僕が焼酎居酒屋を始めるきっかけになったのが、焼酎の蔵元に行ったこと。それまで焼酎独特のにおいが苦手だったけど、そこで飲んだ焼酎がすごく美味しくて感動しちゃって。そこから焼酎にどっぷりとハマり、自分で集めるようになったんです。同じ銘柄を3本買い、1本は飲んで2本は観賞用にしていると、気づけば家には200本もの焼酎が集まって、部屋中瓶だらけになってしまって。それなら焼酎が飲めるお店を開きたいなぁって。でも料理なんてしたことないからまずは勉強しようと、師匠と慕っている方のところで包丁の使い方や出汁の取り方を教えてもらいに通いましたね。師匠は僕が自動車ディーラーに勤めていた時のお客さんで、飲食店を経営されていたんですよ。そんなこんなでお店を開けたのが2008年の1月で、もう11年も経ちます。

- どうして丸五市場でお店を開こうと思ったのですか?
今井さん:
実家が駒ヶ林だし、結婚して建てた家も駒ヶ林なのでこの辺は昔からよく知っていて。自分のお店を持ちたいと思っていた当時、丸五市場のチャレンジショップの出店募集のチラシが貼り出されているのを見たんですよね。飲食店に関しては全くの素人だし、お店を始めるなら駅前のような人通りの多いところじゃなくて少し落ち着いたところでやりたいなと思っていたからちょうど良いなって。ここはもともとうどん屋さんだったみたいで、カウンターに8席並ぶだけの狭い店内でした。チャレンジショップとして募集するときに強力な換気扇をつけてくれたみたい。でも、初めは店の中にトイレがなかったんです。だからお客さんには丸五市場の事務所にある共用トイレを使ってもらっていたんだけど、シャッターが閉まっているのでトイレのたびに僕が付いていって鍵を開けないといけなくて。それがすごく煩わしかった。そんな状態が2年かな?今は僕のこだわりが詰まった広いトイレがありますよ。

- DIYの過程を教えてください
今井さん:
僕がお店を開いた当初は今のお店の半分くらいのスペースしかなくてカウンターだけ。飲食店らしい設備は換気扇しかなかったから、半年くらいかけてお店をしながら店内を作っていきました。もともと自動車ディーラーで働いていたり、加古川の職業訓練学校で木工を学んだりしたこともあったから、ものづくりには親しんでいた方だと思いますよ。とは言っても、DIYは、自分ができる範囲で。基礎工事や電気工事は工務店に頼みました。
オープンして2年くらいはカウンターだけでやっていたけど、ちょうど隣の靴下屋さんが閉じちゃって。だから隣も借りて壁を取っ払って1つのお店にしたんですよ。ベニヤ板で仕切られているような壁だったから結構簡単で。靴下屋さんの方にはトイレがついていたから、トイレの修繕工事は業者にお願いしました。お店が完成してからは、自分の使い勝手のいいように模索しながらコロコロ店内を模様替えしていて。ドアやキッチンの位置はもう何度変えたかわからないぐらいです。

- 材料はどうやって調達されましたか
今井さん:
材料はほとんどがアグロガーデンにお世話になってますね。車も貸してくれるし、工具も豊富に揃っているからありがたい。DIYの材料としては、買うだけでなく人からいただいたり、自分の家にあるものを使ったり。それなら、大幅に手を加えても1000円~2000円で済むので、一から揃えるよりお得で。師匠の店で使ってたカウンターをもらったから、食材を並べる台にして。カウンター自体は家で使ってたもの。すごい長かったから切って、余った分は椅子の座面にして。こんな風に本来の用途じゃない材料の使い方もよくしますね。壁面にかけてるCDラックは実はコンクリートの中に埋め込むワイヤーメッシュなんですよ。アグロガーデンで見かけて「もしや!?」と思ってCDを持って行ったら見事ぴったり納まって。ジャケットがちゃんと見えるんです。CDを並べていても背表紙だけしか見えないのは勿体無いと思ってたから大発見でしたよ。


- お気に入りポイントはどこですか
今井さん:
一番はやっぱり焼酎棚かな。実は結構工夫しているんですよ。自分もそうだけど酔っ払ったらふらついちゃうじゃないですか。そういう時に焼酎棚に手をついたりなんかしたら全部倒れてしまう。ここには100本以上あるからエライことになりますよ。だから焼酎が転けないようにするにはどうしたらいいのか考えて。手前に落ちないように柵をつけたら銘柄が見えなくなっちゃうし、横には倒れちゃうしね。でもこの棚は転けないんですよ。瓶がちょうど収まるように棚の上と下をくり抜いていて。差し込むような形で入れるから横にも前にも転けないんです。穴の大きさで取りやすさとかも変わってくるから結構試行錯誤しましたね。今でもおかしいところがあるけど、お気に入りです。
あとは自分で好きなように改装できるところは気に入ってますね。自分が作ったからこそちょっと気になるところがあれば、すぐ変えることもできるし。この前も、カウンターの椅子を作ったんだけど、お客さんに足置くところが欲しいって言われて。家に使ってない丸太みたいな木があったから持ってきて5分ほどですぐに作りましたよ。作るときは調べずに直観で作業してしまうから失敗も多いんだけどね。

- 丸五市場でお店を営んでよかったことは何ですか?
今井さん:
まず一番は、丸五市場の会長が、お店を改造することを理解してくれていることですね。もし、普通の物件を借りていたら、原状復帰が大変過ぎてここまで好きにDIYできなかったと思う。あと、この辺は商業地域だから騒音や煙に寛容なところもありがたいですね。店内で流しているステレオの音楽や、DIYの作業音に苦情が来たことがない。においも、周りがお店ばかりだからそこまで気にならないみたいで。だからこれからもここで、自分のため、お客さんのために工夫してお店作りしていきたいですね。

 

焼酎居酒屋「今井やん」

芋焼酎を中心に常時100種類以上の本格焼酎が取り揃えられており、今井さんこだわりの焼酎を味わえます。丸五市場で仕入れた旬の素材を使った料理も自慢のお店です。
営業時間:18:00~23:00 ラストオーダー 22:30
定休日:毎週日曜日
神戸市長田区二葉町3-10-10 丸五市場内
TEL:078-777-1433

つながりから生まれ変わり続ける長屋喫茶

長田区南部、海に面した駒ヶ林という漁港町には、古い木造長屋や入り組んだ細い路地、そして路地に露出した物干し竿など、どこか懐かしい古き良き下町の風景が色濃く残っています。そんなこの町に2011年にオープンした「喫茶初駒」。築130年以上の歴史を持つ古民家を、建築事務所「スタヂオ・カタリスト」が地域の人が気軽に集える喫茶として、オフィスに併設して改装しました。オープンから3年間は町内会会長の奥さんが店長として喫茶店を営んでおりましたが、現在は日替わりで様々な人がオーナーとして運営しています。毎週水曜日は和田岬の笠松商店街にある「MAISON MURATA」のスタッフさんによるお手製サンドウィッチが味わえる喫茶、金曜日はコーヒー好きの2人による飲み比べのできるコーヒー喫茶、そして3月よりカレー喫茶が毎週月曜日にはじまりました。

 

 

 

集いの長屋オフィス | みんなでつくろう

本記事はこうべ空き家活用支援事業サイト「みんなでつくろう」より抜粋し掲載しております。

 

 

 

Q 誰とどんな改装をしたの?

設計前の段階からいろんな人に関わってもらいたいと思い、まずは実測調査から大学の先生や学生、まちづくりプランナーや行政職員などの多く参加で行ないました。その後昔ながらの大工さん1人に棟梁としてついてもらい、改修が始まりました。

解体、漆喰塗り、古色塗装、土間の三和土(たたき)、庭の竹垣づくりなどいろんな人が関わると面白そうな工程は積極的に呼びかけてみんなでワイワイやりました。外人さんや近所の子どもにも参加してもらいました。

お金もそんなにかけられなかったので、事務所の床は杉の足場板を使い、庭の竹垣はむらづくりで交流のある集落の竹をタダで伐らせてもらい、(あちらさんにとっては伐採してもらったほうが助かるみたいです。)店内の欅の無垢カウンターは同じくむらづくりの仕事で交流のある養父市の臼職人さんに譲ってもらいました。

 

物件種別 古民家物件概要:延床面積85㎡ ( 喫茶店16㎡ / オフィス54㎡ / 屋根裏部屋15㎡ ) 平屋建て ( 屋根裏部屋あり )、木造
かかった日数 2ヶ月半
お金のこと 改装費300万円

 

 

Q なぜこの場所・この建物だったの?

「喫茶初駒」は、最初はオフィスとして改装しました。当時からスタヂオ・カタリストは駒ヶ林地区のまちづくり支援を行っていました。そのなかで建物の元の所有者から「空き家で困っている」と相談を受け、所長が買い手などを色々あたりましたが見つからず、実際に支援しているまちの現場で色々考えられることは願ってもないということで、結局会社で買い受けることになりました。

拠点をここに移すと地域内には多くの高齢の一人暮らしの存在がわかりました。所長の考えで、気軽に寄れておしゃべりができる喫茶店を!ということでオープンしたのがはじまりです。
実は、駒ヶ林は木造密集市街地や地図混乱地域という課題を抱えており、道が狭く車が中まで入れなかったり、土地の境界がきちんと定まっていないといった事情が多く、ほとんどの空き家は市場にのりません。しかし、裏を返してみると、お互いの事情が信頼関係の上でうまくマッチングできさえすれば、現在まで残り続けた他にはない昔懐かしい古きよき環境が得られるのだということも分かりました。

Q 楽しかったところは? しんどかったところは?

改装のプロセスもいろんな人が関わり楽しかったですが、その後の使われ方もとても楽しいです。駆け出しの若手農家が無農薬有機野菜を売りに来たり、農村部の特産品開発のための試食会が行われたり、近所の発明家を名乗るおっちゃんが新しいアイデア商品を見せびらかしに来たり。また、私は新長田の人情あふれる町中を舞台にしたアートプロジェクト「下町芸術祭」の実行委員もしているのですが現代アートの展示の舞台としても活用しました。先に触れたように課題の多い地域ではありますが、人々のくらしの営みがにじみ出ていて、人情や懐かしい路地の雰囲気など、他にはない魅力にあふれています。日常の暮らしとアートプロジェクトなどの非日常がここで結節され、たくさんの人に町の魅力や素晴らしい建物の存在に気づいてもらい移住や空き家活用のきっかけに繋げていければと思っています。

 

DIYについてもっと知る

 

 

 

ビフォーアフター | みんなでつくろう

BEFORE

 

AFTER

DIY プロセスをもっと見る

 

 

 

つくった人

角野史和さんについてもっと知りたい方はこちら

 

 

今夜、シタマチで vol.7 てくてく中央市場編 by角野史和・前畑洋平

 

 

 

職人に教わる漆喰塗りワークショップ@コミュニティサロンGnu(ヌー)

 

 

 

10/6 下町芸術大学 角野史和編「駒ヶ林・真陽地区を体験するフィールドワーク」

休日DIYで元居酒屋ビルがカレー屋に

兵庫区西出町、惜しまれつつも閉店した老舗居酒屋「ヤスダヤ」が大衆スパイス酒場「ニューヤスダヤ」として生まれ変わりました。ここでは、店主こだわりのカレーや、スパイスの効いた肴とともにお酒が楽しめます。このビルの家主は、大阪の建築会社に勤めながら、週末を中心にDIYでビルを改修している平井陽さん。築50年のヤスダヤビルの1階店舗部分は、当時の内装の味を残しつつ、ニューヤスダヤの店主や仲間たちとともに改修工事を進め、ついに2019年3月にオープンしました。

 

サラリーマンオーナーが暮らしながら作る元居酒屋の自由なビル|みんなでつくろう

本記事はこうべ空き家活用支援事業サイト「みんなでつくろう」より抜粋し掲載しております。

 

ビルを購入?それは今や決して一部の富裕層や“人生を賭けた大チャレンジ”でもないようだ。兵庫区の老舗居酒屋があった古ビルを普通に働く会社員が購入・改装・賃貸し、自由に楽しむことができている。そんな事例をお届けすべくお話を伺った。

(平井さんが購入した通称「ヤスダヤビル」)

自由に改装できる古ビルをワンルーム並みの価格で購入

平井陽さんは、建設会社に勤めるサラリーマンだ。以前まで兵庫区の和田岬に住んでいた。(当WEBサイトでは過去に仲島義人さんとの改装活動を取材している(記事はこちら))和田岬で仲間たちと週末を中心にDIYで「カルチア食堂」を作り、その隣のビルも改装しながら活動していた。それがひと段落し新たに自由に改装できる物件を探していたところ、2017年に兵庫区の西出町にある老舗居酒屋が閉店、その店舗が入っていた築50数年の中古ビルを紹介される。

平井さんは「賃貸では制限もあって自由に改装できないところが多い。数千万円っていう話じゃなく安く購入できて、気の向くままに改装できる自分の空間が欲しかった」との考えから、一般的な中古マンションワンルーム並みの価格帯で売りに出たそのビルをローンで購入した。

賃貸で出した店舗部分を借り手と一緒にカレー屋にリノベーション

(左:1Fの元居酒屋を改装中 / 右:造作したオブジェのようなもの)

 

平井さんが1Fの元居酒屋部分を賃貸に出したところ、カレー屋を出店したい人が見つかった。現在はオーナーである平井さんと借り手が一緒になって「カレー屋」作りに勤しんでいる。一般的な感覚では、店を始めたい借り手が主導で進めていくところだが、取材当日は平井さんがリードして改装作業を進めていたのが印象的だった。それぞれ思うがままDIYをしていて、独特な個性ができつつあるのも面白い。

営業開始は3月中を目指しているとのことだが、オープンしてからも気になるところがあればその度に改修していくつもりだそう。「藤村さん(借り手)のスパイスカレーは本当に美味しいし、一風変わった人柄なので、すごくいいお店になると思います。」とのことで、オープン後も楽しみだ。

住居部分も住みながら“人間と同じで完成のない”DIY

 

平井さん自身も上階に住みながら、住居部分のDIYも行なっている。2階や3階を案内してもらうと、床張りも途中だったり、雨漏りもしていたりとこちらも全てが完成していない状態。いつ頃に完成予定なのかを聞いたところ「人と同じで完成はないと思っています。」とのこと。
物件自体も過去の改装によって階段が途中で切れてふさがっている箇所もあり、迷宮のような造りになっていた。また、部屋の一部は友人とシェアしているとのことだった。

(自室、壁面も造作の途中)

(剥き出しのコンクリートブロック壁に棚を増設)

 

(改装途中の部屋にも造作したオブジェ)

自分や仲間が楽しく遊べる空間を

アーティストや自由業のようなスタイルに見えるが、平井さんは大手企業のサラリーマンだ。平日は仕事も多忙なため、週末や夜にDIYを行なっている。建築関係の仕事なのでDIYやリノベーションも経験豊富なイメージを持っていたが、昔からやっていたわけではないとのこと。DIYのコツは2件目にあたるカルチア食堂の隣のビルを自分で改装した際、住人からのオーダーが思ったより多く、いろいろチャレンジして覚えていったとのこと。その結果、カルチア食堂も含め「結構上手くいったし、面白いな」と思うようになったという。

(話がひと段落するとビール片手に作業のつづき。)

こうした活動のきっかけは、「自分や仲間が楽しく遊べる空間や出来事が欲しかったから」という平井さん。そして「このエリアには空き物件がたくさんあって、それを安く賃貸や購入することができ、自由な表現活動を許容する余地があった。」また、「今取り組んでいるヤスダヤビルもひと段落したら、次の物件を探し始めると思います。」とのことだった。

新しい不動産投資?(取材を終えて)

平井さんは「空間を自分の思うように作りたい。」という欲求を自分の手を使って楽しんでいた。それはアーティストなどの限られた人の表現活動のようにも見えるけれど、住む場所という範囲で考えると本当は多くの人が望んでいる欲求でもあると思う。やっぱり自分が住むところは自分が気に入るようにしたい。平井さんはそれを仕事の合間にコツコツと進めている。

また、ローンで購入した物件を賃貸に出したり、友人とシェアをしたりと投資的な側面もあるところが面白い。従来の賃貸物件やマンションを購入してもそうだが、管理面や改装面で自由が制限されているところがほとんどだ。平井さんはその制限を取り払うべくこの1棟ビルを購入した。先述したが、自分が住んだり、働くところは自分が気に入るようにしたいと考える人には平井さんのような人がオーナーの物件は魅力的に映るのではないだろうか。

お話を伺い、住居はもっと自由で、気に入るまで作り直すという視点がポイントに感じた。その視点を持つことで、今までとは違った物件の見方ができそうな気がした。

取材後日 1階カレー屋さんのトライアルオープン

取材から数週間後の3月中旬、1階のカレー屋さんにてプレオープンイベントが開催され大盛況でしたと、平井さんから連絡と写真をいただきました。

(プレオープンの様子)

 

つくった人

平井陽さんについてもっと知りたい方はこちら

ヤスダヤビル家主/つくる人 平井陽さん 「週末だけでつくりだす豊かな空間と空きビル生活の実践」

 

大衆スパイス酒場 ニューヤスダヤ
店主こだわりのカレーや、スパイスの効いた肴とともにお酒が楽しめます。
住所:神戸市兵庫区西出町2-17-18 安田ビル1階
営業時間:
[ランチ] 11:30~14:00
[ディナー] 18:00~21:00
instagram: https://www.instagram.com/newyasudaya/

子どもからお年寄りまでぶらりと立ち寄る町の談話室

神戸市長田区、地下鉄海岸線「駒ケ林駅」の改札を抜けると東西に約600mはしる広い商店街、六間道商店街があります。かつては神戸西部地域の商業拠点として栄え、名前の由来となった約六間(約10.8m)の道幅を、肩をぶつけないと歩けないほどだったそう。しかし、95年の震災後は空き店舗化が進み、シャッターの多い商店街になってしまっています。そんな六間道商店街に2015年にオープンしたレンタルスペース「r3(アールサン)」。建築士の合田昌宏さんが内装を手がけ、ママの働き方応援隊で理事長を務める妻の三奈子さんと共に営んでいます。町の人がふらっと気軽に立ち寄れる場所にしたいという願いのままに、毎日子どもからお年寄りまで町の様々な人が訪れており、町の談話室に。日替わり店主のカフェや育児中のママたちがつくる体に優しいお弁当、壁一面にガラスが貼られた奥の自由なレンタルスペースではダンスのレッスンが行われていたり、毎日違う楽しさに出会えます。2019年3月には60年近く商店街を支え続けたアーケードが老朽化のために撤去され、r3の前は青空が広がっています。

 

商店街の星 | みんなでつくろう

本記事はこうべ空き家活用支援事業サイト「みんなでつくろう」より抜粋し掲載しております。

 

 

 

Q どんな建物を改装したの?しているの?

神戸市長田区にある六間道商店街に面している14階建てのマンションの1階部分、しばらく空き店舗だったのですが、その前は牛乳屋の倉庫や鉄板焼き屋でした。
六間道商店街はかつて神戸西部で最も栄えていた商店街でしたが、現在は比べものにならないくらい閑散としています。空き店舗はあるのですが、小規模なものが多く、広さを確保できる物件はここしかありませんでした。実際、お店を出したい知り合いへ「この辺りで商店街沿いの広い店舗は、ここしか無いですよ」と何回か案内した事がありました。

物件概要 商店街路面店(マンション1階)
物件概要(面積など) 約95㎡
かかった日数 3ヵ月半

 

 

Q 誰とどんな改装をしたの?

店つくりのテーマであるリユース素材(余ったテント生地をつなぎ合わせ)をつかった仮設の現場事務所をつくり、出来ることは自分たちで施工し、子どもたちを集めてクロスめくりもしました。クロスめくり作業は、ゲーム感覚で子どもたちも楽しんでいました。
前を通る人たちに興味を持ってほしかったので、工事の始めの方にまず木を立てました。
何もない空間に、木が立っている光景は、多くの方々が店前に立ち止まるキッカケになりました。「何できるの?」「この木は何なの?」と話しかけてもらうことができ、工事中でありながらも商店街のたまり場になっていました。
自分でほぼ全ての作業・監修を行いましたが、配管や電気工事などは昔から繋がりのある地元のプロにお願いしています。

Q 楽しかったところは?しんどかったところは?

細部に至るところまで、全てに自分の想いを詰め込み、それによって空間がてきることがものすごく楽しかったです。「工事の仕方をデザインする」ということを考えながら、進めてきた中で一番特徴のある仕組みは、外壁を最後に仕上げるということでした。
見た事の無い現場事務所を作り、はじめに木をたてて話題性をつくり、そのまま工事をオープンにすることで、本当にたくさんの方に声をかけてもらい、この場所に興味をもってもらえたり、自分のしていることを知ってもらえたりするきっかけになりました。
時期的にイベントや他の仕事が忙しく、集中出来なかったことが大変でした。
自分の想いを詰め込むためにも、他の人に任せる事をせず、全てに関わったので、効率が悪かったことも原因だと思います。

 

 

DIYについてもっと知る

 

 

 

ビフォーアフター | みんなでつくろう

BEFORE

 

AFTER

DIY プロセスをもっと見る

 

 

 

つくった人

合田昌宏さん・合田三奈子さんについてもっと知りたい方はこちら

r3 / DOR 合田昌宏さん「地域のつながりから生まれる仕事と生活」

 

 

繋ぐ人/ ママの働き方応援隊 理事長 合田三奈子さん 「子育て中のママだからこそ担える地域での役割」

 

レンタルスペース r3(アールサン)

長田区六間道3丁目商店街にあるレンタルスペース。ダンスの練習からコワーキング使い、1DAY cafeまで幅広くご利用いただけます。

〒653-0035 兵庫県神戸市長田区庄田町3-5-10-101
TEL:090-4293-4396

町のコミュニティとつながる暮らしの相談窓口/本町まちづくり工房

町のコミュニティとつながる暮らしの相談窓口/本町まちづくり工房

新長田の町を南北にはしる本町筋商店街の一角に、「本町ものつくり工房」の看板が掛かったガラス張りの建具に白を基調した内装が可愛らしいお店があります。ここは元々、新長田にある老舗ガラス屋の職人が工房兼ギャラリーとして営んでいましたが、2016年に六間道で多世代型介護付きシェアハウス「はっぴーの家ろっけん」を運営する首藤義敬さんが引き継ぎ、「本町まちづくり工房」としてオープンしました。そして2018年、長田区・兵庫区南部を対象にした神戸市の助成「アーティスト・クリエイター等の活動拠点支援事業」を受け、クリエイターやアーティストだけでない、町の人の暮らしの相談窓口として生まれ変わろうとしています。

- 「本町ものつくり工房」の看板がかかっていますが、ここは元々どういった場所だったのですか?
首藤さん:
ここは元々、長田区二葉町にある老舗ガラス屋の3代目であるガラス職人の古舘嘉一さんが、地域でものづくりをされている方々の工房兼ギャラリーとして運営していました。築90年以上の歴史を持つ古民家を改装してオープンしたそうで、この町の職人によるものづくりワークショップや展覧会なども行われていて、いわばクリエイターの活動拠点であり、クリエイターと町の人を繋げるハブのような場所でした。僕がここを引き継いだのが、介護付き高齢者住宅「はっぴーの家ろっけん」を建設中の2016年。僕ははっぴーの家を建てるときに、「6階建ての施設ができるとしたらそこで何をしたいですか」っていうのを町の人に問いかけるワークショップをしたんですよ。ただ高齢者住宅を建てるのではなく、町にこの施設ができて良かったな、関わりたいなって思ってもらえるようなものを作りたいと思って。そういう思いに古舘さんは賛同してくれて、ぜひこの場所も使って欲しいとお声がけしてくれたんです。ここの近くには地域密着型のスーパーがあるからいろんな人が日常的に前を通るし、地域の人との関わりが生まれやすい場所だろうなと思って借りることにしました。

 

- ここではどのような活動をしているのですか?
首藤さん:
2階ははっぴーの家ろっけんで働く看護師や介護士、ケアマネージャー(介護支援専門員)の事業所が入っていて、1階はイベントやコワーキング利用などができるオープンスペースにしています。使いたいという声があったら貸す感じで。はっぴーの家では福祉事業のプロフェッショナルたちが働いているから、週に1回はここで医療や介護の相談窓口もしています。
昨年、神戸市の助成制度「アーティスト・クリエイター等の活動拠点支援事業」を受けて、カフェができるようにキッチンを整備しました。

- なぜカフェを始めようと思ったのですか?
首藤さん:
僕は別にカフェがやりたいわけではなくて、カフェができるというのがここで起こることの可能性を広げる一つのきっかけだと思っています。人が仲良くなるきっかけとして一緒にご飯を食べたりお茶を飲むっていう、その時間と空間を共有することはすごく大事だなと思っていて。例えばホットコーヒーを一杯頼んだら、少なくとも10分はその場にいて、コミュニケーションが生まれる。
この間もはっぴーの家で働くキッチンスタッフがお菓子づくりが得意だということで1DAYカフェを企画したり、子どもたちがコーヒー屋さんをやったりしました。今度ははっぴーの家に暮らすおじいちゃんおばあちゃんにも一緒にカフェをしてもらおうと思っています。そんな風にキッチンができたことで、いろんな人が挑戦できる場になったし、普段出会わない人たちとの接点が生まれるきっかけになっています。水回りを整備するのは時間もお金もかかることで、もし全部が自費だったらすごく時間がかかってたと思うけど、ちょうどいいタイミングで助成事業に出会えて、この場所を活用していく後押しになったなって感謝しています。

 

- 今後の展開を教えてください。
首藤さん:
僕がここでやりたいと思ってるのは、この町の暮らしにまつわる相談所。医療や介護の相談だけじゃなくて、子どもの暮らしでいうと、習い事を紹介したり、ここを寺子屋として使ったり。今度はっぴーの家に暮らすカナダ人のドッグが英会話教室をするんですよ。この町の魅力として、外国人がすごくたくさん住んでいる。だけどなかなか日常的な接点は生まれにくい状態で。だからこの場所で英会話教室をしてもらうとか、母国料理でカフェをしてもらうとか、こちらから仕掛けることで外国人と町の人が関わるきっかけになればと思っています。それに最近、この町にアーティストやクリエイターの移住がすごく増えているので、彼らにとっても何かできる場所であってほしい。クリエイターたちは家にこもって作業をすることが多くて、なかなか町のコミュニティに入るきっかけが生まれにくいと思うから、本町ものづくり工房の用途もそのまま残して、コワーキングスペースやアトリエとして使ってもらったり、ワークショップをしてもらったりして、地域の人との関係性を作っていってほしい良いなと思っています。
8月にはここに不動産の事務所もおく予定です。ただ物件を紹介するだけじゃなくて、移住や住替えの相談にものって、暮らしを作っていくサポートもする不動産。僕たちがコンセプトとして言ってるのは、“引っ越し初日から友達がいる、コミュニティがある暮らしをつなげます”ってこと。だからこの場所は、訪れた人が町のコミュニティに繋がれる場所にしたいと思っています。暮らしにまつわることならジャンルを問わない世代を超えた町の相談窓口になっていくと面白いですね。そのためにできることからちょっとずつ仕掛けていきます。

 

本町まちつくり工房

本町筋商店街に構えるジャンル・世代を問わない町の相談窓口。医療や介護の相談から、移住・住替え相談、習い事・ワークショップ相談、まちのお困り事相談、コワーキング、その他スマホの使い方から相続のお困り事まで、なんでもご相談いただけます。
住所:神戸市長田区二葉町3-1-11

 

首藤義敬さん

株式会社Happy代表取締役。
遠くのシンセキより近くのタニンをモットーに、多世代型介護付きシェアハウスはっぴーの家、移住専門不動産・高齢者福祉の相談窓口等をミックスしたアトリエなど、ちょっと新しい不動産事業、ちょっと新しい福祉事業などなど、暮らしの中にあるアタリマエをリノベーションする会社代表。

路地中から生まれるアートムーブメント/city gallery 2320

路地中から生まれるアートムーブメント/city gallery 2320

長田区二葉町、南北に伸びる本町筋商店街から一本路地を入った住宅街にひっそりと佇む「city gallery 2320(シティギャラリー2320)」。2018年9月にオープンしたこのギャラリーは、長田区・兵庫区南部を対象にした神戸市の助成「アーティスト・クリエイター等の活動拠点支援事業」で誕生した拠点の一つです。
オーナーの向井修一さんは、地元で手に入るものにこだわり、何から何まで手作業でリノベーションをおこなったそうです。

- なぜ、「city gallery 2320」を始めることになったのでしょうか?
向井さん  僕はもともと元町や大阪の西天満など、何度か場所を変えながら26年ほどギャラリーを運営していました。でも2005年に西天満のギャラリーを閉めてからは、しばらく美術の世界からは離れていて。ある時、兵庫県立美術館の学芸員の方が「シティギャラリー」についてインタビューに来られたんです。「シティギャラリー」とは、僕が元町ではじめた画廊の名前。その出来上がった冊子(※)を読んだ時に、もう一度してみようかと思ったんです。ギャラリーの昔話をしていていいのか?今ならお金をかけずに長く続けられる自分らしいギャラリーができるんじゃないか?って。それが2017年3月の話です。

(※) 兵庫県立美術館研究紀要12号:江上ゆか「シティ・ギャラリーについて―向井修一氏インタビュー」

 

- 路地中のこの場所を選ばれた理由は?
向井さん  実はこの隣が僕の自宅なんです。この建物は築60年ほどの木造2階建てのアパートで、改装前はこれまで収集したアート作品の倉庫として使っていました。丁度、長く貸していた隣の1棟も空いたので、作品の分別をしながら隣の2階に作品を移動させて、1棟丸々をギャラリーにすることにしたんです。自分の持ち家なので賃料もかからないし、手も加えられますしね。

 

- リノベーションはどのように進めていったのですか?
向井さん  まずは、丸五市場で居酒屋「今井やん」を営む今井義延さんに相談に行きました。彼は自身の店の内装を手作りしているんですよ。僕がギャラリーを手作業で改修して作っていきたいと話したら、快く手伝いを引き受けてくれて。僕はこれまでものづくりをしたことがなかったので、心強い助っ人になってくれました。

4月から工事に取り掛かり、平日の昼間に週3日ほどのペースで作業して、完成したのが8月。延べ150時間くらいをかけ、電気工事以外は全て自分たちで作り上げました。

- 材料はどうやって調達されましたか?
向井さん   ここで使っている材料のほとんどは、地元のホームセンター「アグロガーデン」で購入しました。アグロガーデンでは木材のカットをしてもらえるし、運搬用のトラックも貸してもらえるのでかなり重宝しましたね。
1階の壁面にはカットしてもらったコンパネを張り、床には杉材を敷き詰めました。2階の床には、コンクリート型枠用の合板を使用しています。この合板は軽くて丈夫だし、オレンジイエローのウレタン塗装がされていて、程よい光沢があるので気に入っています。

- 作業をする中でしんどかったことはありますか?
向井さん  1階床面の塗装ですね。杉材を使用しているのですが、木目がはっきりしていて、作品鑑賞のじゃまをすると思ったんですよ。だから白色塗装をすることにしたのですが、ただ白く塗るのではおもしろくないと思ったので、木目がうっすら感じられるように塗装しました。白色塗料を塗ってはタオルで拭き取るを繰り返すんです。この作業が地道で大変でしたね。

 

- この建物でお気に入りはどこですか?
向井さん  ギャラリーに似つかわしくない照明を使っているところですかね。ギャラリーというとスポットライトを使うのが一般的ですよね。でもうちは全てLED電球を使用しています。省エネはもちろんのこと、光の色温度を調整できるので、展示作品によって雰囲気を変えることができるんですよ。ただ、スポットライトじゃない分、照明の位置を気にする必要があるので、位置調整ができるように照明器具の電気ソケットを計14個取り付けてもらいました。この電気工事は地元の電気屋さん「アトム電器」にお願いしました。これも僕のこだわりで、安さより地元の方にお願いしたかったんです。だから資材もアグロガーデンで揃えましたし、脚立や工具は本町筋商店街にある「カギのヤマモトヤ」で購入しました。

- ギャラリーを運営する上でこだわっていることはありますか?
向井さん  ギャラリー側として作家に制限を加えないようにしています。作家が空間に求める要望に関しては可能な限り答えようと思うんです。だから10月に開催した「倉重光則展」では1階壁面に作家が直接絵を描いたり、11月の「吉田延泰展」の際には作品に合わせて壁を真っ青に塗ったりしました。展示によってこのギャラリー自体が変わっていくのも面白いと思うんですよね。
あとは、展覧会期間中に、作家に話をしていただく機会を設けるようにしています。お客さんには作家との対話を通じてより密に作品を体験してもらいたいと思っていて。基本的には展覧会初日にオープニングパーティを作家に企画してもらっています。近所には友人が運営するレンタルスペース「r3(アールサン)」があるので、イベントの時には使用させてもらったり。
それと、うちでは展覧会をする際に作家ごとに作品集を刊行するようにしています。最近は作品集をweb上でアーカイブしていくことが多いですが、僕はやっぱり手にとって見ることができるリアリティさを大事にしたいので、冊子で記録しています。展覧会が終わってもモノとして残りますしね。

 

- ギャラリーの今後の展開を教えてください
向井さん  ギャラリーをオープンすると決めたときから、長く続けることを目標にしているので、これからも年に10本、夏休みを2ヶ月間とって、1ヶ月に1本のペースで展覧会を企画したいと思います。三ノ宮や元町などの都市部に比べてアクセスは良くありませんが、影響力のある展覧会を開催できれば、自ずと人は来てくれると思うんです。だから僕はこのギャラリーに腰を据えて、作家、作品、そして来てくれたお客さんに精一杯に向き合っていきたいですね。3月以降の展覧会も続々と決まっていっているので是非お越しください

建物について

物件概要 木造2階建アパート
かかった日数 4ヶ月間(150時間)
改装費 160万円

次回展覧会:岩澤有徑 展

期間:2019年03月09日(土)~24日(土)
時間:12:00 – 19:00  [休:水・木・金]
■ オープニングイベント
日時:3月9日(土)18:00-
18:00 -18:50 / 岩澤有徑 vs.向井修一の対談
19:00 -19:15 / eri-koo <パフォーマンス>+岩澤有徑<movie + sound>
場所:レンタルスペースr3
料金: ¥1000 (1ドリンク付き)

 

 

city gallery 2320(シティギャラリー 2320)
長田区二葉町の住宅街に佇むギャラリー。企画展を中心に月に1本(2〜3週間)展覧会を開催。
住所:神戸市長田区二葉町 2-3-20
12:00 – 19:00 [休廊: 水・木・金]
URL:http://www.citygallery2320.com